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- 2019年11月23日 07:21
政治家の悪事は見逃し、人気女優は血祭り? - 劇作家・朝倉薫
「またか」というニュースが相次いだ。
ひとつは安倍晋三総理主催のイベント「桜を見る会」にまつわる「公職選挙法違反」の問題、そしてその話題を隅に押しやるかのような人気女優・沢尻エリカの「麻薬取締法違反逮捕」のニュースだ。
「またか」というのは、第一次内閣を途中で投げ出してからワンサカと問題を起こしながらも憲政史上最長の内閣総理大臣を務めているお方の醜聞と、その醜聞が話題になった時に計ったように麻薬で逮捕される芸能人のニュースである。
元総理の鳩山某氏が都市伝説めいた政府陰謀論を吐いていたが、同調する人間も少なからずいるだろうし、バカバカしいと唾棄する人もいるだろう。
しかし、鳩山某氏が何と言おうと、演劇人であるぼくにとっては、沢尻エリカ嬢の逮捕の方が何倍も心に痛い。
ぼくにとっては「またか」ではないのだ。

今回ばかりは書かずにいられない。エリカ嬢は紛れもなく女優としての才能に溢れた世俗を楽しませる未来の大女優候補者の筆頭だ。麻薬と聞くとぼくは〝若者の教祖〟〝時代の寵児〟と呼ばれた尾崎豊を思い出す。あの才能溢れる孤独な青年の命を奪ったのも麻薬だ。
孤独な才能に麻薬は忍び寄る。
不謹慎だが、エリカ嬢が麻薬の過剰摂取で死んだとしたら、誰もがその死を嘆き才能を惜しむだろう。だが、ぼくはエリカ嬢に麻薬で死んで欲しくない。彼女の関係者の方々にお願いしたい。くれぐれも彼女を潰さないで守って欲しいと願う。
古くは往年の大女優(数年前に故人)、彼女の若い頃は舞台に上がる前にヒロポン(メタンフェタミン)を1本注射してから上がったものだとインタビュー記事を読んだことがある。
それは第2次大戦後の混沌の時代だったとしても、彼女の語り口には何の後ろめたさもないように見えた。他にも、浅草の芸人やダンサーの話にヒロポンは登場した。つまり、その時代、ヒロポンは合法だったのだ。
1960年代には世界中の若者が大麻や合成麻薬にはまった。
笑い話のようだが、貧乏な劇団研究生だったぼくは、金のない仲間たちとバナナの皮を乾かしたり、土手のすかんぽを紙に巻いたり、それこそ寝食を忘れて自家製麻薬作りに没頭した。
一部の特権階級のご姉弟たちが優雅にマリファナを燻(くゆ)らせていたのを夢のように思い出す。彼ら彼女らは生まれ落ちた時から幸運のマントに包まれている。
1967年、九州の片田舎から東京に来たぼくが最も驚愕したのは、カードで食事代を支払う大学生の存在だった。
それはさておき、「ヤクザと芸能界と麻薬、この深い絆?が、50年や100年で切れるか!」と吐き捨てた芸能評論家もいた。
若者の多くが憧れる芸能界やスポーツの世界、歌って踊って芝居をして暮らしていける楽しい世界、子供の頃遊んだ野球やサッカーをしながら楽しく暮らしていける世界…しかし、そこは恵まれた才能と人一倍努力をしなければ生きていけない世界でもある。足を踏み込まなくても情報でわかる。
努力してようやく掴んだ金と栄光、そこで麻薬に手を染める俳優やアーティストも多い。かつて売れっ子作詞家と仲良くなったために共に逮捕された人気歌手のIや歌手S、N、A、それに先の尾崎豊、勝新太郎…、大麻や覚醒剤で逮捕された芸能人の名前を上げればきりがない。
有名人が逮捕される度に、ぼくはいつも疑問に思っていたことがある。エリカ嬢が逮捕されて、ますますその疑問は膨らんだ。
劇作演出家として彼女の才能に惚れ込んでいたからかもしれない。かと言って有名映画監督でもないぼくは彼女と何の付き合いもない。ただただ残念である。それは、逮捕する前に当局として説得出来ないのだろうか? ということだ。
「あんた、麻薬やめないと逮捕するよ、そうなると周りにどれだけ迷惑かかるか分かるよね!」
って、言ってもらえたら、エリカ嬢は素直に「ごめんなさい」と改めたように思う。
いや、彼女だけではなく、過去の歌手や俳優女優、一般人も、麻薬の恐ろしさを知らない人間はいないだろうから、さんざん麻薬をやらせて泳がせて逮捕するんじゃなくて、使用がわかっているなら、わかった時点で一度忠告して、それでもやったら厳罰にするとか…さらけ出す前に何とか、特権階級のご子息ご令嬢みたいに、優しくご指導いただけないのか…ぼくの甘い戯言かな。
それにしても、政治家の目に余る悪事は見逃して人気女優を血祭りにあげるテレビや新聞雑誌は、まるでシオンの議定書にある権力のマスコミ操作法そのものみたいだ。新しい風だと期待したネットニュースも、もはや何の革新性もない権力の傀儡に思える。マスコミは権力の番人じゃなかったのか?
