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広げ過ぎた風呂敷をたたむとき。

前週の電撃統合発表から1週間も経たないうちに、正式に「基本合意」のリリースが出された。

ネットサービス「ヤフー」を展開するZホールディングス(HD)とLINEは18日、2020年10月に経営統合することで基本合意したと発表した。ネット企業としては日本最大となり、米国の「GAFA」や中国のIT(情報技術)大手に対抗する。IT業界はデータ収集を巡る競争が繰り広げられる。今回の水平統合はグローバル競争で出遅れた両社が国内のデータ獲得競争で優位に立ち、世界に本格的に挑む一歩となる。」(日本経済新聞2019年11月19日付朝刊・第1面、強調筆者、以下同じ。)

この辺はさすがのスピード感、そして、前々から出ていた話ではあるが、LINEをZHDの下にぶら下げつつ、ZHDにネイバーの資本を50%入れる、というスキームもなかなか趣深い*1

そして何よりも興味深かったのは、先週の華々しい報道の雰囲気は微塵も感じさせないほど、ZHD、LINE双方のトップのコメントが謙虚で危機感に満ちたものだったことだ。

「人材、お金、データのすべてが勝者総取りというビジネス構造で、グローバルテックジャイアントへの危機感がある」(LINEの出沢剛社長)
「東アジアから(米中に次ぐ)第三極をつくっていきたい」(ZHDの川辺健太郎社長)――。
18日午後に都内で記者会見した両社首脳は、米中のIT大手に対する強い危機感を示した(同上)

先週、「1億人規模のデジタル基盤」等々の華々しいトーンに接した際の違和感は、その時のエントリー*2に記したとおりだが、さすがに当事者はそれを一番よく分かっていた、ということなのだろう。

ヤフー、LINEといえば、日本居住者であれば誰もが一度は耳にしたことがあるインターネットサービス業界随一の会社だし、先端分野に飛びつくスピードや意思決定の迅速さにも定評がある会社だが、今回の一連の報道の中で、両社の売上高を合算しても1兆円を僅かに超える程度(約1兆1600億円)、営業利益も合算して1600億円程度にとどまる、という情報を目にして、自分はちょっとした衝撃を受けた。

この程度の売上規模の会社は、斜陽とささやかれて久しい日本の製造業の会社の中にもそれなりの数は存在するし、サービス業の分野に目を向けても「仕組み」だけで、数兆円の売上、数千億円の利益、と、この両社合算の数字を大きく上回る数字を叩き出している会社は存在する。

そういったものと比較してしまうと「何でもタダで使えるのがデフォルト」になってしまっているインターネットの世界で、新しい仕組みをマネタイズして収益につなげていく、ということがいかに大変なことか、ということがよく分かる。

そして今さらヤフーニュースを有料配信にすることもできなければ、LINEアプリの登録者から利用料をとることもできない、という状況の中、「規模の利益」だけでどれだけの収益の上積みが図れるのか、経営者にとってはもちろんのこと、プレッシャーをかけられる現場の人間にとっても頭の痛いところだろう。

もちろん、弱気にすら思えるコメントの背景には、これから控える公取委の企業結合審査への配慮もあることは間違いないように思われる。

「経営統合で18日、基本合意したZホールディングス(HD)とLINEの前には、デジタル時代の独占禁止法をどうクリアするかという課題も立ちはだかる。公正取引委員会は10月、新しい企業結合ガイドライン案を公表したが、市場で強い影響力を持つプラットフォーマーの規制は欧米など各国当局も手探りだ。データビジネスの成長と独占防止のバランスをどうとるのか。企業も規制当局も問われている。」(日本経済新聞2019年11月17日付朝刊・第3面)

記事の中ではスマホ決済をめぐって「市場の範囲」をどう画定するか、といったような話も取り上げられているが、常識的に考えれば、この変化の早いインターネットサービス市場で、彼らの既存の事業をいかに足し合わせたところで、競争減殺が生じる可能性など皆無に等しいということになるはずだ*3

ただ、最近の潮流からすると、「プラットフォーム」の巨大化はそれ自体が競争への潜在的脅威、と言われてしまう。

マネタイズはもちろん、何らかの効果的なアウトプットを生み出せるかどうかにかかわらず、「利用者のデータを持っている」ことだけで独禁当局の関心を引くことになってしまう時代だけに、Google、Amazon、Facebook、さらには進境著しい中国勢を挙げて「グローバルテックジャイアントへの危機感」をわざわざ強調することには、今後の過剰な審査要求を牽制する、という観点からも大きな意味があるように思う。

まぁ意地悪なことを言うなら、日本の中で先頭を切って「データ」活用の”無限の可能性”を唱え続け、投資を呼び込むのみならず、国の政策形成にも影響を与え続けてきたのは誰だったっけ・・・?という話でもあるのだけど、自分とて、これまで日本人が築き上げ、磨き上げてきたサービスが、米国発のサービスに押されて消えていく姿をむざむざと眺めていたいわけではない。

だから、広げられた風呂敷が静かにたたまれ、それとともに公取委も矛を収める、という過程を経て、今回の「大統合」によって生まれた新企業グループが生み出すサービスがこの先10年、20年、しぶとく生き残ってくれることを、今はただただひたすら願っているのである。

*1:50%・50%の合弁は極力避けるべき、というのが取引法務の基本ではあるが、そんな状況で株主間でいかなる仕掛けをしているのか、というのも様々な想像力が働くところである。

*2:「1+1」で「2」になるか? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*3:まかり間違っても「スマホ決済」などという”珍妙な市場”を画定してLINEペイ+Pay Payで寡占状態だ!などというアホな認定はしていただきたくないものである。「スマホ(QRコード)」以外に使える決済手段は山ほどあるのだから。

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