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市民の課題解決への意思を信頼し、 政治参加の仕組みをアップデートしていくことが民主主義修復の鍵 ―言論NPO創立18周年フォーラム 第1セッション報告

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 言論NPO創立18周年フォーラムの第1セッションは、「今、代表制民主主義に必要な改革とは」と題し、世界で市民の信頼を失っている代表制民主主義を修復するために何が必要か、議論しました。

 議論には、世界で民主主義の修復に取り組む政治リーダーや研究者らが参加し、様々な文脈から今の民主主義が置かれた困難を説明。

 一方で、市民は依然として課題解決に対する自己決定の意思を持っていることは信頼すべきだ、という認識では一致し、政治と市民、また異なる背景を持つ市民間の対話や、市民の政治参加など、民主主義の仕組みをアップデートする様々なアイデアが出されました。

【第1セッション 参加者】
パネリスト:
ジョゼフ・レンチ(オーストリア新政党「ネオス」設立者)
アレクサンダー・ゲルラッハ(カーネギー倫理国際関係協議会シニアフェロー)
フランシス・キコ・パンギリナン(フィリピン上院議員、自由党前党首)
司会:
工藤泰志(言論NPO代表)
コメンテーター:
吉田徹(北海道大学教授、「日本に強い民主主義をつくる戦略チーム」)

 初めに、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、「市民の信頼を失っている代表制民主主義を修復するために何が必要か、世界で民主主義の現実に立ち向かっている方々と議論したい」と、第1セッションの趣旨を説明。「世界で左右のポピュリズムが台頭する一方、既成政党が凋落し、統治の仕組みへの信頼が揺らいでいるのはなぜなのか。それぞれの国の状況を踏まえて話してほしい」と呼びかけ、議論がスタートしました。

各国で民主主義が動揺している要因は

 オーストリアで新政党を設立したレンチ氏は、その理由として「政党」の問題を指摘。「古くからある既成政党は、政治の風景の変化を見ないで自分たちだけで権力のゲームをしている。一方で人々は実際の政策の変化、改革の実行を求めている」と語り、既成政党が市民の声に向き合わなくなったことが、市民の政治不信につながっているとの見解を示しました。一方、その状況に乗じて台頭するポピュリスト政党が政権を獲ると、市民の要求とは異なる彼ら自身のアジェンダを推し進めていくことになり、それが政治への信頼をますます欠如させるという悪循環につながると述べました。

 そしてレンチ氏は、こうした状況だからこそ、自党のような、「政治スタートアップ」と呼ばれる、既成政党でもポピュリストでもない新しい政党が欧州各地で出現し、市民と政治を結びつけるための新しい挑戦を始めている、と報告。フランスのマクロン大統領率いる「共和国前進」はその一例だとしました。さらにレンチ氏は、政治スタートアップに刺激を受ける形で、既成政党が自己変革を始める動きも出てきていることを紹介しました。

  フィリピンの自由党で党首を務めていたパンギリナン氏は、自党が政権を失った2016年の大統領選を「アキノ前政権の6年間でフィリピン経済は未曽有の高成長を達成、貧困も削減し、株式市場の上昇も達成した。そのため自由党は勝つと思われていたが、ドゥテルテ氏に敗れた」と振り返りました。同氏は、その選挙結果にデジタルメディアが重要な役割を果たしたと指摘し、SNSの150万ものアカウント情報がドゥテルテ陣営に流れたという点で、同年に行われた英国EU離脱の国民投票や米大統領選の「実験台」のような選挙だったと表現。そうして誕生したドゥテルテ政権は、その後も対立政党の有力政治家をフェイクニュースで攻撃し、また、麻薬中毒者の殺害や独立系メディアの弾圧などに見られるように、SNSも活用しながら社会の分断と憎悪を煽り、「恐怖政治、独裁政治」を行っていると語りました。 

 ゲルラッハ氏は研究者の立場から、自由民主主義の基礎は人権という概念を法的枠身によって裏打ちしていることにある、と語ります。その枠組みで与えられる権利は、政治参加や言論の自由といった「市民権」と、最低限の生活保障や教育を受ける権利などの「社会権」で成り立っているとし、両者のバランスを取りながら権利を守ることが重要だとしました。