大臣室で賄賂を受け取った政治家は何故罪にならないの? と、子供に聞かれて何と答えればいいのか…三権分立も崩壊した現在、何を言っても無駄なのか?
一部の麻薬が今でも治療薬の一種であることに間違いはない。使い方次第では良薬になる可能性を秘めているのが麻薬だ。
確かに時代は変わった。ヒロポンを打って舞台に上がる時代じゃない。喫煙者は定められた場所でしかタバコを吸うことは許されない。セクハラ、パワハラ、モノハラ、コンプライアンスにミートウ!素晴らしい時代の到来かもしれない。
しかし、人間が人間らしく生きる世界であるはずの時代に、強盗殺人、汚職に無謀な交通事故、世界のどこかで毎日戦争がある。大人は嘘をつき、子供は真似をする。声高に主張する人は注目されるが、片隅で必死に生きる人は見過ごされる。孤独な魂に忍び寄る麻薬の誘惑に立ち向かう方法はないのか…。
それでもぼくたちは生きていかねばならない。人間が本当に生きる意味を見つけるまで、ぼくたちはそれぞれの世界で知恵を絞って生きていかねばならない。
いつの日か、全てを償って老成した女優沢尻エリカ嬢が再び銀幕のスターとして世俗の喝采を浴びる日をぼくは期待する。
朝倉薫(あさくら・かおる)
1948年8月2日、熊本生まれ。劇団主宰、劇作家、演出家、音楽プロデューサー。92年に音楽プロデューサー、雑誌編集から転身を図り劇団を立ち上げる。その後は作家、脚本、演出家として「沈まない船」「桃のプリンセス」「ガラス工場にセレナーデ」などの舞台を手がける。舞台はパイオニアLDC、ポニーキャニオンなどからビデオ化された。元祖アイドル声優だった桜井智は劇団員から育ててきた。現在、劇団「朝倉薫演劇団」を主宰する。これまでに優木まおみ、吉木りさなど数多くの女優、タレントの演技指導にも当たってきた。
ひとつは安倍晋三総理主催のイベント「桜を見る会」にまつわる「公職選挙法違反」の問題、そしてその話題を隅に押しやるかのような人気女優・沢尻エリカの「麻薬取締法違反逮捕」のニュースだ。
「またか」というのは、第一次内閣を途中で投げ出してからワンサカと問題を起こしながらも憲政史上最長の内閣総理大臣を務めているお方の醜聞と、その醜聞が話題になった時に計ったように麻薬で逮捕される芸能人のニュースである。
元総理の鳩山某氏が都市伝説めいた政府陰謀論を吐いていたが、同調する人間も少なからずいるだろうし、バカバカしいと唾棄する人もいるだろう。
しかし、鳩山某氏が何と言おうと、演劇人であるぼくにとっては、沢尻エリカ嬢の逮捕の方が何倍も心に痛い。
ぼくにとっては「またか」ではないのだ。
沢尻エリカは大女優になりうる人物

孤独な才能に麻薬は忍び寄る。
不謹慎だが、エリカ嬢が麻薬の過剰摂取で死んだとしたら、誰もがその死を嘆き才能を惜しむだろう。だが、ぼくはエリカ嬢に麻薬で死んで欲しくない。彼女の関係者の方々にお願いしたい。くれぐれも彼女を潰さないで守って欲しいと願う。
ヤクザと芸能界と薬物の深い絆
大女優と麻薬――。古くは往年の大女優(数年前に故人)、彼女の若い頃は舞台に上がる前にヒロポン(メタンフェタミン)を1本注射してから上がったものだとインタビュー記事を読んだことがある。
それは第2次大戦後の混沌の時代だったとしても、彼女の語り口には何の後ろめたさもないように見えた。他にも、浅草の芸人やダンサーの話にヒロポンは登場した。つまり、その時代、ヒロポンは合法だったのだ。
1960年代には世界中の若者が大麻や合成麻薬にはまった。
笑い話のようだが、貧乏な劇団研究生だったぼくは、金のない仲間たちとバナナの皮を乾かしたり、土手のすかんぽを紙に巻いたり、それこそ寝食を忘れて自家製麻薬作りに没頭した。
一部の特権階級のご姉弟たちが優雅にマリファナを燻(くゆ)らせていたのを夢のように思い出す。彼ら彼女らは生まれ落ちた時から幸運のマントに包まれている。
1967年、九州の片田舎から東京に来たぼくが最も驚愕したのは、カードで食事代を支払う大学生の存在だった。
それはさておき、「ヤクザと芸能界と麻薬、この深い絆?が、50年や100年で切れるか!」と吐き捨てた芸能評論家もいた。
若者の多くが憧れる芸能界やスポーツの世界、歌って踊って芝居をして暮らしていける楽しい世界、子供の頃遊んだ野球やサッカーをしながら楽しく暮らしていける世界…しかし、そこは恵まれた才能と人一倍努力をしなければ生きていけない世界でもある。足を踏み込まなくても情報でわかる。
努力してようやく掴んだ金と栄光、そこで麻薬に手を染める俳優やアーティストも多い。かつて売れっ子作詞家と仲良くなったために共に逮捕された人気歌手のIや歌手S、N、A、それに先の尾崎豊、勝新太郎…、大麻や覚醒剤で逮捕された芸能人の名前を上げればきりがない。
