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高齢者を地域で支える「地域包括ケアシステム」は、「大いなる自己矛盾」にも見えます -「賢人論。」第105回(中編)武内和久氏

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一人暮らしの高齢者サポートに最新テクノロジーを取り入れよ

みんなの介護 家族や近隣住民に金銭を給付して介護をお願いするというのは、大胆かつ画期的なアイディアだと思います。武内さんは、他にもいろいろとアイディアをお持ちのようですね。

武内 私は最近、「孤を味わう」というキーワードを提唱しています。孤独の「孤」、すなわち、一人でいることをもっと楽しむべきだということです。

医療にしろ、年金にしろ、日本の社会保障制度はいつまでも「世帯」を基準に考えがちです。介護に関しても、「要介護になった高齢者に家族がいる」という前提で物事が考えられている。

しかし、これからはもう、そんな時代ではありませんね。結婚するかしないかは個人の自由だし、あえて一生独身でいることを選択する人も急激に増えています。また、夫や妻に先立たれて一人暮らしになる高齢者も多い。だとすれば、社会保障制度も今後は「世帯」ではなく「一人」を発想の原点に置くほうが理にかなっています。

みんなの介護 そういえば、“おひとりさま”という言葉も、すっかり市民権を得ているようですね。

武内 孤独の「孤」というと、さびしいイメージがつきまといますが、誇り高い孤独というものもあります。「孤立」とは異なります。私の母は81歳、福岡一人暮らしですが、介護サービスも使いながら、一人で暮らしていますね。ちなみに、私の地元である福岡市は、全国に20ある政令指定都市の中で、高齢者独居率、集合住宅率が最も高いレベルにあるそうです。

これからは一人暮らしの高齢者が増え続けていく時代ですから、社会全体としても、それに対応したサービスをもっと開発していかなければなりません。たとえば、今年の前半、金融庁の老後資産2,000万円問題が物議をかもしましたが、今後は一人暮らしの高齢者でも運用しやすいような、老後資産形成用の金融商品も必要になるかもしれません。

また、高齢者の一人暮らしを支えるには、テクノロジーによるサポートが不可欠でしょう。たとえば、各種センサーを駆使した見守りサービスは絶対に必要だし、高齢者の買い物や通院をサポートする、ある種のモビリティー・配送システムの開発も不可避でしょう。

あるいは、高齢者の孤独を癒やすコミュニケーション・ロボットのニーズも高まるかもしれません。

長い「おひとり」期間を前提として仕組みを制度・サービスの両面で考えていく時代に入りました。

みんなの介護 介護関連の人手不足が解消されない以上、テクノロジーで代替できる部分は、ある程度テクノロジーでカバーするしかありませんね。

武内 私がいま注目しているのは、八王子市にある北原国際病院が政府の「新技術等実証制度(規制のサンドボックス制度)」を利用し、NEC日本電気株式会社などの協力を得て、「デジタルリビングウィル」の実証実験を始めていること。

「デジタルリビングウィル」とは、顔・指静脈・指紋といった本人確認のための生体認証とセットで、自分が意識を失ったときにどんな治療をどのように受けたいか、延命治療や臓器提供の意思を含め、デジタルデータとして病院に事前に登録しておくシステムのようです。

この登録を済ませておけば、身寄りのない一人暮らしの高齢者が意識不明で救急搬送されたとき、生体認証で本人確認を行ったうえで、自分が受けたい医療を適切に受けることが可能になります。

みんなの介護 なるほど。一人暮らしのお年寄りが意識不明で救急搬送された場合、病院側は治療方針が決められずに困惑する、という話をよく聞きますが、デジタルリビングウィルの登録が広く普及すれば、本人の希望する医療がすみやかに受けられるわけですね。

武内 北原国際病院では、デジタルリビングウィルを登録した患者さんのデータを一元管理して、健康管理やオーダーメイドの医療提供、さらに買い物など日常の困り事にも対応する「トータルライフサポートサービス」も始めています。

