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文在寅の“ドタキャン”外交は続くのか?「GSOMIA延長を最も悔しがっているのは韓国だ」 - 「文春オンライン」編集部

「GSOMIA(軍事情報包括保護協定)」破棄を撤回。土壇場で方針転換した韓国。

 なぜGSOMIAは延長されたのか。そしてそもそもGSOMIAのメリットとは? また今後韓国が再度破棄を通告するシナリオはあるのか。

 元航空自衛隊幹部で軍事評論家の潮匡人氏に聞いた。

 ◆◆◆

(1)なぜGSOMIAは延長されたのか?

「23日0時」に完全失効することになっていたGSOMIAですが、韓国側が“ドタキャン”しました。

 日韓GSOMIAが締結されたのは2016年11月23日。案外知られていないことですが、2012年6月にもGSOMIAは締結される直前まで行きました。しかし締結の日になって韓国側から“ドタキャン”された。当時は民主党・野田政権下でしたが、防衛大臣だった森本敏さんが「その日の朝、急に延期と言ってきたんだ」とおっしゃっていた。

 私は1994年の「北朝鮮核危機」を思い出しました。93年3月に北朝鮮がNPT(核拡散防止条約)からの脱退を宣言。米国が制裁を検討し始めると、その脱退が成立する「1日前」の同年6月11日に北朝鮮は脱退宣言を一時保留、いわば“ドタキャン”したんです(翌年、再び脱退を宣言)。

 南北ともに、大事な外交・安全保障の問題を直前で180°方向転換するというのは繰り返されてきたこと。いわばお得意の“ドタキャン劇”と言えるのではないでしょうか。


11月19日に「国民との対話」に臨んだ文在寅大統領 ©時事通信社

 今回アメリカは必死だったと思います。11月に入ってから、エスパー国防長官ら高官が相次ぎ訪韓、韓国政府に働きかけを続けてきました。またスティルウェル米国務次官補も失効期限を前に来日。水面下での仲介役を果たしました。そうしたなか韓国側としては「アメリカの顔に泥を塗る」ような対応は難しかったのでしょう。

 今月半ば、ソウルを訪れたエスパー国防長官はテレビカメラの前で「GSOMIAは日米韓3カ国が効果的に情報を共有するための重要な手段だ」と語り、日韓に立場の違いを克服するよう促しました。

 そしてそのさい“particularly in times of war”とはっきり強調した。つまり「GSOMIAは『戦争の際に』特に不可欠だ」と。そのくらい明確な問題意識を持って訪韓したのです。

 8月の破棄通告以降、北朝鮮の弾道ミサイルについて「日本海に落ちるものは日本のほうが正確に見えているし、日本の持っている偵察衛星の情報を一方的に韓国に与えている関係だから、GSOMIA破棄で困るのは韓国。日本側は大騒ぎをする必要がない」――そんな風に主張する一部の専門家もいました。

 詳細は次に述べますが、私はこの点についてエスパー国防長官の“危機意識”を共有しています。

 もしGSOMIAがなければ、日韓ともに米国防総省を情報のハブとして経由する必要がある。例えば韓国から来た情報をアメリカがいちいちスクリーニングにかけ、そのまま日本に教えられないものは加工して伝える――そうやって情報共有上で大きなコストが発生する。「朝鮮半島で有事が起きた」という1分1秒を争う状態でそんな悠長な情報交換はしていられない。

 だからこそ当初から米国国務長官は韓国に対して「disappointed(失望した、裏切られた)」、米国国防省も「強い懸念と失望を表明する」と発信してきたわけです。

(2)元自衛官から見たGSOMIAのメリットとは?

