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【読書感想】日本の戦後を知るための12人 池上彰の<夜間授業>

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 田中角栄さんが権力の頂点にあった時代には、少子高齢化がここまで進み、人口がどんどん減っていく日本、というのを想像していた人は、ほとんどいなかったはずです。僕も子どもの頃は、1999年にノストラダムスの大予言のように人類が滅亡するか、人口が爆発的に増えていって、飢餓が拡大して地球は満員になってしまうと思っていました。

 人間は、いろんな方法で未来を予想しようとするけれど、半世紀先のことでさえ、正しく予想することはできない。

 僕が子どもの頃の予想が正しければ、今頃はスペースコロニーに住んでいる人が大勢いるはずでした。

 地方の発展を促すためだった新幹線は、かえって、日本全体の人口が減っていくなかで、東京への一極集中を生んでいるのです。
 
 ちなみに、小泉純一郎さんの回では、池上さんはこう仰っています。

 いま、彼(小泉純一郎さん)には裏表がないと言いましたけど、彼の強みは、政治献金の類を一切受け付けなかったことです。よけいな陳情も飯島秘書官に全部断らせました。それを続けるうちに有権者も「ああ、小泉さんはそういうものを受け付けないんだ」と学習します。有権者に媚びないでいると、それが有権者教育にもなっていくわけです。

 彼にそれができたのは、なんといっても三世議員だったからでしょう。彼は純也さんの息子であり、純也さんは戦前の逓信大臣・小泉又次郎の女婿です。これだけの家系に生まれると、地盤・看板・カバンの三つとも、すでに備わっているので、苦労して資金集めをしないで済むのです。その反対の例が田中角栄さん。徒手空拳でのし上がってくる際には、時に無理をしてでも金を集めなければいけません。その無理が祟って「総理の犯罪」に手を染めてしまったのです。

 もちろん、理屈としては「徒手空拳でも、クリーンな方法でのし上がることだって可能」ではあります。

 でも、それはかなりハードルが高い。

 東大生は親の収入が平均より高い、というのと同じこことで、スタート時点の格差をひっくり返すのは難しい。

 「田中角栄のような政治家」を待望する声が少なくないのですが、「クリーンであること」を大前提にすると、「小泉純一郎さん(あるいは、その子どもである進次郎さん)のように、銀のスプーンをくわえて生まれてきた人」のほうが、政治家として成功しやすいのは間違いありません。

 「清廉潔白で仕事もできる政治家」がいちばん良いのはわかりきっているのですが、欲望とかバイタリティというのは、「仕事にもその他の面にも」万遍なく発揮されることが多いものではありますし。

 池上さんは、長年記者として政治家や経済人を取材してきたこともあり、実際にその人物に接した印象やその時代に経験したことを語っています。

 池上さんが村上世彰さんと『伝える力』という著書がきっかけで会うようになり、池上さんのすすめで『生涯投資家』(文藝春秋)を書いたというのは、この本を読んではじめて知りました。
 取材者としての知名度からいえば、当たり前のことなのかもしれませんが、本当に池上さんはいろんな人に会っておられるのです。

 池上さんも仰っているように『生涯投資家』を読んで、村上さんという人、あるいは、投資家という仕事へのイメージが変わった人も多いのではないかと思います(僕もそうでした)。

 リクルートの江副浩正さんの回では、こんな述懐もされています。

 じつは、メディア関係者まで未公開株をもらっていたと知って私は考えてみました。もし自分だったらどうしただろうか?

 たしかに、文部省を担当していたときは日本リクルートセンターの広報の人たちと非常に仲良くなり、届けられたサツマイモを記者仲間で分け合いました。あれくらいはいいかも知れない。だけど、もし江副さんと面識ができて、私に未公開株を持ってほしいとオファーがあったらどうしたでしょう。私には職務権限はありません。もちろん記者のモラルには反するとしても、法律に反することではないのです。さあ、そのときに、果たして自分はきっぱりと断れただろうか?

 それ以降、いろんな人に取材をし、いろんなところを取材しましたけど、リクルート事件があって以後は、プレゼントなどの誘惑からは一歩距離を置くようになりました。事件をきっかけに、そうやって自分を律するようになったのです。

 こういう話を読むと、「不正」とか「モラルの破綻」というのは、ちょっとしたきっかけ、「このくらいだったらいいか」とか、「みんながもらっているなら、自分も許されるだろう」というところから起こってくるのだな、と考えさせられます。

 池上さんも、「もし未公開株をもらえる機会があったら、断れただろうか?」と自問しておられるのです。

 池上さんはリクルート事件を契機に、リスクを再認識されたのですが、あの事件の前に、深く考えもせず、「このくらいだったら」と、つい受け取ってしまったばかりに、罪に問われて一生を台無しにするようなケースもありうるのです。

 こういうのって、日ごろの心がけの差はあるとしても、「運」みたいなものもあるのかもしれません。
 
 日本の戦後を見つづけてきた池上さんならではの視点も込められた、興味深い人物論だと思います。

fujipon.hatenadiary.com

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