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どうなる?新幹線長崎ルートの「安全性」 - 中原 岳

4月上旬,筆者は山梨県や長野県を通る「中央本線」の普通列車を乗り継ぎながら,東京から京都へと向かっていた。

松本行きの列車が,もうすぐ駅に着こうとする時だった。者が乗っていた先頭車が突然「ガタン」と何かに乗り上げたように揺れ,同時にパチーンと硬いものが砕け散る音がした。急ブレーキがかかり,列車は緊急停車。「何事か」とキョロキョロ見回す乗客。運転士は車外に出て原因を調べたり,車掌や最寄りの駅と無線で交信したりと,慌ただしく動き回っていた。

しばらくして,原因は線路際で遊んでいた子どもらによる置き石であることが判明した。この事故で列車は20分間停車した後,運転を再開した。

置き石は犯罪行為であり,言語道断だが,在来線には人が容易に入れる場所がいくらでもある。踏切では自動車が立ち往生したり,いたずらで非常停止ボタンが押されたりすることがある。先述した事件のように,人が立ち入って列車の運行を妨害することもある。地上を走る区間が多い在来線では,こうした事件事故を防ぎにくいのが現実だ。

一方,新幹線は通常,全線が高架橋やトンネル,盛り土区間で,踏切がない。また,トンネルを除く区間にはコンクリート製の壁や有刺鉄線付きのフェンスがあるため,人の立ち入りは困難だ。線路内にみだりに立ち入るなどして,列車の運行を妨害した場合には「新幹線特例法」という特別な法律で処罰される。さらに運行システムや車両検査などを通して何重もの安全対策が取られている。

新幹線が高い定時性を保ちつつ,高速運転と安全性を両立できているのは,これらの対策があるおかげだ。



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【写真】東海道新幹線を走るN700系。写真左の道路と線路との間には,背の高いフェンスが設けられている。京都市内で撮影。


ただ,新幹線が在来線と直通する場合(新在直通)は,事情が変わってくる。新在直通の事例として,東北新幹線から分岐する山形新幹線と秋田新幹線がある。

山形,秋田の両新幹線では,在来線の線路幅(1067ミリ)を東北新幹線と同じ1435ミリに改軌して,相互に直通できるようにした。厳密には山形,秋田ともに「在来線」にあたり,多くの区間で地上を走るほか,踏切もある。踏切に視認性の高いゲート型の警報機を設置したり,高架化したりするなど,安全対策も進められているが,新幹線には遠く及ばないのが現実だ。


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【写真】山形駅に到着した山形新幹線「つばさ」。車両の大きさは在来線に合わせ,通常の新幹線より小さめ。



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【写真】山形新幹線が走る在来線(奥羽本線)には,従来型の踏切も残る。


実際に秋田新幹線では昨年6月,列車と軽トラックが踏切で衝突する事故があったほか,先月には列車がクマとみられる動物とぶつかり,35分間運転を見合わせた。無論,こうした事故による遅れは,直通する新幹線区間にも影響する。

新在直通を行う背景には,既存の在来線を活用することで建設費を抑えつつ,利便性を高める点が挙げられる。現在建設中の九州新幹線長崎ルートも同様の理由により,新鳥栖―武雄温泉間で既存の在来線(長崎本線・佐世保線)を利用する。

ただ,長崎ルートの列車は山形,秋田新幹線とは異なり,車両の車輪幅を変えられるフリーゲージトレイン(FGT,開発中)を導入することで,線路幅が異なる新幹線と在来線との間を直通する予定だ。

しかし,ご存知の通り,新鳥栖―武雄温泉間には数多くの踏切があり,高架区間は佐賀駅付近や武雄温泉駅付近など,ごく一部に限られている。

在来線区間のうち,佐世保線肥前山口―武雄温泉間では複線化と同時に高架化を求める声もあるが,佐賀新聞2012年1月12日付によると,佐賀県は「巨額の事業費が必要な高架整備には難色」を示しているという。

現行計画のままでは,在来線区間に踏切や人が比較的容易に立ち入れる場所が存置され,列車の運行を妨げる事件や事故の発生リスクが残ってしまう。肥前山口―武雄温泉間では列車の運行本数が現行の2倍に増えるため,むしろ事故の発生確率が高まる。踏切の改良などの安全対策を行うにしても,どれくらいの費用がかかるの不透明だ。



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【写真】佐世保線肥前山口―大町間の踏切。高架化されなければ,複線化後もこの踏切は残る。


さらに問題なのは,長崎ルートで事故が発生すると影響が広範囲に及ぶ恐れがある点だ。佐賀県などは,長崎ルートが山陽新幹線を経由して新大阪駅まで直通すると説明してきた。別の見方をすれば,新鳥栖―武雄温泉間で事故が起きると運休やダイヤの乱れが発生し,山陽新幹線を利用する乗客にも迷惑がかかることになる。山陽新幹線を運行するJR西日本にとっても,これは好ましいことではない。

正確なダイヤを売りにしてきた新幹線が事故で遅れたり,運休したりするのは,信頼性や安全性を損なうことになってしまう。

FGTは現在開発中で,実用化はまだ先になりそうだ。長崎ルートの新大阪直通自体,実現性の面でとても怪しい。「新在直通」ゆえに,時間短縮効果も建設計画も,何もかもが中途半端な長崎ルートは,やはり「造っても意味がない新幹線」と言わざるを得ない。

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