相続税を少しでも減らすにはどうすればいいか。かつてビートたけしが孫を養子にしたとき、メディアは「節税対策では」との憶測を書き連ねた。なぜ孫を養子にすると節税になるのか。税理士の井口麻里子氏が解説する——。

なぜ「孫を養子」にすると節税対策になるのか
2006年、ビートたけしさんが孫を養子にした、というニュースが世間を賑わせました。
ビートたけしさんには、実の子が3人いるといわれています。一人は歌手・女優として活躍した北野井子さんですね。
その北野井子さんが若くして産んだ子がいるのですが、その子を養子にしたというのです。北野井子さんは、2004年に結婚し、2005年に女の子を出産。その後、親権を井子さんが持つ形で離婚しています。当時23歳と若かった井子さんの心理的負担を軽くしてあげるため、たけしさんがお孫さんを養子にしたものと推測できます。
が、一方で、相続対策という観点から、「孫を養子にして節税を図ったのでは?」という見方もあったのです。
孫を養子にすることで相続税の節税になる? どういうことでしょう?
ちなみに、たけしさんの財産は100億円とも言われています(『女性セブン』2019年6月27日号より)。これくらいの額になると、養子を一人増やしたところで、さして節税につながりませんので、私はたけしさんが相続対策でお孫さんを養子にしたとは思いませんが、一般的には次のような節税効果が得られるのです。
子供が増えると相続税が減る仕組み
養子をとる、つまりお子さんが一人増えるということは、「法定相続人」が一人増えるということです。法定相続人が増えると、基礎控除額が大きくなり、税率は下がる、という節税効果が働きます。
相続税の計算の仕組みをご説明しましょう。
Aさんの財産が、仮に20億円だったとします。
相続税は、財産20億円から「基礎控除」を引いた後の残額にかかります。
基礎控除の計算式は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」で表されます。Aさんが亡くなったとき、お子さんがたけしさんと同じく3人の場合(話を単純にするため奥様はいないものとします)、法定相続人の数は3人となりますから、基礎控除額は4800万円。ということは、20億円-4800万円=19億5200万円に相続税がかかってくることになります。
ここで、Aさんが孫を一人養子にしていた場合はどうでしょう? 法定相続人の数は4人となり、基礎控除額は5400万円となります。ということは、20億円-5400万円=19億4600万円に相続税がかかってくることになります。
「え、それだけ? たかが600万円のために、お金持ちは養子縁組するの?」と思われた方も多いのではないでしょうか? 実は、法定相続人の数が増えると税率が下がるため、結果的に多額の節税が可能となるのです。
お子さんが3人の場合、19億5200万円を3人で割り、一人当たり約6億5000万円。一人当たりの財産額が6億円を超えると最も高い55%の税率がかかってきます。この時の相続税額は総額で8億5650万円となります。
一方、お子さんが4人の場合、19億4600万円を4人で割り、一人当たり4億8650万円。これに対応する税率は50%となり、相続税の総額は8億500万円となります。
養子を一人取り、法定相続人の数を増やすことにより、国に納めなければならない税金が5150万円も少なくなるのです。
「一代飛ばし」でさらなる節税効果
「一代飛ばしの節税効果」も見過ごせません。
通常、孫がおじいちゃんおばあちゃんの財産を手にするのは、祖父母からその子へ、それからその子から孫へ、と2回の相続を経てからです。
孫養子の場合、それを1回飛ばして孫が受け取れるため、相続税を1回省くことができるのです。ただし、その孫が払う相続税が2割増しになるという特例がありますので、ご留意ください。
2割増しにはなっても相続税を1回省くほうが、多くの場合有利ですので、試算してみるとよいでしょう。