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ヒュッゲ(Hygge)とは何か?――デンマークが幸せの国と言われる理由 - 内田真生 / アダルト・ラーニング

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はじめに

北欧諸国は「幸せ(Happiness)の国」と世界的に認識されている。とくにデンマークは、2012年に始まった世界幸福度報告(World Happiness Report, 2012-2019)で、毎年トップ3にランクインしており、これまで2度(2013、2015年)、世界一幸せな国の称号を得ている。日本は2013年の43位が最高位である。

また、その文化に根付く「ヒュッゲ(Hygge)」が幸せに関係していると世界的な注目を集めている。2016年には、イギリスのオックスフォード辞書が選ぶ「世界の今年の言葉(Word of the Year by The Oxford Dictionaries)」の最終選考に残り、2017年よりその辞書に掲載されている。日本でも様々なメディアで、幸せな生活を送るために着目すべきライフスタイルとして取り上げられている。

しかし、離婚率が毎年45%以上(2018年は46.51%※1)、アルコール中毒や鬱病患者をみかけることが稀ではないデンマークで生活していると、幸せな国といわれていること、その理由であるヒュッゲがブームとなっていることに対する違和感を無視できない。

そこで、最新の幸福度報告(Helliwell et al., 2019)により、デンマークが幸せな国と言われる理由を確認するとともに、ヒュッゲとは何か、またデンマーク人によるヒュッゲと幸せの関係について考察する。

※1 Statistics Denmark:https://www.dst.dk/en

世界幸福度報告でデンマークが幸せの国と言われる理由

「幸せ(もしくは幸福):Happiness」という言葉の定義は多様で一義ではない。デンマークを幸せの国とした世界幸福度報告で、幸せをどのように定義しているのか確認する。

世界幸福度報告は、Ernesto Illy Foundationの協力のもと、国際連合の持続可能開発ソリューションネットワーク(United Nations Sustainable Development Solutions Network)が2012年以降毎年発表している(2014年を除く)、世界157か国の3年間の平均幸福度の不平等さのばらつきを分析した報告書である。この報告では、主に生活評価(life evaluations)、幸せ(well-being)に関する肯定的な感情(positive affect)と否定的な感情(negative affect)の3点について、回答者が主観的に評価した結果をまとめている。

生活評価の測定には、6つの基本変数についてキャントリルの梯子(Cantril ladder)を使用している。これは、考え得る最悪の生活を0、最良の生活を10とし、回答者自身の現在の生活を11段階に当てはめ評価する。使用されている6つの基本変数と確認内容を表1に示す。



国別幸福度の順位は、上記6つの基本変数の各梯子スコアの他、各変数の梯子スコアへの影響度を足し合わせ、その合計値が多い順に並べている。つまり、この6項目の総合ポイントの総計と項目間のつながり度合いの強い国を「幸せな国」と定義している。2019年の結果は、デンマークはフィンランド(スコア7.769)に続き第2位(同7.6)であった。日本は58位(同5.886)であった(図1)。



この結果から、デンマーク人は生産性と人生の選択の自由度が高く、社会的繋がりが強い、他者への奉仕精神のある、汚職のないクリーンな社会で生きている寿命が長い幸せな人々だという印象を受ける。しかし、各基本変数を見ると、必ずしもそうとは言えない。

ポイントの詳細が確認できないためランキング順位での検討となるが、汚職・腐敗のなさ(3位)、社会的支援の存在(4位)、人生選択の自由度の高さ(6位)は世界上位10位に入っているものの、金銭的寛大さは22位、国民一人当たりのGDPは14位、健康寿命は23位という結果だった。健康寿命だけで見ると、日本の方が長い(2位)。

また、この報告では、「幸せ(well-being)」に関する補足変数として、調査前日終日の感情を平均して評価する、肯定的な感情と否定的な感情の調査をしている。肯定的な感情では、「幸せ、笑い、楽しいといった感情があったか」を、否定的な感情については、「悲しい、心配、怒りといった感情があったか」を0から1の間で評価している。

前日に肯定的な感情が占めていた国のトップ3はパラグアイ(総合63位)、ソマリア(同112位)、アイスランド(同3位)であり、デンマークは、24位、日本は73位だった。対して、前日に否定的な感情が占めていた国のトップ3は台湾(総合25位)、シンガポール(同34位)、アイスランド(同3位)であり、デンマークは26位と14位の日本よりも低い(前日に否定的な感情については、国の順位が高いほど、否定的な経験が少ない)。個人の調査前日の状況による質問だが、デンマーク人が平均的に、つねに肯定的な感情で暮らしていないことが読み取れる。

