記事

日本で宗教のイメージが悪い理由

1. はじめに

日本では全体的に宗教に対してネガティブイメージが持たれている事に同意する人は多いだろう。その理由を説明する上で「戦後の宗教へのタブー視」に触れる事は多い。それも当然大いに関係あるのだが、ここでは特に、オウム真理教が一連の事件を起こした後の「カルト」の強調、そこから繋がる「宗教全体のイメージ悪化」の原因を考えてみよう。結論を先取りしておくと、筆者はその理由がマスコミと大学が持つ組織上の問題が遠因であると考えている。

2. カルトの定義を考える事の意義

元来、カルトという言葉は「祭祀」や「儀礼」を意味するラテン語 "cultus" に由来する、純粋に宗教を表すもので、決してネガティブなイメージではなかった。その後、マックス・ウェーバーは、カトリック等の主流教派をチャーチ(Chuurch)、プロテスタント等の主流派からの分派をセクト(sect)に分類し、エルンスト・トレルチは、これに個人の神秘体験を強調するミスティシズム(mysticism)に加えて三類型にした。しかし、この分類法は一般にはあまり広まらなかった

一方で、アメリカでは主流派から見た異端宗教(モルモン教や統一教会など)という意味で「カルト」を使う用法が協会関係者から始まって一般に広まっていく。そして、ガイアナでの人民寺院の信者900人以上の集団自殺等を皮切りに、マスメディアが「カルトと洗脳」を問題視するようになり、その後「マインドコントロール」等の概念の結びつけて考えられるようになる(櫻井, 2007)。日本でも時期は遅いものの概ねアメリカと同じ流れがあり、「異端宗教」としてのイメージの後の「オウム事件」、そして「カルト」や「マインドコントロール」の社会問題化と進んでいく。

しかし、事件によって問題視されるようになった後の動きが日本とアメリカでは大きく異なる。日本のマスコミは「宗教の区別」を厳密に考えずに一緒くたにして報道する傾向にあり、それが新興宗教へのマイナスイメージ形成の要因の1つになる。芦名(1993)の説明では、多くの日本人は「自分は無宗教」と思っており、自らの体験から宗教を考えず、マスコミの情報からイメージを形成している。実際、日本では「4大宗教+新興宗教」みたいな単純な分類が広まっており、そこにマスコミの「カルト」を強調した報道が与えられるだけなのだ。

一方でアメリカでは、宗教が多くの国民に根付いており、多様に分かれる宗派についての実感があり、かつ、社会的に好ましいと考えられている新興宗教も多数存在するため、寧ろ「何をもってカルト教団とみなすか」という定義上の問題が、「マインドコントロール」等と並んで重要視されるようになる。

例えば、米国キリスト教調査研究所による「カルト的かどうかを判断する特徴」は以下の6つである(木村・渡邉, 2001)。

  1. 指導者による聖典解釈への絶対的なコミットメント
  2. 指導者はけっして間違ったことをしないという信仰
  3. 先行する啓示と矛盾する啓示への信仰
  4. 私たちは終わりの時を生きているのだという強い信仰
  5. 「私たち/彼ら」という心性
  6. 集団の命令に従わせる圧力


一般的なイメージである「政治への介入」や「利益目的」に関する特徴が入っていない(フランス国民議会による定義の方が一般的なイメージ通りの「カルト」である。)のが興味深いが、いずれにしても「カルトとは何か」という議論が研究者の間でもメディアの中でも積極的に行われてきたのは確かだ。

勿論、一連の定義は絶対的なものではない。例えば、「どこまで稼げばカルトなのか」というのに客観的な基準を与えるのは難しいだろうし、大金が集められていても、その集め方に無理がなく、殆ど全てが社会貢献に使う宗教がカルトかどうか等、微妙なケースは多い。だから、最終的には「カルトかどうかは個人が判断するもの」なのである。

しかし、定義が「単なる指針にすぎない」とは言え、カルトについて掘り下げた議論を知っているか否かではカルトへの引っかかりやすさも変わってくる。何故なら、多くのカルト教団は「我々は宗教団体である」とバカ正直に教えてくれないのであり、「悪質な新興宗教がある」というだけの薄っぺらい知識では、多様なカルト教団の戦略に飲み込まれる可能性が高くなるわけだ。(彼らは「心の隙間」と「無知」を狙ってくるのだ。)

3. マスコミと大学の組織上の問題

オウム事件が起こった日本では、アメリカの受け売りでカルトやマインドコントロールについてのセンセーショナルな報道を繰り広げ、アメリカで長年扱われてきたカルト宗教についての学術的な議論が踏まえられてこなかった。(マインドコントロールについては、そもそも疑似科学だとみなす科学者も多い。)

その理由を「日本のマスコミは質が低いから」という見方も多いが、それは半分当たっていて半分違う。佐々木俊尚氏が『「当事者」の時代』(2012)で言うように、日本のマスコミの現場は、記者が「(事件を深く分析する上での勉強の為に)デスクで本を読んでいると上司に怒られる」事が多いようだ。つまり、「本なんか読まずに外回りをしてこい」というわけだ。多くの顧客は「学術的な議論」には興味が無く(とマスコミは判断し)、多くの記者は「面白いネタを沢山集める方が合理的」と判断しているので、知識が無くても取材をどんどん行う記者の方が評価されるわけだ。

