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ドライバーは紙おむつを届けて何を「発見」できるのか~明石市の「紙おむつ宅配」、その「粗さ」

■ 明石市の「紙おむつ宅配」

前回書いた英語の入試改革失敗もそうだが(変態進化する日本の新自由主義~ベネッセたちの「束」、見せかけの「ソーシャル」)、教育や子育てといった、これまではなかなか民間業者が入りにくかった分野にも「民営化」の波が押し寄せてきている。

それに関しての最新ニュースが、明石市の「紙おむつ宅配」の試みだ(https://www.mbs.jp/news/kansainews/20191120/GE00030487.shtml)。

引用記事以外にもいくつか記事が出ているが(虐待リスク高いゼロ歳児 おむつ宅配で見守り 明石市)、この紙おむつを宅配する「業者」の具体名は出ていないから明確ではないものの、文脈からすると大手宅配業者だと予想できる。

 宅配するドライバーには子育て経験のある女性を充て、親子の様子やサービスの利用状況などチェック項目に沿って確認してもらう。

出典:神戸新聞 2019 . 11 . 23 ( 土 )

「子育て経験のある女性ドライバー」にそこまで要求できるか? ここでもまた、過度な要求を求められる宅配ドライバーのブラックな労働環境を想像する。不在での再配達を強いられる宅配ドライバーは、荷物を運ぶだけでもう十分だろう。

それに加えて、女性で子育て経験があるというだけで、「虐待支援のアウトリーチ」役を期待される。

紙おむつを宅配し、玄関から察せられる家の中の雰囲気や母親の疲れ具合をチェックし、それを会社に報告する。チェックシートは細かい項目がおそらく並べられ、宅配ドライバーはその項目を細かく埋めていく。

真面目なドライバーは、一生懸命そのシートの項目を埋めていくことだろう。

けれども、なにかがおかしくないか?

■事業の「粗さ」

事業を考案した人々(市長や市の幹部や業者の企画担当)からすると、社会課題をビジネスとして解決する「ソーシャルビジネス」の枠内なんだろう。僕もソーシャルビジネス自体は否定しないものの、それが貧困や虐待支援にまで入り込んでくると、事業内容の「粗さ」が目立つ。

たとえば、東京都の某区や某県で展開されている貧困家庭への「宅食」事業などは、送られてくる食品には、レトルトや袋菓子やインスタントラーメンなどが目立つ。宅食といえば普通は温かいお弁当をイメージし、子どもたちもそれを求めていることだろう。

けれども、送られてきた箱を開けて見てみると、誰もが知っている大手菓子業者の袋菓子。袋菓子自体は子どもはもちろん喜ぶし、缶詰やレトルトは保存が効くため、保護者にも喜ばれるだろう。

けれども、貧困家庭にとって、それらの袋菓子や缶詰やレトルトやインスタントラーメンは日常的に食べているものなのだ。

それらの炭水化物で空腹を満たす日常に少しでも変化を与えるための「宅食」支援ではないのか。

発想は新しく、古くて堅い行政の事業を乗り越えるものではある。だが事業の実際の運営は、冒頭の「紙おむつ配達」と同じだが「粗く」なる。ソーシャルビジネス自体の発想は悪くはないものの、細かいスキルと配慮が必要な分野(その代表が貧困や虐待支援)が確実にあり、それは安易な民営化では実際は対応できない。

対応できていると胸を張るのは、事業委託された業者(民官会社やNPO)や、それら民間に事業委託した役所や市長だ。

■ 突然ひとりの若者が涙を流す

問題の表出と発見は突然訪れる。

たとえば、不登校や発達障害の居場所支援のメニューの一つである「クッキング」を若者やスタッフと和気あいあいと進めているとき、突然ひとりの若者が涙を流す。

その若者は、午前中に親にひどく叱責され昼までずっと堪えてきたものの、お昼に居場所のメンバーたちが仲良くカレーを作り始めた時、ついに我慢できなくなって泣いてしまう。

その若者の横には、有資格者のNPOスタッフが一緒にカレーを作っていた。スタッフは若者の涙を見て場所を変えて話そうと促すが、若者は目立つことを怖れて(キッチンで泣くこと自体目立つのだが)そこを離れようとはしない。スタッフは覚悟を決め、キッチンの片隅で1時間、その若者の話を聞く。

居場所のメンバーたちは、その泣く若者に声かけすることもなく、サクサクと、ニコニコと、調理している。

当然、若者が泣いていることはメンバーたちや他のスタッフたちも知っている。けれども、静かに放置しておくことが最大の優しさであることも彼女ら彼らはよく知っている。

それもおそらく、泣く若者を1時間受け止め続け聞き続ける一スタッフの姿勢が周囲に影響を与えているからこそなのだ。それだけの「安心を与える存在」がキッチンの隅にどんと構えているからこそ、「泣く若者」は1時間経つと徐々に「笑う若者」に戻っていく。

このように、アウトリーチも含めて、子ども若者支援は高度なスキルとセンスが求められる。それは、高度な運転テクニックをもつ宅配ドライバーが安易に得られるものではない。運転は運転、支援は支援と、それぞれの専門家がその専門性を活かす。特に、貧困・虐待支援という「ビジネス」からは遠い分野では、その専門性は尊重される必要がある。

訪問する保健師の数を倍増させるなど、直球の支援対策を愚直に進めればいいと僕は思う。虐待支援にソーシャルビジネスは似合わない。コスト削減+民営化の新自由主義は、ここでも撤退すべきだ。また、メディアも新自由主義化せず、しっかりサービスの中身を検討してほしい。

※Yahoo!ニュースからの転載

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