有名人が逮捕される度に、ぼくはいつも疑問に思っていたことがある。エリカ嬢が逮捕されて、ますますその疑問は膨らんだ。
劇作演出家として彼女の才能に惚れ込んでいたからかもしれない。かと言って有名映画監督でもないぼくは彼女と何の付き合いもない。ただただ残念である。それは、逮捕する前に当局として説得出来ないのだろうか? ということだ。
「あんた、麻薬やめないと逮捕するよ、そうなると周りにどれだけ迷惑かかるか分かるよね!」
って、言ってもらえたら、エリカ嬢は素直に「ごめんなさい」と改めたように思う。
いや、彼女だけではなく、過去の歌手や俳優女優、一般人も、麻薬の恐ろしさを知らない人間はいないだろうから、さんざん麻薬をやらせて泳がせて逮捕するんじゃなくて、使用がわかっているなら、わかった時点で一度忠告して、それでもやったら厳罰にするとか…さらけ出す前に何とか、特権階級のご子息ご令嬢みたいに、優しくご指導いただけないのか…ぼくの甘い戯言かな。
それにしても、政治家の目に余る悪事は見逃して人気女優を血祭りにあげるテレビや新聞雑誌は、まるでシオンの議定書にある権力のマスコミ操作法そのものみたいだ。新しい風だと期待したネットニュースも、もはや何の革新性もない権力の傀儡に思える。マスコミは権力の番人じゃなかったのか?
大臣室で賄賂を受け取った政治家は何故罪にならないの? と、子供に聞かれて何と答えればいいのか…三権分立も崩壊した現在、何を言っても無駄なのか?
一部の麻薬が今でも治療薬の一種であることに間違いはない。使い方次第では良薬になる可能性を秘めているのが麻薬だ。
確かに時代は変わった。ヒロポンを打って舞台に上がる時代じゃない。喫煙者は定められた場所でしかタバコを吸うことは許されない。セクハラ、パワハラ、モノハラ、コンプライアンスにミートウ!素晴らしい時代の到来かもしれない。
しかし、人間が人間らしく生きる世界であるはずの時代に、強盗殺人、汚職に無謀な交通事故、世界のどこかで毎日戦争がある。大人は嘘をつき、子供は真似をする。声高に主張する人は注目されるが、片隅で必死に生きる人は見過ごされる。孤独な魂に忍び寄る麻薬の誘惑に立ち向かう方法はないのか…。
それでもぼくたちは生きていかねばならない。人間が本当に生きる意味を見つけるまで、ぼくたちはそれぞれの世界で知恵を絞って生きていかねばならない。
いつの日か、全てを償って老成した女優沢尻エリカ嬢が再び銀幕のスターとして世俗の喝采を浴びる日をぼくは期待する。
朝倉薫(あさくら・かおる)
1948年8月2日、熊本生まれ。劇団主宰、劇作家、演出家、音楽プロデューサー。92年に音楽プロデューサー、雑誌編集から転身を図り劇団を立ち上げる。その後は作家、脚本、演出家として「沈まない船」「桃のプリンセス」「ガラス工場にセレナーデ」などの舞台を手がける。舞台はパイオニアLDC、ポニーキャニオンなどからビデオ化された。元祖アイドル声優だった桜井智は劇団員から育ててきた。現在、劇団「朝倉薫演劇団」を主宰する。これまでに優木まおみ、吉木りさなど数多くの女優、タレントの演技指導にも当たってきた。
- 文化通信特報版
- エンターテインメント業界を内側からウォッチ
株式会社文化通信社は1952年に映画の業界専門紙としてスタート。その後、放送業界、音楽業界へと取材範囲を拡大していった。現在では映画、放送、音楽を中心としたエンターテインメント業界を内側からウォッチし続けている。その情報は「日刊文化通信速報」「月刊文化通信ジャーナル」として購読されている。
特に、「月刊文化通信ジャーナル」は、映画を中心にした綜合エンターテインメント専門誌として55年の歴史を刻んでいる。特に映画系では唯一の業界専門誌として認知されている。
また、関連会社には株式会社文化通信エンターテインメントがある。文化通信社が培ったノウハウを生かしての新規事業や版権事業などを行なっている。文化通信社創立55周年の際はシンガーソングライター松山千春の自伝「足寄より」を「旅立ち〜足寄より」として映画化、さらに60周年では舞台化してきた。
特に、「月刊文化通信ジャーナル」は、映画を中心にした綜合エンターテインメント専門誌として55年の歴史を刻んでいる。特に映画系では唯一の業界専門誌として認知されている。
また、関連会社には株式会社文化通信エンターテインメントがある。文化通信社が培ったノウハウを生かしての新規事業や版権事業などを行なっている。文化通信社創立55周年の際はシンガーソングライター松山千春の自伝「足寄より」を「旅立ち〜足寄より」として映画化、さらに60周年では舞台化してきた。



