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《GSOMIAドタバタ延長》混乱の日米韓にプーチンが仕掛ける“炎上外交” 中国への急接近、北ミサイル、北方領土カード……ロシアの動きに注目せよ - 「週刊文春デジタル」編集部

 日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の延長をめぐって、大きく揺らいだ東アジアにおける日米韓の安全保障の枠組み。そんな情勢を虎視眈々と見つめているのが、北の大国・ロシアだ。

 ロシアという国家について、「世の中が乱れだすと、途端にロシアという国は輝きを放つ」と語るのは、軍事評論家で、東京大学先端科学技術研究センター特任助教の小泉悠氏だ。今年、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)でサントリー学芸賞を受賞した気鋭のロシア専門家だ。

>プーチン大統領は東アジアをどう見ているのか ©AFLO

 日本と韓国が緊張関係にある現状を、ロシアはどうみているのだろうか。

「もちろん、メリットが大きい。ロシアは秩序ではなく乱世の国なんです。例えば、この7月にも、ロシア軍機が竹島の近くを通りましたが、日本と韓国が徴用工問題やGSOMIAの延長を巡って揉めている真っ最中だったのが象徴的です」(小泉氏)

 ロシア軍機を飛ばした成果はすぐに現れた。ロシア軍機に対して韓国空軍が360発あまりの実弾を警告射撃する事態となり、日本政府はロシア以外にも、韓国に外交ルートを通じて抗議することになった。それこそが狙いだったのだ。

「経済力で劣るロシアは、平時の体力が弱い。世の中が平和だと、ロシアという国はあまり目立たない。ロシアにしてみると、普通に『いい国ですね』と言われて好かれても埋没してしまう。他方、怖がられることで、その存在感は上げられるわけです。

 ある意味で“炎上マーケティング”、炎上型ユーチューバーみたいなものです。忘れられているよりはずっとマシ。人目に触れて存在感さえ高まっていれば、その注目度は何かしらの価値に変換できる――という考え方がある。アメリカなど西側の国は、『秩序』から恩恵を受ける側なので、秩序を維持しようと介入をする。ところがロシアは、秩序を維持しても別に儲からない。だから、軍事介入にしても、秩序に関心がないので、混乱の中から何かロシアにとって役に立つものを掠め取るための介入なんです」(同前)

中国とロシアの接近に注目

 実は、このときロシア軍機と行動を共にしていたのが、中国の爆撃機だった。ロシアの爆撃機が、竹島周辺の上空で中国の爆撃機と合流し、尖閣諸島上空へと向かったのだ。領土問題を刺激して、日韓関係、さらには日中関係を刺激したい――そんなロシアの思惑が見えてくる。混迷する東アジア情勢を巡って忘れてはならないのが、このロシアと中国の軍事面での急接近だ。

「貿易面での関係は深まっても、まだまだ軍事面での協力は進まないだろうという見方も多かった。ところが昨年、本来は中国を仮想敵とした『ヴォストーク(東方)2018』という大演習に中国が参加した。今秋の『ツェントル(中央)2019』という大演習にも参加しています。

 また、この10月3日には国内外の有識者をソチに集めた『ヴァルダイ会議』で、プーチン大統領が『ミサイル攻撃を探知する早期警戒システムの構築で中国に協力している』と発言した。爆撃機とか早期警戒システムというのは核抑止にかかわる分野なので、そこまで突っ込んだ協力を始めているということなんです。これはわれわれの予想を超えるレベルまで中露の軍事協力が進んでいる証拠です」(同前)

専門家が驚いた「北ミサイル実験の失敗率の低さ」

 東アジアの中では、ロシアに関係性が深いと思われているのが北朝鮮だ。この夏、北朝鮮はロシアの「イスカンデル」に類似した変則的な軌道で飛行する新型の短距離弾道ミサイルを発射して、世界の軍事専門家たちを驚かせた。そんな中、小泉氏は、北朝鮮のミサイル実験の「失敗率」の低さに注目する。

「世界の軍事専門家の間でも注目を集めている北朝鮮のミサイル実験の失敗率の低さ。あまりにも速いペースで新型ミサイルが出てくるのに失敗しないんです。2016年には、ムスダンを6回、7回撃ってほとんどが失敗に終わったんですが、ミサイル実験はどこの国でもあれが普通。新型ミサイルを開発したら、何回も何回も失敗を繰り返して、10回、15回飛ばしてようやくものになる。

 アメリカや旧ソ連のミサイル実験をみても、失敗する割合はほぼ一定しています。ある一定の試行を繰り返して、初めて実用的なものになっていく。ところが、近年の北朝鮮のミサイル実験は、米ソに比べても失敗率が低すぎる。つまり、外部からミサイル発射についての『経験値』が流れ込んでいる可能性が否定できないんです。普通に考えると、今のロシアが北朝鮮にそこまで積極的に関与しないと思います。しかし、朝鮮半島問題で影響力を発揮するためにミサイル技術をこっそり流すような事態が起こっているのであれば、私のこれまでの想像を超える事態です」

 つまり、東アジアの緊張の度合いをコントロールするために、わざと北朝鮮にミサイル技術を供与している可能性も否定しきれないというわけだ。

ロシアが得意とする「柔道」外交

 そんなロシア外交について小泉氏は、プーチン大統領が愛好する「柔道」に喩える。

「アメリカの外交が戦略ゲームである『チェス』に喩えられるとしたら、プーチンがやっているのは『柔道』。ロシアは主導権を握る力はないので、相手の力を利用して、タイミングを合わせて大技を狙っている。どんな技が決まるかは誰にも予測できない。相手の出方や状況によって、仕掛ける技は一本背負いかもしれないし、腕ひしぎかもしれないのです」

 ロシアからみた東アジア情勢に加え、「ロシアの北方領土を使った対日戦略」から「ロシアという大国の行動原理」まで、小泉氏がロシアのすべてを語った全文「急転直下GSOMIA延長へ 混迷の日米韓の隙を突く『プーチンのロシア』」の野望《1万8千字インタビュー》」は「週刊文春デジタル」ほかで公開している。

(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)

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