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日興インサイダー事件は「法令遵守」では防げない

日興コーディアル証券の執行役員の方が、インサイダー容疑で逮捕された、とのこと。最近のインサイダー事件といえば「増資インサイダー」が話題となっておりましたが、こちらは典型的なTOBに絡むインサイダー事件であります。ただ、自らはインサイダー取引によって利益を得ていない情報提供者を立件するというのは、あの「西友インサイダー事件」でも結局困難でありました。ということは、このたびの日興コーディアルの件については、捜査機関の並々ならぬ意欲を感じさせるところであります。

インサイダー取引に関する法律的な問題点をここで議論することは控えまして、本日はインサイダー取引が、果たして組織における「法令遵守」の徹底によって防止できるものかどうか、ということについて考えてみたいと思います。

今回は、昭和59年に三井住友銀行(当時の住友銀行)に入行し、同期の出世頭として日興コーディアル証券の執行役員として出向していた人が逮捕された、ということのようです。なぜ顧客にインサイダー情報を流していたかというと、以前銀行員だったころに、この顧客(金融業者)とは仕事上の付き合いがあり、融資を受けたいという法人を顧客に紹介したようです。その法人が返済を滞らせてしまって、不良債権化させてしまったことから問題が発生し、この銀行員は顧客からクレームをつけられるようになりました。つまり顧客のためを思って、お客さんを紹介したところ、これが裏目に出てしまって顧客とのトラブルが発生したそうで、その顧客の損失を穴埋めさせるために何度もインサイダー情報を提供していた、と報じられています。

インサイダー取引はバレるもの、と冷静に考えればわかるはずであり、おそらくこの執行役員だった方も、頭ではマズイことをしているといった意識はあったと思います。しかし、反面において、インサイダー取引の片棒をかつがなければ、顧客とのトラブルが現実化することも間違いなかったわけです。ご承知のとおり、金融機関において、顧客とのトラブルが表面化した場合、間違いなく自分の出世街道に影響が出ます。とくにこの執行役員の方のように、出世頭としてここまで進んできた者として、ここで顧客トラブルが表面化することは、なんとしてでも避けたいわけです。

なにもしなければ間違いなく顧客とのトラブルは表面化し、自分の将来に暗雲が立ち込める、しかしインサイダー情報を提供することによって、顧客が満足し、自分としてもトラブルを隠し通せるかもしれない。つまり、一方は確実に自分にとって不都合な出来事が発生するが、もう一方は摘発されるとたいへんなことになるが、それでも摘発されない可能性もある、ということになります。

そうであるならば、法令遵守の精神を無視してでも、出世街道に残る道を選ぶ、ということも考えられるように思います(もちろん、法令遵守の意識が欠如していることを正当化しているものではなく、有事に至った人間の選択の心理としては可能性が十分にある、という意味です)。つまり出世街道に残るために、インサイダー取引は摘発されない、という方向に賭けたということであります。

いくら法令遵守を徹底したとしても、この「心の選択肢」まではなくならないのであります。とくに銀行のように「減点主義」によって人事評価がなされるということになりますと、おそらく顧客とのトラブルは、行員にとっては何とか隠ぺいしたいところです。法令遵守を徹底するくらいでしたら、そもそも銀行の人事評価制度の在り方にまで遡らなければインサイダー防止は困難かと思います。

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