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「アンビエント」は日本発祥?グラミー賞2020に昭和の日本音楽がノミネート

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・第62回米グラミー賞に日本の「環境音楽」がノミネート


米音楽界最高の栄誉である「第62回グラミー賞」の各賞候補が11月21日(日本時間)に発表された。今年度はリゾが主要4部門を含む最多8ノミネートを獲得し、これに続く形で、ビリー・アイリッシュとリル・ナズ・Xがそれぞれ6部門で候補に挙がった。とりわけ17歳のビリー・アイリッシュが「年間最優秀レコード」「年間最優秀アルバム」「年間最優秀楽曲」「最優秀新人賞」でノミネートされたことは、大きな話題となっている。

ところでグラミー主要候補の裏で、「日本」に注目が集まっているのはご存知だろうか。過去の音源のリイシュー・再編集盤を対象にした最優秀歴史的アルバム賞の候補に「kankyo ongaku: japanese ambient, environmental & new age music 1980−1990 」という作品がノミネートされている。同コンピレーション・アルバムには、坂本龍一、久石譲、細野晴臣、清水靖晃、吉村弘、イノヤマランドといったアーティストたちが、主に1980年代にリリースした楽曲25曲が収められている。

米シアトルのレーベルLight in the attic recordsから今年2月に発売されたこのアルバムは、日本のアンビエント再評価に火を点けたキーマンのひとりとされるVisible CloaksのSpencer Doranと、同レーベルの日本人プロデューサーYosuke Kitazawaらによって共同編纂され、発売当初から北米の耳が肥えた音楽リスナーたちの評判を得ていたようだ。



・「環境音楽=アンビエント・ミュージック」は日本発祥?

「アンビエント」というジャンルは、ブライアン・イーノによって生み出されたと言われている。「音楽は集中して傾聴されるべき芸術作品ではなく、家具のように生活とともにあるべきものである」としたエリック・サティの「家具の音楽」の思想を継承したイーノは、1975年頃から「環境に働きかけ、その特性を強調する音楽」として数枚のレコードを制作する。レストランや待合室向けの音楽を提供するMUZAK社のBGMとの区別を明確にするために、「環境を包み込む音楽」という意味を込めてイーノはこのジャンルを「アンビエント・ミュージック」と名づけた。

イーノの最初のアンビエント作品である『ミュージック・フォー・エアポート』(1978)作成時には、「大量生産される音楽が、ある環境がもつ特異な音響とその雰囲気を覆い隠してしまうことで環境の一様化を推し進めるのに対して、アンビエント・ミュージックは、環境の特異性を際立たせることを目的としている」と定義されていた。

Brian Eno「Ambient 1: Music for Airports」

「kankyo ongaku: japanese ambient, environmental & new age music 1980−1990 」には、56頁に及ぶ膨大なライナーノーツが付属しており、そこで日本の「アンビエント・ミュージック」の歴史が概観できるようになっている。

その中でとりわけ興味深いのは、Spencer Doranによる巻頭言が、日本の伝統文化への言及から始まっていることだ。松尾芭蕉の句「鐘消えて 花の香は撞く 夕べかな〔The temple bells stops- but the sound keeps coming out of the flowers〕」の引用から始まる解説文には、「環境音楽」の思想的な背景は、イーノを超えて、日本の伝統文化にまで遡ることができると綴られている。

環境音楽(=字義的にはenvironmental music)という語が初めて用いられたのが1960年代だったとしても、環境に基づく聴取と音楽が交錯した例は、江戸時代にまで遡れる。水琴窟(日本庭園の装飾の一つ。水滴が落下した際の音の反響を用いて、音楽的な効果を生みだす)や時の鐘(城下町に時間の経過を知らせる寺院の鐘)のような伝統は、散逸した聴取〔dispersed listening 〕、あるいは音楽家の吉村弘が指摘しているように、パブリック・サウンドアートの原型としてみなすことができるのである。

本作でのSpencer Doranらの試みは、ブライアン・イーノを祖として西洋音楽の枠組みで理解されてきた「環境音楽」を、西洋文化と日本文化が交錯し、反響する地点として再解釈する取り組みだとも言えるだろう。それは、「戦後日本の音楽文化は米国文化の模倣によって発展した」という単線的な歴史観の穴を指摘していると言ってもよい。

「kankyo ongaku」に収録された楽曲のなかでも、とりわけこの傾向を顕著に示しているのは、土取利行の「ishiura (Abridged)」だろう。土取は前衛音楽のフィールドで活躍するパーカッショニストで、ギタリストのデレク・ベイリーや坂本龍一との共演、演出家のピーターブルックの作品への参加でも知られている。

縄文時代や弥生時代における音楽の役割を模索する彼のスタイルは、しばしば考古学的とも呼べるアプローチをとる。「ishiura(Abridged)」では彼の出身地である香川県で産出される讃岐岩が楽器として用いられ、その美しくも土着的な響きが印象的だ。イーノであればピアノやシンセサイザーを用いるだろう部分に、鐘の音のように響く讃岐岩を用いた本作は、イーノ的なアンビエント・ミュージックに日本的な解釈を施した顕著な例のひとつといえるだろう。

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