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音楽プロデューサー・佐久間正英氏が語る「音楽業界の危機的状況」

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いい環境でやらない限り気付けないことがある

—やっぱり仕事をするからにはいい仕事をしたい、納得する仕事をしたい、という部分は、音楽業界に携わっていなくても、みなさん共感していただける部分なのかなと思います。だからこそ、やはりこのままでは、先ほどの”理想像”をどんどん実現させるのが難しくなってしまうという実感の中で「この状況を諦めるか」と書いたと。

佐久間氏:それなりの手法があるので出来るのですが、僕の言うのは音楽の文化としての継承や、発展ですよね。例えば、アメリカでもヨーロッパでも、音楽業界の状況は似たようなものだと思うんですけど、音楽をやってきた歴史と背景があまりにも違います。だから今でも向こうのバンドはほっといてもいいことができる。それはお金の問題ではない。

—具体的にはどのような点で違いますか?

佐久間氏:例えば演奏力です。

すでにプロとしてデビューしているバンドならば、認められた実績があるわけで、一定の演奏力、表現力はありますよね。それでもとても足りない部分があるんですよ。それをレコーディングなどを通して、いろんなことを教えていく。

そうするとバンドっていうのは一気に伸びていくんです。レコーディングは、アルバムだったら1ヶ月くらいはかかる。で、その1ヶ月の時間の中にたくさん話すこともできるし、教えることもできる。でも、それが実際には、今のようにコストがかけられなくなると、アルバム1枚を3日で作るとか、5日で作ることになる。その3日の付き合いの中で、どれだけのことを教えられるか、どれだけの関係性を作り上げられるかと言ったら、それはとてもむずかしいですよ。

実はもっといいものが出来るかもしれないし。せっかくいい才能を感じていても、その上澄みくらいまでしか引っ張り出せない。そういうことへの危惧なんです。

僕らみたいなプロが今まで培ってきた歴史、得てきたノウハウが活かされなくなって、若い子たちがどうやって作ったらいいか分かんなくなってしまうことはもったいないことだなと。

ロックバンドの話で言えば、せっかく才能のある、優れている人たちでもアマチュアバンドのまま止まっちゃいます。

録音っていうのは、エンジニア的な、テクニカルな話だけではなくて、楽器を選ぶ、良い楽器と良くない楽器の違いを知ることも重要です。例えば若いバンドをプロデュースしていると、彼らは良い楽器を持ってないわけですよ。そういう子たちに良い楽器を貸したり直してあげたりすると。「こんなに弾きやすかったんだ」って初めて知るわけです。それは経験しないと分からないですよ。初めて良い楽器を手にして、良いアンプで鳴らし、いいスタジオでいい録音状態で聴いて、俺の弾くギターっていうのはこういう音がするのか、とわかる。

それをやらせてあげられる環境がなくなっちゃうと、本当にプレイヤーが育たなくなってしまう。些細なことだけれども一番大事な音楽を作り出す時点のスタート。例えば、ギターのピック1枚、種類を変えるだけで音は全然変わるわけです。あるいは電源ケーブルを変えるだけでも音が変わる。そういうことを伝えて行けなくなる。

でも、その違いに気づけないわけなんですよ。いい環境でやらない限り。そのノウハウというか、音楽の捉え方みたいなものを含めて、伝えにくくなってしまった。

—聴いている側としては、いや、別にそれでもいいんだよ、と言う方もいらっしゃるかもしれないですよね。

佐久間氏:それはそういう文化が育ってしまったということですよね。今回の僕のエントリへの反応を見ていると、昔の音楽は良かったとか、昔のバンドは良かった、みたいな意見も多かった。それはまさにそういうことかなと。音楽が良くなれば、音楽を聴かなくなるってことはないと思う。僕は、ボーカロイドには批判的ではないんですけど。つまらないからみんな、人が歌っているのより、ボーカロイドがよっぽどいいや、ってなっちゃうんです。

そこに関しては、アメリカは圧倒的な歴史や知識の世代間の積み重ねがあります。例えば、僕の親の世代である80から90歳の年代が、ジャズを聴いて踊っていた世代。でも、その世代の日本人は、ほとんどそんな音楽は聴いたことがない。日本では僕らの世代が見様見真似でやっと始まったようなものですから。

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