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日高正博・プロモーター――日本のフェスはどこまでも面白くなる - 吉永みち子

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◉ひだか まさひろ:1949年熊本県生まれ。音楽番組制作などを経て、83年、プロモーション会社「スマッシュ」を設立、海外アーティストを中心に招聘している。97年からフジロックフェスティバルを開催。

4万人収容のグリーンステージを埋め尽くす人々 Tsuyoshi Ikegami=写真

真夏の越後湯沢駅に人があふれていた。行き先は、峠を越えた苗場スキー場で行われるフジロックフェスティバル会場。大渋滞の山道を車で1時間弱走って辿り着いた大自然の中、色とりどりのテントがひしめき、風に乗って重低音が響いてくる。日本最大級のロックフェス「フジロック」には今年、前夜祭を含めた3日間で13万人以上がやってきた。23回という歴史を重ねてなお、年々来場者が増えている。

台風の影響で激しい雨が降ったり晴れ間が出たりという不安定な天候だが、それがどうしたという感じで、4万人以上入る最大のグリーンステージから数百人、数十人の小さなものまで14あるステージの好きな場所に人々は移動していく。



日本で初めてこのとんでもないフェスを立ち上げ20年以上継続させてきた主催者の日高正博は、Tシャツと穴のあいたジーンズで本部テントの中にいた。痩身ながら周囲を圧倒する存在感が、狭いテント一杯に広がっている。苗場でずっと開催されているのにフジロックなのは、1回目が富士山の天神山スキー場で開催されたから。  「俺は都市型のフェスには興味ないんです。交通の便がよくて天候にも左右されないのは便利で楽だけれど、俺が最初に考えたキャッチは『不便を楽しめ』だったから」

世界中からアーティストを呼び自然の中の複数のステージで同時に様々な音楽を楽しむ。立っても座っても寝転んでも踊っても食べても飲んでも何でもあり。ドッグランには犬が走り、林の中のキッズランドでは子供たちが遊ぶ。野外のバーには世界各国の音楽が流れている。ロックフェスだけれど歌謡曲もあり、大道芸もあればNGOのブースもある。会場内の食堂には地元料理や地酒が並ぶ。人気メニューは漬物と納豆を混ぜてご飯にかけた「きりざい飯」。

「最初は地元の人も『え~、ロックの人でしょ』と引いてたけどね。ロックの人だって洋食ばっかりじゃないよ。おにぎりとみそ汁も食ってんだよ。それにそもそもロックの人とか分けるのは日本だけだから。都会の人とか田舎の人とか外国の人とか。そういう括り、意味ある? すべてを含みすべてを取り込むのがフェスティバル。何でもありがフェスティバルだから」



富士山麓から苗場へ

1997年に産声を上げたフジロックは、まさに日本になかったイベントだった。日高は「前例がないからやりたかった」という。前例がないからすべてが手探り。日本中を回って場所を探し、天神山スキー場に決めた。山の中だから、寒さや雨対策など何カ月もかけてキャンペーンをした。が、台風に見舞われ寒さと疲れで体調不良者続出、客が押し合って転倒、違法駐車、ゴミの山などトラブル続出で、2日目は中止に追い込まれた。

「あんなに注意したのにTシャツにサンダル履きで来るんだもの。何考えてんだコノヤローって、1回でやめてやると思った。でも、来年も続けると言っていた行政側の担当者が異動になったら、いきなり来年はNGだって言うんだ。もう怒り爆発で乗り込んだけど、ハンコ押せないって」

1回でやめるつもりだった日高に行政は許可しないと言っているわけで、ちょうどよかったとなるのが普通だと思うが、日高はなぜか怒ってそのエネルギーを継続の方向に爆発させた。無理だダメだと言われると俄然やりたくなると本人も認めている。フジロックの命がつながったのは責任をとりたくない役人魂と日高の反発魂のおかげと思うと、それもまた何やらロック的。

かくして2回目は、in Tokyoと小さく付け加えて緊急避難的に江東区の豊洲で、3回目からは会場を再び自然豊かな苗場スキー場に固定して開催されている。

苗場開催にあたり日高は、毎週現地に赴き地元の人たちと膝を突き合わせ、酒を飲み、1年かけて話し合いを続けたという。

「押し切るのイヤなんですよ。地域と来場者と主催者が一緒にいい関係を築けないならやりたくない。夏になると都会から訳の分からないのがドッとやってきて、そこで得た感動も金も持ち帰り、騒音に耐えた地元に残るのはゴミの山なんて絶対おかしいだろ。だから地元の人の不安はすべて箇条書きにして全部解決しようと思った。嘘ついていいこと言っても信頼は生まれないから、世界中からピアスだらけやタトゥー入りやら大挙して来ると正直に話したよ」

自然に回帰した3回目から、あれだけの人が押し寄せても大きなトラブルもなく回を重ねているのは奇跡に近いといわれる。取材に来る外国メディアが一様に驚くのはゴミがないこと。世界一クリーンな野外ロックフェスといわれるが、奇跡は日本人の清潔感で自然に生まれたわけではない。

木は切ってはいけない。熊や大鷲や鹿などすべての動物と共存する。ゴミを捨てて地元や自然に迷惑をかけるなら次はないと思え。寒暖差も起伏も激しい自然の中で、自分の身の安全くらい人に頼らず自分で面倒みろ。日高がメッセージを送り続け来場者はその思いに共感したからこそ奇跡が起きたわけで、地元と来場者と主催者がともに育て、自らもまた育ってきて今のフジロックがあるということだろう。

「突然雨が降っても、5分もかからずに全員カッパ着てるもんね」と日高は笑う。雨の中で花開くカッパはフジロックが生んだものだけれど、雨の中で音楽を楽しもうとするのは遊びであり文化だと言う。

今年は大雨の中テントが水没しても、めげずに思い思いの方法で音楽を楽しむ人たちがいた。まさしく日本のフェス文化を牽引してきたのはフジロックで、そこにくっきり通る一本の筋は日高正博というひとりの人間の音楽観、価値観、自然観によって支えられている。

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