 GSOMIAがなくなれば、明確に漁夫の利を得るのは北朝鮮です。

 韓国が日本に破棄を通告した翌日8月23日に「新たに開発した超大型ロケット砲」を発射したのを覚えている方もいらっしゃるでしょう。日米韓の連携に揺さぶりをかけました。

 2016年の締結後、特に2017年に北朝鮮は弾道ミサイルなどを断続的に試射。8、9月には日本上空を通過する中距離弾道ミサイルを西太平洋に発射しJアラートが作動しました。

 その際、日韓はGSOMIAの枠組みを使って情報を交換。韓国からは一部ミサイル発射の「兆候」についても情報がもたらされたと聞いています。

 そして発射地点に近い韓国の情報と落下地点に近い日本の情報を、発射後に“答え合わせ”すると、「こういうミサイルを打ったのだろう」と情報をお互いに分析・共有できる。「ヤバいな。北朝鮮のミサイルはどんどん精度が上がっている」「これも新型のミサイルか」と分析が進むにつれ、「やはりGSOMIAを結んでおいて良かった」と自衛隊の現場では語られてきたのです。

 8月の破棄決定までに、「主に北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射をめぐって、29件の秘密情報が共有された」と言われていますが、その数字にあがってこないような情報交換を含めたメリットが確かにあった。

北朝鮮の変則軌道ミサイル、自衛隊は対処できない

 北朝鮮について少し詳しくお話すると、今年7月にロシア製ミサイル「イスカンデル」に似た、新型の短距離弾道ミサイルを打っています。これは“変則的な”軌道だったと報道があり、政府・関係国の誰もがそれを否定していません。

 これがどういう脅威なのか。日本の弾道ミサイル防衛網は、イージス艦に搭載しているSM-3(迎撃ミサイル)と航空自衛隊のPAC-3(地対空誘導弾パトリオット3)による迎撃です。それらはいずれも“通常の”軌道で落ちてくるミサイルへの迎撃という前提で設計されています。

 しかし近年の北朝鮮はロフテッド軌道(通常軌道よりも高く打ち上げる)のほか、先の「イスカンデル」のようなディプレスド軌道(低高度)のミサイルを積極的に実験しています。ディプレスド軌道は、わざと低く打つため、レーダーでの探知が難しく、また飛行時間も短くなる。しかも下降段階で、「跳躍」(急上昇)すると言われており、現状の自衛隊では迎撃が難しいわけです。 

 さらに日本の「防衛白書」2019年版で北朝鮮が「核兵器の小型化・弾道化を既に実現しているとみられる」と踏み込んだのをご存知でしょうか。つまり、変則軌道のミサイルの弾頭部分に核兵器が搭載される場合も十分に想定しなければいけない。私のいう“危機意識”はそういうことなのです。

 ですから北朝鮮が開発・保持している、各種弾道ミサイルの情報は「極めて重要」であり、より発射台に近い韓国の情報、さらに彼らの工作員などを通じた一次情報のことを考えると、日韓GSOMIAは日本にとっても重要度が非常に高いといえます。

(3)今後のシナリオ――「最も悔しがっている国」

 ただし、GSOMIA延長を「最も悔しがっている国」はある意味、韓国かもしれません。報道もありましたが、世論調査会社「韓国ギャラップ」は「協定破棄を韓国国民の51%が支持、不支持は29%」と発表していました。だからこそ韓国政府もギリギリまでひくことができなかった。

 そして法的に言えば、失効状態を免れたもののGSOMIAは「Suspended(失効の一時停止)」という状態です。韓国大統領府の金有根・国家安保室第一次長は「いつでも失効させられる」と脅しともとれるようなことを言っています。

 破棄通告から90日で失効するわけですが、現状ではこれを「Suspend」しているだけですから、もしまた同じことを言い出したときには「(破棄まで)残りは6時間」という解釈になることも有り得ます。日韓GSOMIAの条項に「Suspend」については明記されていませんから。

 いわゆる旭日旗(自衛艦旗問題)、海自機への火器管制レーダー照射、そしてGSOMIAの破棄問題とここ1年で日韓は軍事面でも鋭く対立してきました。いつ韓国側からさらなる“ドタキャン”カードを使われるか分かりませんし、まだまだ不安定な状態が続くということは変わりません。

(「文春オンライン」編集部)

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