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サイゼでミラノ風ドリアを頼むのはトクなのか

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ゆったりしたソファでフルサービスを受けられる場所

サイゼリヤというお店に対して皆さんはどういうイメージを持っていますか?

真っ先に思い浮かぶのは「低価格」ではないでしょうか。一般的にファミレスは安いというイメージもありますが、実際のところ世の中のファミレスは極端に安いわけでもないです。路地裏に佇む大衆的な定食屋とか、夜の集客につなげるためと割り切って異常にお得なランチを出す居酒屋など、探せば安くてお得な店はすぐに見つかります。

そもそも安さと満足感を追求するならファミレスよりも和風ファストフードに圧倒的に軍配が上がります。特に吉野家を筆頭に牛丼チェーンの安さはもはや異常ですし、カツ丼、天丼、さぬきうどんのチェーンなどもそれに続きます。

そんななか、ファストフードとは違って広いお店のゆったりしたソファに座り、券売機でもセルフでもないフルサービスでくつろげるにもかかわらず、サイゼリヤの低価格は圧倒的です。パスタやドリアは299円からあって、それだけで済ませるなら今となっては牛丼より安くて済みます。それに加えて199円からあるサイドディッシュのチョイスにも事欠きません。

サイゼリヤではほとんどの人がパスタを食べているが…

実際サイゼリヤで店内を見渡すと、ほとんどの人がパスタを食べてますよね。ポテトを仲良くシェアする若いカップル、なんて光景もよく目にしました。名物ともいえる299円のミラノ風ドリアも、もちろん大人気です。

サイゼリヤの平均客単価は730円程度と聞きます。おそらくほとんどの人が安くて500円から高くても1000円を超えないような使い方をしているということになるでしょうか。パスタかドリアもしくはピザにドリンクバー、時にはサイドディッシュも一品つけて、みたいなのがおそらくサイゼリヤの客の基本パターンと言えるでしょう。

ところがそんな基本パターンを全否定する、いやむしろけんかを売るような爆弾発言を聞いたことがあります。昔から食に対してこだわりと造詣の深い、私の知人O氏のサイゼリヤ評はこんなものでした。

「サイゼリヤはパスタやドリアを食べる人たちの財布でうまい塩蔵肉やら気の利いた小皿をつまみに上等なワインをたらふく飲む店だね」

これは極端な言い回しであり、O氏一流の毒のあるユーモアです。しかし、飲食店経営者の視点でこの発言を解釈すると、これは実に的を射た洞察なのです。

パスタやドリアを頼むほどサイゼリヤは儲かる

サイゼリヤのパスタやドリアは確かに安いことは間違いありません。しかし冷静に原価を推定して計算してみると、ちゃんと儲かるようにできているのです。これはむしろ当たり前といえば当たり前。一番売れる主力商品が儲からなければ店としての経営が成り立ちません。

それに比べるとO氏が言うところの塩蔵肉、つまり生ハムやサラミ、意外とそのすごさに気づいている人の少ない粗挽きソーセージなんかは、原価だけを考えるとずいぶん無理をしているように見えます。ワインはさらにそうです。

サイゼリヤは大規模チェーンであり、生ハムやワインも含めてスケールメリットを生かした安い調達をして、パスタと変わらないような利益を出している可能性もなくはないのですが、企業内部の話で、お客さん側が享受する価値の話とはまた別です。

サイゼリヤのパスタは確かに安い。でも生ハムなどのアペタイザーやワインはもっと安い。言い換えると、サイゼリヤはパスタやドリアでしっかり利益を出しているからこそ、高品質なアペタイザーやワインを常識外れの価格で提供することができるということなんです。

「柔らか青豆の温サラダ」は隠れた人気メニュー

先ほどは「極端な言い回し」と書きましたが、私個人としても実はO氏の発言におおむね同意です。実際サイゼリヤに行ってドリアを頼むことはありませんが、アペタイザーは必ず何品か頼みます。スープも外せません。歴代のメニューで見ると、ミネストローネなどの「季節のスープ」かマッシュルームスープがお気に入りです。

状況とタイミングが許せばワインも飲みます。そのうえでおなかに余裕があればパスタも追加しますが、サイゼリヤではデザートを外せないのでパスタを諦めることが多いかもしれません。

数年前、サイゼリヤのこういう使い方を紹介するブログ記事を書いたら盛大にバズったことがあります。そのときに「わたしも普段からそういう使い方をしています!」という報告を思った以上にたくさんいただきました。

またその記事を参考に同じように試して以来それにハマったという嬉しい報告も続々といただいています。それらのなかで特に支持を得たメニューに「柔らか青豆の温サラダ」(199円)がありました。パスタやドリアを中心に食事しているお客さんがこれをオーダーしているのはあまり見たことがありませんが、実はこういう使い方をする人々には超人気メニューなのです。

安いからこそTPOに合わせて自由な楽しみ方ができる

こうした使い方をすると、総額もさすがに1500円くらいはいってしまいますし、パターンによってはもっとになります。告白すると私は一人で3000円を超えてしまったことがあります。明らかに食べすぎですし酒も飲みすぎです。3000円はともかく、こうなるともはやファミレスとして安いとは言ってられなくなるかもしれません。

稲田俊輔『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)

そのかわり満足感は圧倒的です。もちろんたくさん食べたという満腹感だけの話ではなく、ちゃんとおいしいものをバランスよくいろいろ食べられた! という充足感です。例えばこれだけの満足感のある食事を普通のイタリアンレストランで食べたら金額は倍どころでは済みません。それはやっぱり安いと言い切っていいのではないかと思います。

確実に言えることは、730円でパスタやドリアを中心に食事をするマジョリティ層にとっても、1500円で本格イタリアンレストランばりのフルコースを楽しむこだわり層にとっても、それに加えてビールやワインを飲む人々にとっても、サイゼリヤは間違いのない価値を、いつだって提供している素晴らしいレストランである、ということなのだと思います。

一品一品が低価格だからこそTPOに合わせて自由にさまざまな楽しみ方が工夫できる、それこそがサイゼリヤにおける安さの本質と言えるのではないでしょうか。

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稲田 俊輔(いなだ・しゅんすけ)
円相フードサービス専務
鹿児島県生まれ。関東・東海圏を中心に和食店、ビストロ、インド料理など幅広いジャンルの飲食店25店舗(海外はベトナムにも出店)を経営する円相フードサービス専務。メニュー監修やレシピ開発を中心に、業態開発や店舗プロデュースを手掛ける。イナダシュンスケ名義で記事をグルメニュースに執筆することも。ツイッター:@inadashunsuke
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(円相フードサービス専務 稲田 俊輔)

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