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「メディアvsトランプ」2020年、米大統領選挙 NY在住の津山恵子氏が講演 - 中西 享 (経済ジャーナリスト)

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米国のメディア事情に詳しいニューヨーク在住のジャーナリスト津山恵子さんが日本記者クラブで、「トランプ政権と対峙する米メディア NYからの報告」と題して講演した。「来年の米大統領選挙報道の舞台は100%デジタルになる。候補者はツイッターやフェイスブックなど、どれだけソーシャルメディアに露出したかを競い合っている。

そういう中で、ウクライナゲートとトランプ大統領弾劾の行方が注目されるが、フェイクニュース、フェイクニュースの動画版ともいえるディープフェイクなどの偽情報が有権者をだます状況が生まれることが心配される」と述べ、20年の大統領選挙は波乱が避けられないとの見方を示した。

FOX一人勝ち

つやま・けいこ 共同通信経済部記者を経て2007年に独立。以後フリーランス記者としてニューヨークを拠点に活動、08、12、16年の大統領選挙を取材した。現在は、「アエラ」「ビジネスインサイダー」などに執筆。19年4月に「現代アメリカ政治とメディア」(東洋経済新報社、前嶋和弘、山脇岳志と共著)を出版。東京都出身。

大統領選挙があと1年後に迫る中で、政党別のメディアに対する信頼度を18年時点で比較すると、民主党支持者は76%が信頼しているのに対して、共和党は21%しかなく、大きな開きがあり、このギャップは16年の選挙を境に拡大してきている。「分断化」については、メディアがあおっているというよりも、視聴者の側が分極化してきているのではないか。

主要なメディア報道が「右寄り」か「左寄り」かをみると、「ニューヨーク・タイムズ(NYT)」や「CNN」などリベラルに寄ったメディアの数の方が多い。右よりは「FOXニュース」、「ブライトバート」などがあるが、保守系ニュースを供給するメディア数は少ない。

そういう中で2000年代の前半からFOXの一人勝ちが続いており、いまもトップだ。いまは「MSNBC」が頑張っているからそれほどでもないが、数年前までは、CNNとMSNBCの視聴率を加えても、FOXの方が多かったほどだ。

団結して大統領に対抗

トランプ大統領とメディアの対立が激化したのは、18年の中間選挙報道の際にホワイトハウス詰めのCNN記者が、大統領会見でルールを破った、とされることなどが理由で記者パスをはく奪される事件などが起きてからだ。

そうした中で、大統領を取材するメディアは記者同士が団結して大統領に対抗しようとしている。ホワイトハウスの記者会見やぶら下がりでは、一人の記者が続けてフォローアップ質問はできないしきたりになっているが、いまではライバル記者がフォローアップ質問をするなどして、記者同士が協力しながら大統領に対峙しようとしている。

この1年は大統領の報道官のブリーフィングもなくなり、大統領が時々行うぶらさがりで質問し、大統領専用機エアフォースワンに乗り降りする瞬間に大統領に大声で質問して聞きだすのが精一杯の状況になっている。こうした米国メディアのホワイトハウス詰めの記者の苦労ぶりを聞くと、髪の毛も逆立つくらいつらい思いをしているのだと思う。

NYTimesのデジタル版が絶好調

新聞メディアが苦戦している中でニューヨーク・タイムズ(NYT)のデジタル版の購読者数が今年の第2四半期末で378万人にまで伸びた。この数字は新聞紙の購読者のピークだった110万部の3倍以上で、現在、紙とデジタルを合わせると470万部になる。

NYTのトンプソンCEOは25年までにデジタルだけの購読者数を1000万人にすると発表している。これを達成するためには、毎四半期ごとに20万人の純増が必要だが、今の四半期は10数万人しか増えていない。しかし、20年には大統領選挙があるのでニュースに対する需要が増えるし、グローバル戦略を合わせて進めれば達成できるかもしれない。

売上は5%伸びており、収入の内訳をみると、広告と購読の比率を見ると広告が4割に対して購読が6割と購読が上回っている。またデジタル広告も13.7%増と順調に伸びており、デジタル時代の勝ち組と言える。

また「ワシントン・ポスト」もデジタル購読者数が170万部と2年前の100万部から大幅に伸ばしている。ポストの業績が改善したのは、アマゾンのCEOである、ジェフ・ベゾスが自己資金で買収したことによるものだ。ベゾスがオーナーになってから、デジタル投資を増やし紙からデジタルへの方向転換がうまく行った。

その一方で、ロサンゼルス・タイムズやシカゴ・トリビューンなどは部数減に苦しんでいる。ロスタイムズは部数が9分の1にトリビューンは5分の1にまで激減。その中で、ボストンのローカル紙のボストン・グローブがローカル新聞として初めてデジタル購読者数が紙を上回った。

このほかUSAトゥデーがデジタル一本化するなど、メディアのデジタル化の流れは続いている。一部のデジタル専門メディアがリストラを発表したりしているが、その一方で新規に記者を採用しておりそれほど問題にはなっていない。これからはデジタルが主流と考えていかないと、メディアの経営は大変になるのではないか。そういう意味で、NYTとワシントン・ポストの成功は新聞業界では稀有な例だ。

前回選挙の反省

米国メディアは前回16年の大統領選挙でクリントン氏が勝利すると予想したにもかかわらず、トランプ氏が勝利したことを反省しており、20年の選挙ではその失敗は繰り返さないように、もう準備が始まっている。

NYTは20年の大統領選挙に向けてCNNと組んで民主党候補者の討論会のホストを務めることになった。メディアが討論会のホストをすることで、視聴者に対してどういうアンカーを使って、どういったスタンスで報道したかを示すことにより、メディアとしての信頼を回復しようとしているのではないか。ほかの大手メディアも同様に大統領選挙の討論会のホスト役を買って出ている。

また「ABC」、「CBS」、「NBC」などは、リストラされた地方のメディアの記者を積極的に採用している。彼らには地方在住の強みを生かしてもらい、地方の声を取材してもらうことを期待している。なぜなら、前回選挙で大手メディアは、大統領選挙活動について回るだけの取材、あるいは支局のある大都市だけの取材をしてきたために有権者の真の声を取材できていなかったという苦い教訓があるからだ。

20年の大統領選挙の舞台はデジタルになるのは間違いない。候補者はソーシャルメディアを活用して露出度をアップすることを最大限心掛けている。これは前回の選挙でトランプ大統領がその作戦で成功したからだ。

ディープフェイクの登場

しかしデジタルメディア時代になり危険なこともある。それは偽の情報によるフェイクニュースに加えて、偽動画を使ったディープフェイクと呼ばれるものが登場してきているためだ。これはビデオを再生するときに、ビデオを改ざんして、他人が言っていることを本人でない人物に発言させる手法で、例えばトランプ大統領のビデオを改ざんして、民主党有力候補のバーニー・サンダースを評価する発言をさせたりすることも可能になるという。

一方、取材するメディア側もこうした偽情報や偽ビデオにだまされないように対応策を取ってきている。ウォールストリート・ジャーナルは現場の記者がディープフェイクを見分ける訓練を行っているそうで、記者も本物か偽物かを見分ける技術も要求されてきている。

編注、津山さんがプレセンターで講演したのは10月28日。

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