世界幸福度報告は、政治的・経済的にみた資本主義的充実度を幸せと定義、評価した結果であり、個人の感情について定義したものではない。しかし、この報告上の幸せの定義には含まれないが、人間の幸せにつながる活動における幸せな感情は、補足変数にあるように無視することはできない。

デンマーク政府が主張する幸せの理由と実際

世界幸福度報告の結果を受け、デンマーク外務省は自国PRページ※2上で、「幸せは社会的平等と共同体意識に深く関わるものであり、デンマークはその両者を実現した福祉国家である」と述べている。そして「なぜデンマーク人は幸せなのか?(Why are Danish people so happy?)」と題し、デンマークが福祉国家である4つの理由を挙げている。PR用ではあるが、デンマーク人が主張する幸せであることから、この内容を確認していく。

※2 デンマーク外務省:https://denmark.dk/people-and-culture/happiness

理由1:高額な納税に基づく福祉システムの充実

デンマーク政府によれば、デンマーク人の多くが「人は可能なかぎり労働するべきであり、公益のために納税する義務を果たすべきである」と確信しているという。そして、25%の付加価値税(VAT)や150%の新車の車両登録税といった高額な納税により、人々は充実した社会的支援を受けられるとしている。支援事例には、医療費の大部分が無料、大学の学費無料、育児助成金の支給、高齢者の年金支給とヘルパーの無料自宅派遣の他、社会セイフティー・ネットが確立されており、若年者、年配者および病人を支援するだけでなく、就職支援として失職者に最長2年間の失業保険の支給がある。

実際には上記以外にも、公立の就学前クラス(1年間)と初等および中等教育(9年間)の学費無料等がある。これらの社会的支援は、CPR番号※3と呼ばれる国民識別番号を保有していれば、永住権を持たない外国人にも適応される。また、デンマーク在住3年半未満のCPR番号を保有する外国人であれば、5年間のデンマーク語学習支援を受けられる。提携校の授業料と語学習得試験料の一部を負担してもらえるこの支援は、2018年1月以前は、学習開始後3年間は全て無料だった。

これら多数の公的支援を維持するためには、相当の税収が必要になることは言うまでもない。デンマーク統計局のデータ※4を確認すると、成人(18歳以上)人口および租税額(taxes and duties)は2008年以降2018年まで上昇傾向にある。この10年間の成人一人当たりの納税額も上昇傾向にあり、一人当たりの税負担が年々大きくなっている。

また、デンマークの税率は年間収入によって異なり、給与所得や社用車への課税は3段階に分かれる。年間収入0~46,200DKKは8%、それ以上では自治体によって異なり、コペンハーゲンの場合、年間収入46,200~558,043DKKは41%、年間収入558,043DKK以上は56%である(Deloitte, 2019)。収入の大きい者がより多く納税負担を強いられるシステムとなっている。

日本から見ると、デンマークは税負担が大きいが、ライフワークバランスを実現している印象が強い。2018年の1人当たりの年間平均労働時間を見てみると、OECD平均で1734時間、日本は1680時間に対し、デンマークは1392時間と短い(OECD, 2018)。

しかし、全デンマーク人の労働時間が短いわけではなく、年間収入額が高い高額納税者ほどハードワーカーであり、ライフワークバランスなど無いに等しいことも多い。これは企業のマネージャー以上、とくにマネジメントレベルの人に見られ、帰宅後も家族との食事、団欒、家事の後や、長期休暇中の滞在先で仕事をしていることもある。そのため、自分自身や家族との時間を優先することを理由に、プロモーションを断る者もいる。

デンマークでは、長時間労働をすればその分給与に反映されるということはない。ポジションが上がるほど責任や負担が大きくなるため高額な給与を得られるが、結果を出さなければ何時でも解雇される。

その一方で、難民としてデンマークに移住し、納税額が低いものの、社会的支援により生活が保障され、自国では不可能だった教育を受けられる人々もいる。そのため、税金の負担額が年々増える高額納税者の中には、自分たちの社会的負担の大きさに対し不満を持つ者もいる。【次ページにつづく】

※3 CPR番号の取得には、デンマークに3か月以上滞在し、EU外市民であれば居住許可を持ち、実際に共住する住処と有効な住所があることが必須である。

※4 Statistics Denmark:https://www.dst.dk/en

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