■3回のブームを経て、これからタピオカはどこへ
さて、タピオカブームは今後も続くのでしょうか。
「私は続かないと思いますね。ブームとなって以来、本当の専門店だけでなく、次々に店ができて粗製乱造気味です。本来の味や楽しみ方を伝えきれていない。仕事柄、飲んでみますが、中年男性の私にはさほど感動もありません。若い世代の楽しみにしておきたい気がします」(仕入れの責任者である、中堅スーパーの商品部長)
この人に象徴されるように、中年世代は「若い人向け」と見つめており、入り込まないのです。また前述の国立大学の学生数人からも「続かない」という声がありました。
ひとつ指摘しておきたいのは、タピオカは第三次ブームと言われていること。かつて大ブームとなった「ナタデココ」は一過性で終わったとも言われます。この違いは何か。
「台湾スイーツ」への親近感が一つ理由としてあげられるでしょう。例えば「愛玉子」(オーギョーチー)のような昔から親しまれてきた商品もあった。台湾は旅行先としても人気です。
ナタデココも健在で、再び脚光を浴びていますが、発祥はフィリピンです。ビジネス現場ではアジアを「アセアン圏」「中華圏」という分け方をしますが、同じ東アジアの中華圏の飲食のほうが、日本の消費者には敷居が低い。例えていえば、中華料理店とエスニック料理店の違いといったらいいでしょうか。
味も進化したタピオカは、飲料の世界では「豆乳」に似ています。豆乳も最初のブーム時は「健康にはいいけど味が」と敬遠された。それがおいしくなったのです。
■2011年から販売してきた大手カフェ
現在のブームよりもかなり前、2011年夏から「タピオカメニュー」を取り入れてきた大手カフェがあります。国内で735店(2019年4月末現在)を展開する「タリーズコーヒー」です。発想の原点は、同年に発生した東日本大震災後に国内に漂う、閉そく感でした。

「2011年の春、これから梅雨の時期に入るので、『気分が上向きになるドリンクを販売しよう』という気運が高まり開発したのです。タピオカは水玉がかわいく、ジメジメした気分も吹き飛ばせるという思いでした」(タリーズの女性広報担当)
それ以来、地道に販売してきましたが、ブームを受けて2017年からは「カスタマイズ」としてドリンク価格+100円で提供。すべてのアイスドリンクにトッピングできますが、特に定番の「ロイヤルミルクティー」以外に、「宇治抹茶ラテ」や「マンゴータンゴスワークル」にトッピングするのがおススメだそうです。
■タピオカは「定番」になれるのか
「消費者はどんどん変化する」という言葉があります。長年、取材を続けてきた立場では、「時代とともに消費者意識が変わる」と「同じ消費者が年齢を重ねて意識が変わる」の2つがあると感じます。ここでは後者の話をしましょう。
ファッションがその代表で、容姿や体形の変化で若い頃の衣服が似合わなくなったりする。そうなると多くの人は、加齢とともに、少しずつ好みの服をシフトチェンジします。
飲食の場合もこの傾向が見られます。20代の頃は、カフェの新商品が気になっていた人も、例えばカロリーの高い商品には手を出さなくなる。女性たちに話を聞くと「健康面が心配」と「これまで楽しんだから、もういいかなという気持ち」だと言います。
「タピオカ=若い女性に人気」ですが、同じ消費者が「若い女性」でいられる期間は限られます。今後、定番商品になるには、世代交代を果たすか、消費世代を増やすかになります。
現在の爆発的ブームはいつか終わりますが、ブームによって間口は確実に広がります。その後、どんな立ち位置になるか。芸能界のアイドルでいえば中堅俳優としての道。野球の剛速球投手でいえば技巧派への道——のような転身です。
マーケティングの現場では「不易流行」という言葉も使われます。「不易」は時代を経ても変わらないもの、「流行」は時代とともに変わるもの。「おいしいドリンクやスイーツを味わいたい」が不易、「どの商品が人気か」は流行です。
2019年を代表するヒット商品として位置づけられた「タピオカ」は、どこが不易となり定番化していくのか。今後は、その点も注目したいと思います。
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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト 高井 尚之 写真=iStock.com)