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高齢者を地域で支える「地域包括ケアシステム」は、「大いなる自己矛盾」にも見えます -「賢人論。」第105回(中編)武内和久氏

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厚生労働省が「地域包括ケアシステム」の推進を明確に打ち出したのは、2012年の改正介護保険法から。「高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスを切れ目なく提供する」と謳っているが、改正法施行から7年が経ったいま、システムが有効に機能していないとの声もある。かつて、この法律を施行する立場だった武内氏に、このシステムへの現状認識について聞いてみた。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

失われた「地域の介護機能」を、行政がもう一度再生しようとしている

みんなの介護 厚生労働省は2012年から、地域包括ケアシステムの構築を推進しています。地域包括ケアシステムは、医療や介護が必要だったり、一人暮らしだったりする高齢者が、住み慣れた町でずっと暮らし続けられるよう、地域全体で支えていくシステムですね。厚労省OBである武内さんは、この試みをどのように見ていますか。

武内 この方向性は時代の要請です。同時に、巨視的な見方をすればある種の“先祖返り”に見えて仕方ありません

わが国にはそもそも、お年寄りや子どもたちを地域全体で見守るシステムが、古くから自然発生的にありました。

そのシステムが崩壊したのは、逆説的にいえば、わが国の福祉行政がそれだけ拡充していったから。小さな子どもたちの世話は保育所や学童保育などのプロに“外部化”され、お年寄りの世話も老人ホームや介護施設などのプロに“外部化”されたため、それまでその地域で育んできた子どもやお年寄りを見守る力が急激に失われてしまった面があります。

言ってみれば、外食ばかりを続けるうちに料理を忘れてしまった人、のようなものでしょうか。

そうやって、福祉行政・制度で地域の見守りや互助という“地域の力”を弱めてしまった面がある。今度は施策でそれを仕組みとして再生させようとしている。専門分化や制度化というものを進めることが、結果的に地域の紐帯を弱くするという矛盾。制度を作り、動かす者として、この「大いなる自己矛盾」にも思いを致す必要があります。

いったん壊れかけたものを再生することは、そう簡単な道のりではない。ただ、「地域包括ケア」を掲げることで、職種間の連携、情報共有が着実に進んでいる、そのパラダイムの転換には成果を上げてきていると考えます。

みんなの介護 なるほど。いままで福祉行政を取り仕切る側だった武内さんの発言だからこそ、説得力がありますね。では、重ねてうかがいます。地域包括ケアシステムをうまく稼働させるには、どうしたらいいでしょうか。

武内 既に色んな切り口で進められています。私なりの視点で加えるとすれば、まず1つ目が「家庭介護」。家族介護ではなく家庭介護です。

「在宅介護をしている家族が損をする」状況が生まれている

みんなの介護 家族介護ではなく家庭介護とは、どういうものでしょうか。

武内 要介護者を家族が在宅で介護する場合、わが国の介護保険制度では、家族の行うサービス対価に金銭は給付されません。この点については、介護保険を導入するとき、大きな議論を呼び、家族への金銭給付は見送られましたが、財政的な問題、「家族なら扶助し合う、それが日本の美風」という理由も、あるいはサービスの質を確保するという理由もあったでしょう。

しかし、この家族給付について、議論し直す時期に来ているんじゃないかと思います。というのも、即物的な言い方をあえてすれば、「家族が在宅介護している家族ほど損をしている」という状況が生まれているからです。

今、自宅で高齢者を世話されている方は、いろいろなものを犠牲にしている現状がある。仕事を辞めざるを得なかったり、休みがちになったり、友だち関係を犠牲にしたり。外から状況が見えない密室の中で、孤立し、親子関係さえ犠牲にしているケースまであります。

みんなの介護 確かに、老老介護しているようなケースでは、悲惨な事件にまで発展する例も少なくないですね。

武内 そうなんです。だからこそ、高齢者を在宅介護している家族にばかり大きな負荷をかける状況は、そろそろ改善されなければいけません。

では、どうするか。例えばドイツのように、在宅介護している家族の行うサービスに金銭を給付する方法もありますね。家族を介護することで金銭が給付されるのであれば、介護離職したせいで経済的に追い込まれるケースも改善されるでしょう。その選択の余地はあってもいい。

あるいはフィンランドのように、「家庭介護」を認めてもいいですね。

先日、フィンランドに視察にいってきましたが、あちらではユニークな介護制度が導入されていました。要介護者の家族への金銭給付があるのですが、給付対象には家族だけでなく、近所の他人も含まれると聞きました。

「遠くの親戚より近くの他人」ということわざがありますが、その発想ですね。ご近所のお隣さんを「介護者」として事前登録しておけば、ご近所さんが高齢者を散歩や買い物に連れていったり、食事を用意したり、掃除・洗濯をしてあげたりと、何らかの生活支援を行うたびに、給付金が支給される、そういう柔らかな発想もあるでしょう

今後わが国では、介護分野での人材不足が年々深刻化していきます。だとすれば、家族やご近所さんを介護スタッフとして本格的に活用していくというアプローチをどう大きくしていくのか。家族介護、もしくは家庭介護については、制度設計の論点はありますが、改めて真剣に議論する価値のある課題と考えます。

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