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【ルポ・毒親介護】うつ、パニック障害を抱え、老親の年金で暮らす独身姉妹の絶望 『毒親介護』高齢化した「毒親」が奪う子どもの人生――ケース3 - 石川 結貴

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【ルポ・毒親介護】気力、体力、財力が充実した「ハイブリッド老婆」に苦しめられる長女 から続く

「恨みがあっても逃げれらない!」高齢の「毒親」に介護が必要になったとき、かつて虐待を受けた子どもはどうすればいいのか? 毒親との関係に悩む人たちの生々しい声を紹介し、その実態や心の内に迫った『毒親介護』が発売されました。文春オンラインで大反響を呼んだ「ルポ・毒親介護」を再掲載します。

「日本の社会保障は世帯単位、家族でできることは家族でやるというのが原則です。介護にしても親と同居する子どもがいれば、その世帯には人手や収入があるとみなされる。でも実際には、子どものほうが親の年金に頼って暮らすケースが増えています」

 社会福祉に詳しい淑徳大学の結城康博教授は、介護家庭の経済的リスクを指摘する。高齢者(65歳以上)の社会保障費を生産年齢人口(15~64歳)が負担する比率は、2012年時点で1人対2.4人。「騎馬戦型」と呼ばれるが、下支えするはずの馬が騎手に頼るという逆転現象が起きている。

 理由のひとつが、子世代の未婚化や貧困化だ。総務省の調査(2016年)では、35歳~44歳の「親と同居の壮年未婚者」が288万人。完全失業率は8.1%に達し、52万人が「基礎的生活を親に依存している可能性がある」とされている。40代後半から上の年齢を加えれば、さらに大きな数字になるだろう。

 中部地方に住む村山真紀さん(仮名・56歳)もそのひとりだ。(#1「要介護状態になった「毒親」を捨てたい──50歳の息子の葛藤」 #2「気力、体力、財力が充実した『ハイブリッド老婆』に苦しめられる長女」より続く)

◆◆◆

 古い建物が軒をつらねる住宅密集地、3DKの賃貸アパートのダイニングには介護用ベッドが置かれている。母の汚物が染みた紙オムツをゴミ袋に入れ、汚れたパジャマを洗濯機に放り込むと、真紀さんはレトルトのおかゆを電子レンジで温めた。1食分を母と自分とで分けて朝食にする。こうして食費を削っても、生活には少しの余裕も生まれない。

実家住まいの3きょうだいのうち、正社員は弟一人だけ

 83歳の母は要介護2、心臓疾患と歩行障害を抱え、週に3日デイサービスへ通っている。家族は真紀さんの弟(54歳)と妹(50歳)を含めて4人。このうち正規で働いているのは、配送会社に勤務する弟だけだ。

 月当たりの世帯収入は、弟の手取り約20万円と母の年金12万円を合わせて30万円余り。一見支障なく思えるが、その内実にはさまざまな問題が潜んでいる。

「私と弟はずっと独身、妹は一度結婚しましたが子どもができず、8年前に離婚して出戻ってきました。本当なら全員で働けばいいんですけど、妹は離婚時のゴタゴタからうつ病になり、今も半分引きこもりみたいな生活です。私はパニック障害を持っていて、少し働くと具合が悪くなるという繰り返しなんです」

©iStock.com

不安定なアルバイト収入で頼りは「母の年金」だが……

 家賃は弟が支払うが、車や家電製品などのローン返済に追われる上、「家には寝に帰るだけ」という理由でそのほかの負担は拒んでいる。食費に光熱費、医療費といった日々の出費は、真紀さんの不定期なアルバイト収入と母の年金で賄う。姉妹の国民年金や健康保険料もここから出され、母の年金で子どもの年金料を払うという皮肉な現実。少しでも節約したいからと、彼女はパソコンやスマホを持たず古いガラケーを使いつづける。

「最近、過去を振り返ることが多いんです。人並みに結婚していたら、資格でも取っていたら、もっとメンタルが強かったら……そんなふうに次々考えます。自分への後悔や反省点はたくさんあるんですけど、同じくらい母への複雑な思いもあって。今さら親を責めるような真似はできないけど、散々ひどい目に遭わされた人の世話をするのはやっぱりキツイですね」

 疲れた顔で吐き出すと、ふと思い詰めるように眉間を寄せた。

 真紀さんが11歳のときに両親は離婚。母は3人の子どもを育てるため、平日は社員食堂の調理員、休日はゴルフ場のキャディーをして働いた。早朝から家を空ける母に代わり、真紀さんは家事や弟妹の世話をする。長女として母を助けることは仕方ないと思えたが、そこには不快でおぞましい経験があった。

給食費も払えなかった辛い過去

「母はお金もないくせに、ヒモみたいな男と次々につきあう。朝、私が起きると知らない男が裸で寝てるとか、しょっちゅうありました。たいていろくでもないヤツで、酒癖が悪かったり、賭け事が好きだったり。私は今で言う性的虐待のようなこともされたんです」

「性的虐待」の中身を尋ねると、「ポルノ雑誌を見せられるとか、まぁいろいろ……」、そう言葉を濁す。表現できない苦しみを負う彼女には、さらに別のつらさもあった。母が男にお金を貢ぐため、子どもたちの生活が困窮するのだ。

 当時、給食費や修学旅行費などは集金袋に入れて学校へ持参していた。期日になっても払えない真紀さんは、教室の隅で身を縮め、教師の冷たい視線を浴びるしかない。

 自宅の木造アパートには風呂がなかったが、銭湯代にも事欠いた。新しい服や流行りの文房具、友達が持つレコード、年頃の女の子がほしいものはどう願っても手が届かない。

©iStock.com

 学校では「臭い」「貧乏人」と残酷な言葉でいじめられ、家に帰ればろくでもない男が待ち構えた。思い余って母に助けを求めても、「ふーん」と生返事でまともに取り合ってはくれない。真紀さんはそのころの心情を、「死にたいと思ったことは数えきれない」と打ち明ける。

 なんとか高校に進学した真紀さんはアルバイトで学費を払い、弟妹の生活も支えた。卒業後に正社員として就職したが20代からは転職を繰り返し、30代以降は派遣社員として働く。年に数回は母や弟妹と交流していたが、気持ちの上では「もう他人って感じだった」という。

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