だから、本当はしっかりと勉強して記事を作りたいと思っていても、出世の為にはそんな時間を取る必要が無くなる。佐々木氏の見方では「記者が低レベルという見方には限界がある」ということになる。(だから、優秀な記者は独立するのだろう。)これは、記者個別の問題よりも、マスコミという組織の中に深く根付いた構造上の問題と言えよう。

そして、日本の宗教学者は「宗教に対する間違った見方」を是正する事を怠ってきたといいうことも、日本での宗教に対する悪いイメージを形成する要因の1つになっているだろう。

「日本の大学教授は研究にしか興味がない人が多い」とよく言われるが、(金銭的な理由よりも)研究自体に高い価値を見出す学者ほど、この行動は個人としては合理的である。原野悟氏は自身のウェブサイト上「日本の大学において教授を評価する方法が研究に偏りすぎている事を問題視している。実際、日本の多くの大学では教育活動や教科書の執筆、社会の為に知識を伝達する事があまり評価されない実態があり、研究ばかりしているのが合理的なのだ。

一方で米国では、教授の評価法が大学毎に大きく異なり、それが大学の個性の1つにもなっている。植山(2009)によると、米国では、大学を分類する手法として(1) 研究大学、(2) 教育中心大学、(3) リベラルアーツ大学、(4) 地域型教育中心大学とするのがポピュラーであり、それぞれ、(1) + (2)で261校、(3) が 225校、(4) が 931校となっている。この分類の基準は「評価手法」が主となっており、学者は自己の能力や信念を元に就職希望する大学を選んでいく。

だから、米国では、日本より学者のメディアや政治での発言や議論が盛んであり、変な評論家が間違った言説を垂れ流していたら、それを咎める学者も出てきやすい。(日本なら、学者経験の無い評論家を批判しても業績にならないので、そのような事をしない学者は多い。)

そう考えると、日本の学者がマスコミの偏った報道を咎めないのも個人の合理性だけで言えば当然の行動である。(当然、そうじゃない学者もいる。)しかし、それは宗教へのイメージを悪くするのに寄与する。ただ、これも学者個人個人が悪いというよりかは、組織上の問題(評価制度)である。

4. おわりに

社会的に悪影響を与えるカルト教団は断罪されるべきだが、世の中には「まっとう」な宗教もたくさんあり、それら全ての宗教をまとめて否定的に見る風潮には問題があると思う。別に筆者は特定の宗教を擁護するわけではないし、何か特定の宗教を信仰するべきと言っているわけではない。(筆者自身も偶にアニミズム的な考え方を自覚する程度である。)

しかし、この議論を通して分かるように、宗教のイメージを形作ってきたマスコミと、それを気にしない学者の背景には、組織が持つ構造上の問題が根強く残っている。そして、この種の問題は長きに渡って言われてきたが、解決も容易ではない。

それでも筆者は、宗教に関する見方はこれから少しずつ変わっていくだろうと思っている。その理由は、マスメディアの解体とネット上の言論空間の発達という「ありふれた答え」によるものだが、あながち間違いではあるまい。

5. 主要参考文献

【書籍】
[1] 芦名定道(1993)『宗教学のエッセンス―宗教・呪術・科学』北樹出版

[2] 佐々木俊尚(2012)『「当事者」の時代』光文社

【論文】(PDFリンク)
[3] 植山剛行(2009)「アメリカ大学の教授職 ―教授職の準備から助教授としての活動まで―」『教育学雑誌』Vol. 44, pp. 145-157

[4] 木村洋二, 渡邉太(2001)「親・子・カルトのトライアッド : 信者と家族と教団のソシオン・ネットワーク分析 (特集 ソシオン理論の冒険)」『関西大学社会学部紀要』Vol. 32(2), pp. 105-175

[5] 櫻井義秀(2007)「「カルト」対策としての宗教リテラシー教育」『現代宗教』pp. 300-321

あわせて読みたい

「宗教」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    医師が語る現状「医療崩壊ない」

    名月論

  2. 2

    秋篠宮夫妻 公用車傷だらけの訳

    NEWSポストセブン

  3. 3

    昭和の悪習 忘年会が絶滅する日

    かさこ

  4. 4

    貯金がない…京都市を襲った悲劇

    PRESIDENT Online

  5. 5

    宗男氏 桜疑惑めぐる報道に苦言

    鈴木宗男

  6. 6

    医師 GoTo自粛要請は過剰な対応

    中村ゆきつぐ

  7. 7

    感染増の原因はGoToだけではない

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  8. 8

    早慶はいずれ「慶應一人勝ち」に

    内藤忍

  9. 9

    在宅勤務でも都心に住むべき理由

    PRESIDENT Online

  10. 10

    脆弱な医療体制に危機感ない政府

    青山まさゆき

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。