先ほど、「これからは介護施設や医療施設が地域のプラットフォームになる」というお話をしましたが、そのわかりやすい一例がここに見られると思います。

こうしたデジタル面での医療介護のプラットフォーム化は、中国などに比べると、日本は愕然とするほど、遅い。日本こそが、それをリードすべきなのです。

地域包括ケアで重要なのは、お年寄りの生活を支える「プライマリ・ケア」

みんなの介護 その他、わが国が地域包括ケアシステムを推進していくうえで、どのようなことが必要になってくるでしょうか。

武内 地域包括ケアの中核を担う医療として、プライマリ・ケアが必須です。すなわち、家庭医として、高齢者の日常的な健康管理に加え、体調が悪化した高齢者を総合的かつ継続的に診断・治療をするためには、広角で複眼的な視野を持つ総合診療医の存在が欠かせません。そこで、これからの医学教育には、良質な医師、現在の制度では総合診療専門医を数多く育成することが求められるでしょう。

また、個人的には、以下の3点はもっと加速と強化が重要だと考えています。1点目が在宅医療の拡大、2点目が薬剤師の有効活用、3点目が予防歯科の推進です。

みんなの介護 1つずつ、解説をお願いします。

武内 まず在宅医療。この調子じゃ間に合わない。急がないと!という危機感を持っています。

すべての高齢者が病院施設に入居できるわけではありませんから、緩和ケアやターミナルケアを含め、在宅で療養を受ける高齢者が増えていきます。

現場を見ると、病棟でドンと構えて、最新の機器を使って治療を施す、医療介護ヒエラルキーの頂点にいるお医者さんが、在宅医療に、大量に、すんなり入っていけるか。医師には、いままで以上に多職種のコミュニケーション能力、変化を察知する能力が求められるようになる。まだまだ在宅特有の診療能力や経営能力までの力を育む環境は十分ではありません。医学部教育を含め、意識や能力の変化をどうフォローしていくかが重要になります。

2点目は、薬剤師の有効活用です。個人的に勿体ない!と思っています。現在、薬剤師として登録されている人は、男女合わせて約30万人。この人たちはわが国の貴重な医療人材であり、医療資源であり、大きな財産です。

しかし現状では、これらの人々を有効に活用できているとは、とてもいえません。「モノからヒトへ」という旗は振られているが、まだまだ。世界を見ても、日本の薬剤師ほど能力が封印されている例はない。厚労省の制度改革の力学を思うと、薬剤師・薬局行政へのビジョンが薄すぎる。

調剤薬局であれだけ多くの大切な人材が薬のやりとりをしているのではなく、もっと外に出ていって市民や高齢者に適切な服薬指導を行ってもらうなり、薬を処方しすぎる医師に意見してもらうなり、やってもらうべきことはもっといろいろあるはずです。薬局の機能はもっと地域のヘルスケア拠点として拡充できるはずです。そこは官民で考えていかないと。

みんなの介護 そうですね。確かに、「日本は薬剤師後進国で、医療現場における薬剤師の立場が弱すぎる」という話を聞いたことがあります。

武内 そして3点目が、予防歯科医療の推進です。今日、予防医学の重要性が喧伝されていますが、すべての予防が本当に有効とは言えない。遺伝的体質や生活環境は人それぞれ違うのですから、万人に有効な予防医学などあり得ません。

そんな中、万人に有効性が高い予防医学は予防歯科医療です。歯はある日突然重度の虫歯になることも、歯が抜けることもない。ステップを踏む意味で、予防が見えやすいし、因果関係もつかみやすい。特に高齢者の場合、認知症予防なども意味も含め、口腔ケアが極めて重要だとはっきりデータに出ているわけですから、急ピッチで行うべきです。

先手を打って、すべての国民に予防歯科医療を推進する。この分野を新たに保険適用するのか、あくまで自費か、しっかり検討するなどして、子ども時代からの受診とメンテナンスを義務づけるべき。

健康診断でもチェックされない現状はおかしい。それが将来的に、日本国民の健康寿命の延伸、認知症の予防、要介護者の減少、医療費の抑制へとつながっていくはず。今こそ国策として、歯科医療行政にがんばってもらいたいです。

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