100円が自動販売機で返却されてしまうワケ

眞鍋:多いのは500円と100円。今年の場合は10円がちょっと多いですね。100円に関しては、少し前になるんですけども、自販機でよく使用できずに返却される時期がありませんでした?
土屋:ありました!
眞鍋:見た目は変わりませんが、長年流通していると、削れて軽くなったり、薄くなったりして、自販機のセンサーに弾かれてしまうのです。それで新しいものに替える必要ができました。
土屋:昭和の硬貨もどんどん少なくなっていますよね。国はキャッシュレス決済を推進していますが、貨幣を造る身としてはどう捉えていますか。
眞鍋:日常生活をどれだけ便利に、快適にするかを考えた時、キャッシュレス決済は必要なものだと思います。ただすべてが置き換わる段階ではまだないと捉えています。
造幣局はメーカー?「国民の皆様はユーザー様です」

眞鍋:なるほど。外国の造幣局では末端の貨幣製造をやめた話などがあるので、政策の選択肢の一つとしてあるかとは思います。ただ、それは通貨当局の話になるので、我々メーカーとしては特段意見を述べる立場にありません。
土屋:造幣局はメーカーという感覚なんですか?
眞鍋:メーカーですね。国民の皆様はユーザー様ですし、シェア100%です(笑)
土屋:本当だ、独占企業じゃないですか(笑)。貨幣はこの先どうなっていくと思われます?
眞鍋:スマホひとつで全てやりとり出来るようになるなどのシステムが普及すれば、ジャラジャラとお金を持ち歩く必要のない世界は来るかもしれません。
土屋:例えば、貨幣が出来た時はどうだったんでしょう。当時は最新だったんですよね。
眞鍋:日本銀行貨幣博物館の学芸員さんの説明を拝借しますが、奈良の平城京をつくる人足を集める際、一人ひとりに一日一枚、一文銭を渡して、使用を推進したという話を聞いたことがあります。流通させたい側の工夫ですよね。
土屋:じゃあ、今の政府が提唱しているキャッシュレス決済も、平城京を造営している時と同じようなことをやっているとも言えますよね。
眞鍋:新しい仕組みを作っているということでいうと、そうかもしれません。
硬貨のフォントやデザインってどうやって生まれるの?

眞鍋:年号部分は、入れる場所が共通です。デザインは基本的には造幣局のデザイナーが作って、それを内部承認して製造にかかります。
土屋:その字には決められたフォントがあるんですか?
眞鍋:巷で言うところのフォントファイルはなく、この部分だけの文字を作ります。
土屋:令和になって、初めてこのフォントに付随する『令』と『和』を作ったわけですね。ということは、『和』は『昭和』と一緒の『和』を使っているということですか?
眞鍋:基本的にはそうです。
土屋:半分で済んだわけですね(笑)。デザイナーさんは、おひとりですか?
眞鍋:複数です。うちのデザイナーの場合は、平面のデザイナーと立体のデザイナーが必要なんです。絵を描く人間と、その絵を元に立体を造る人間が必要です。
10円玉の平等院鳳凰堂、扉が2種類!?

眞鍋:これは話の種になるようなものですが、10円には平等院鳳凰堂の扉が開いているやつと、閉まっているやつがあります。
土屋:本当ですか?どこを見るんですか?
眞鍋:真ん中の扉ですが、本来はすべて閉まってます。しかし、硬貨の中央というのは、当たりやすく、減りやすい。扉の模様が消えると、開いているように見えるんです。
土屋:ハハハ、そういうことか! しかし、この平等院鳳凰堂の細かさは作品ですね。芸術作品を持ってる感じがしてきます。
眞鍋: この10円の鳳凰堂の模様は技術者泣かせです。金型を手作業で造るとお話ししましたが、機械ではここまで細かく出せない。手で仕上げて初めてこの模様になるんです。
土屋:金型はレーザーだけでは作れない。硬貨は日本の技術の誇りですね。
眞鍋:何十年も使ってきていますから、非常に重たいものです。
土屋:僕、1円は切り捨てるという話をしましたが、罰当たりでした。作った人に申し訳ない。こうやって当たり前のように、誰が見ても触っても日本の硬貨だと分かって、使えるということはすごいことなんですね。いつもありがとうございます。
眞鍋:こちらこそいつもお使いいただき、本当にありがとうございます!
