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幼保無償化の「便乗値上げ」に怒るのは筋違いだ

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今年10月から始まった幼児教育と保育の無償化に合わせて、助成金を目当てに利用料を引き上げる「便乗値上げ」の動きがある。大阪府立大学の吉田直哉准教授は「値上げがあっても保護者の負担は増えない。便乗値上げに国が不快感を示すのは間違っている」という――。


※写真はイメージです - 写真=iStock.com/clumpner

待機児童は保育の「量」の問題

10月1日、「幼保無償化」が施行されたとの報道が、列島を駆け巡った。現在、就学前の子どもを育てている保護者にとっては「福音」とも受けとめられる一方で、子育ての「当事者」でない多くの国民にとっては、「なぜ、今なのか」という唐突な印象を抱かせたニュースではなかっただろうか。このように、今回の「無償化」が、国民にさまざまな感想を抱かせたとしたら、それは、幼児教育・保育が抱える「問題」に対する国民それぞれの認識の焦点が多様だからである。

2010年代以降、相次ぐ国政選挙の中で、主要政党が子育て施策、保育政策を選挙公約の中に明示することが常態化した。その施策とは、第一に「待機児童」対策であった。この点について、主要政党間で大きな見解の相違は見られず、超党派的な暗黙の合意が成立しているように思われる。しかし、この「待機児童」問題というのは、都市部特有の現象であり、そこで「待機」させられているのは0歳から2歳の低年齢児である。「待機児童」問題とは、「都市部における、低年齢児保育の受け皿を拡大せよ」という「保育の量の拡大」への世論からの圧力に、政治がどこまで応えられるか、という問題だったのである。

無償化は「保育の質」にアプローチする

それに対して、今回の「無償化」は、「待機児童」問題の頻発する低年齢児に関しては、住民税非課税世帯、つまり低所得層への無償化にとどまっている。ほぼ「無償化」されたのは、3歳から5歳までの高年齢児に対する、保育所、幼稚園、認定こども園における保護者負担分であった。当然のことながら、「無償化」対象は都市部には限定されていない。つまり、「無償化」は、「待機児童」対策として打ち出されたものではないのである。その「無償化」に、消費税増税分の税収など7000億円以上の公金を充当するという。

つまり、「無償化」の背景には、「待機児童」問題という、「保育の量を拡大せよ」という保育の「量」に関する議論とは別の文脈があるということである。その文脈とは何か。ひとことで言えば、保育の「質」に関する議論という文脈である。「待機児童」という、イメージしやすく世論の関心を集めやすい社会問題の影に隠れ、子育ての当事者、保育の当事者以外にはめったに議論されることのなかった文脈だ。

安全性や快適さは「カネがなければ高められない」

保育が、福祉・教育の一部をなす対人サービス業の提供である以上、「質」が議論されうる。ところが、保育の「質」の高さとは何か、というのは、一面的には語れない。私たちにとってイメージしやすい「質」の高さは、例えば、保育士が子どもに愛情を持って丁寧に接するというようなものだろう。だが、このような「プロセス(過程)の質」以外の「質」がある。

その一つが、「ストラクチャー(構造)の質」である。「ストラクチャーの質」とは、例えば、子どもの発達を促しやすい遊具・教材があること、保育室・園庭の適切な広さ・安全性・使用しやすさ・快適さ、保育士の学歴・知識・技能の高さなどが含まれる。つまり、保育士の個人的な努力だけではどうしようもない質が、「ストラクチャー(構造)の質」である。端的に言ってしまえば、「カネが無ければ高められない」質である。

今回の「無償化」は、保護者負担分を、国・地方自治体が肩代わりするということであり、当たり前のことながら、決して、それによって保育に関するコストがゼロになるわけではない。

これまでも保育には公金が使われてきた

「無償化」を契機として、幼稚園や認可外保育施設で保育費用の「便乗値上げ」が行われていることが報じられた。厚生労働省と文部科学省は、少なくとも、全国33施設で起きていたと発表している。つまり、保護者負担額がゼロになる範囲内で、保育所・幼稚園・認定こども園などの保育施設が、保育費用を「値上げ」した(つまり、「値上げ」分を、保護者にではなく、国・地方自治体に請求した)というのである。

むろん、このこと自体は違法ではない。ところが、この「便乗値上げ」が、「無償化」で恩恵を受けるはずの保護者の反発を引き起こしているという。つまり、「何のための値上げなのか」「値上げをした分がどのように使われるのか」という、保護者の疑問、もっと言えば不信感をかき立てる事例が全国で報告されているのである。

今回の「無償化」は、全く図らずも、「保育のコストは、保護者による負担分だけではまかないきれない」という当然の事実を、白日の下に晒すことになった。「無償化」以前も、保護者の負担分(保育料と呼ぶ)以外にも、公金は注入されてきた。

例えば、東京都23区では、1日当たり11時間の保育を必要とする乳児(0歳児)の公定価格(法令上基準とされる必要経費の月額)は18万6000円ほどである。保護者の支払う保育料の月額は収入によって変動するが、世帯年収が800万円の場合、3万円ほどである。となると、都内の認可保育所が1カ月間、1人の乳児を保育した場合、そこには15万円以上の公金が投入されているということである。保護者ですら意識的でなかったこの事実を、子育て当事者意識のない国民が、どれほど知ってきたか。

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