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貧しい地域を「肥溜め」呼ばわりするトランプ米大統領。ホームレス問題に「重要な対策」を講じると宣言する真意とは

一国のリーダーがホームレスの人々にどういう姿勢を取るかは、社会的に弱い立場にある人やその支援者にダイレクトに影響し、誰を「国民」と捉えているかが如実に示される。先日の台風19号の際にホームレスの人々が避難所から受け入れを拒否される事態が発生。これを受け、日本の首相は「避難所は避難した全ての被災者を受け入れるのが望ましい」との考えを示し、ひとまずは当事者らを安心させた。

一方、米国のトランプ大統領はというと、ホームレスの人々に対する非人道的な物言いを繰り返している。そのたびにストリートペーパー各誌は応戦してきたが、 今回は、カリフォルニア拠点のストリートペーパー『Street Spirit』のライター、ピーター・Y・サスマンが、サンフランシスコで深刻化するホームレス問題についての大統領の発言に着目、この男が一国のリーダーを務めていることの危うさを指摘する。

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懸念の対象はホームレス当事者にあらず

ワシントンD.C.の豪華な公営住宅に税金で住まう男が、恵まれない境遇にある人々に大攻勢をかけ始めた。これまでも路上生活者を快く思っていないフシはあったが、この数ヶ月内におこなわれた二度の演説で、その考えを明確にさせたかたちだ。

まず2019年6月にアイオワ州で行われた演説では、「移民」と「ホームレス」(大統領は両者を同一視することもある)をこう非難した。

「カリフォルニア州、特に民主党の街ロサンゼルスとサンフランシスコで今何が起きているかご存知ですか? 信じがたい事態が起きています。人は通りを歩くだけで健康を害してしまいます。すばらしい仕事ぶりを見せている警察官たちもが、実際に体調を崩しています」

そう。彼が思いを寄せているのは、経済的・社会的事情または健康上の理由から路上生活を強いられているホームレス当事者のことではなく、そうした人たちの存在が“すばらしい仕事ぶりの” 警察官をはじめとする歩行者に及ぼす影響なのだ。 路上のニオイや散乱している注射針についても、いつものごとく声を荒げた。

これも数ある暴言の一つ...と人々の記憶から消え去ってしまう前に、トランプ大統領のホームレス問題の捉え方をあらためて考えてみたい。

米国各地で増える薬物依存者への反応

2019年7月には、訪問先の日本から帰国したトランプ大統領は、米テレビ局 Fox News の番組に出演し、こう発言した。「日本の都市は清潔で、落書きがない。路上で用を足す人も薬物常習者を見かけることもなかった。素晴らしいと思いませんか?」

もちろん薬物依存者は、アメリカ各地だけでなく国外(日本を含む)にも存在する。近年は、米国の中でも地方の白人が多く住むエリアに広がっているようだ。しかし地方の薬物依存者たちは、“民主党の街”(ロサンゼルスやサンフランシスコ等) の路上で大統領の目に触れる依存者たちとは違い、家族の一員として家の中で過ごしていることが多いため、大統領が直接目にすることはあまりない。しかし、都市の路上で目につく薬物依存者たちは、トランプ大統領にとっては人々にわざとらしい恐怖や嫌悪感を与える ”貴重な根拠”ともなっている。

Image by aga2rk from Pixabay

Fox News の御用キャスターに対して、大統領はさらに続けた。「ニューヨーク、サンフランシス、ロサンゼルスといった国内の都市は、重大な“汚物(filth)” 問題を抱えており、非常に残念である」と。

彼好みの金ピカ仕上げになってない場所は、単純に馴染みがないか、居心地の悪さを感じるのだろう。地球上の広大な貧困地域も、彼の表現を借りれば「shitholes(肥溜め)」なのだから*。

*参考: トランプ米大統領、禁句使い中米やアフリカの移民罵倒

少しフォローが必要と感じたのか、大統領は「路上生活者の中には、自分がそんな暮らしをしていると認識できないほどに精神をやられている人もいる」とエビデンスもなく話したかと思えば、その直後に「実際のところ、彼らは好き好んで路上生活を送っている。だがそれは許されるべきではない」と激しく非難。この問題に何らかの措置を講じると述べた。

さらに「この事態が始まったのは2年前」と自信満々に断言し、国民が共有すべき価値観を伝える立場から「不名誉なことだ」と言いのけた。

※編集部注:もちろん米国のホームレス問題は2年前に始まったわけではない。2015年秋にはすでに非常事態宣言が出されている。
http://bigissue-online.jp/archives/1052946386.html

人々の不安を掻き立て続ける大統領。不動産オーナーとしての真意

インタビュー後半、大統領は何か手を打たなければという自身の決意にあらためて触れた。「我々はこの問題をとても重く受け止めている。このままではいけません。全てを終わらせる何かしらの対策が必要です。人々を動員し、何かしらの対策を取らなければなりません」

しかし「これまでとは違う重要な対策を」と言いつつ、まだ具体策は出ていない。幸か不幸か、この大統領はさんざん不安を煽っておきながら、重大な公約を放置することも多い。問題を指摘するだけで、具体的に誰が何をするかまでは踏み込まない。不安を掻き立てられた人々には、怒りのはけ口となる「共通ターゲット」を与え、満足させる。支持者たちが抱く不安こそが大統領の最大の強みのため、とにかく彼は不安を掻き立て続ける必要があるのだ。

Image by Angelique Johnson from Pixabay

トランプ大統領がこれまでに打ち出した政策の数々は、従来の制度や社会規範といった、社会を安定させる法的総意を破壊してきたが、さらに注意が必要なのは、彼がわれわれの物の見方を変え、共通価値を腐敗させている点だ。それにより、問題の数々がより手に負えないもの、解決が難しいものとなっている。悪夢のような現実だが、そこから抜け出せないでいるのが今の米国の状況だ。

Fox Newsのインタビューではさらに、深刻化するホームレス事情を懸念する別の"動機”も示された。「私はサンフランシスコにも物件を所有しているが、あの街で起きていることは本当にヒドい」 と。 常に自分に利益があるかどうかでしか物事を見れない人というのは、そうでない人からはなかなか理解しづらい。しかし、その思考回路が意味するものははっきりしている。彼が問題視しているのは、社会的混乱や絶望が存在していることではなく、旅行者や警察官らが路上生活者の存在やニオイを気にすること。そしてそういう事態が、不動産オーナーとして所有物件のまわりで起きていることが受け入れがたいのだろう。

他人より少しでも経済的に豊かになりたいと願う人たちは、お金を稼げば稼ぐほど精神的に不安定になり、他者を陥れることで自分たちの不安を解消しようとしがちだ。そうしたときに標的にされるのは昔から、社会的・経済的最下層の人々である。

この巨万の富を持つ大統領は、社会的に不安定な状況にある多くの人々に、自分は彼らの怒りを代弁していると信じ込ませて混乱を引き起こしてきた。これに対し、アメリカ国民はすでに重い代償を払ってきたし、この状況はしばらく続きそうだ。

By Peter Y. Sussman
Courtesy of Street Spirit / INSP.ngo

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