 その上でゲルラッハ氏は、民主主義が信頼を失っている原因を経済構造に求めました。同氏は、過去25年間、自由民主主義国ではGDPが成長してきたものの、世帯あたりの所得は減り、貧困層が増えていると指摘。将来の生活への展望を失った市民が、自らの生活の向上、つまり社会権を守るためには社会の制度を変えることが必要と考え、そのために市民権を行使しようとしていることが危機の中核だと述べました。そして、こうした市民の不安に迎合して支持を集めているのが、「非リベラルな民主主義」を掲げ、国際秩序から撤退することで国内経済の問題を解決すると主張する指導者だと指摘しました。

 ゲルラッハ氏はこうした状況下で、全ての人が人間としてつながり、災害などの困難で互いに助け合うというコスモポリタニズム(世界市民主義)が失われていると懸念。例えば、先進国の市民は相対的に貧困化が進み、途上国の難民を助ける余裕がなくなっていると紹介しました。そして、貧困化や将来不安の背景には、デジタル化に伴い各国で進む産業構造の変化があると改めて述べ、その中で「市民権」と「社会権」のバランスという観点から、再分配の強化を主張。これにより公共サービスを安価で享受できるようになることが、社会で起きていることに自分が参加できるという感覚につながる、と訴えました。


民主主義の危機に見られる、「アクター」「条件」「環境」の3側面

ここでマイクを握った吉田氏は、3人は民主主義の危機についてそれぞれ違う側面から語っている、と総括。民主主義の「アクター」である政党の劣化に対してソリューションを提供するレンチ氏、非リベラルな民主主義により人権保障の概念が試練に直面しているという「環境」の面を分析するゲルラッハ氏、デジタル化により民主主義が機能する「条件」が変わっていることに着目するパンギリナン氏、と整理しました。

 そして、三つの側面それぞれについて、より構造的な要因を指摘。まず民主主義の「アクター」について、多くの先進国で保守政党は高所得者が、社会民主主義政党は高学歴者が支配するようになり、政党が庶民と切り離されたことがエリート不信につながっている、と分析します。

 二番目の「環境」について吉田氏は、歴史的に見ると、ポピュリズムが台頭するのは産業構造が変化するタイミングだと指摘。現在はIT化を軸としたポスト工業化社会の到来により、中間層が没落の恐怖におびえているが、その意思がエリートに伝わっていない、と語りました。

 三番目の「条件」については、人々の課題認識と政党の競争軸のギャップに着目。「市民が抱える不安は、環境や格差など国境を越え、数世代にわたって解決しなければいけないものだが、政党は各国の国内で、数年ごとの選挙を軸にした政争を続けている。これが、代表制民主主義が機能していないと考えられている一つの要因だ」と指摘しました。

 吉田氏の発言を受けて工藤は、「代表制民主主義は、市民が選んだ代表が課題解決を進める仕組みだ。市民の不安と政治とのギャップが広がっているのは事実だが、市民は本当に長期的な課題を考えて投票できるのか」と疑問を投げかけます。

 加えて、言論NPOが各国のシンクタンクと連携して実施している世論調査では、代表制民主主義を構成する政党や政治家、議会を市民が信頼できないという共通傾向が見られると指摘。「これは代表制民主主義自体への反発なのか、それとも代表制民主主義を新しい形にアップデートすべきという要求なのか」と投げかけました。

政党は市民を信頼し、政治プロセスに取り込む手法を探るべき

 これに対し、レンチ氏とパンギリナン氏は自党の経験を踏まえ、「市民は課題解決の意思を持っており、それを政治プロセスの中で活かすのは政治リーダーの役割だ」と主張しました。

 レンチ氏は、直接民主主義的な手法や「熟議民主主義」など、政策決定において市民により発言権を与える仕組みに言及。政党や政治家が答えを出せない微妙な問題に対しても、市民がつながって議論することで解決策を見出せる可能性があるとし、そのためにも政党はこれまでの内向きな姿勢から脱して、市民を信頼し、市民との直接交流によって声を聞く手法を探るべきだ、と述べました。

 パンギリナン氏は「政党の再定義が必要」と述べ、自党がフィリピンの10万世帯を対象に行った聞き取り調査の結果、支部の増加やボランティア1万人の新規採用など、一般市民が政党に参加する大きな動きが生まれた、と紹介。その理由は「政党が市民を取り込もうという姿勢を見せたからだ」と語りました。そして、「市民は自らの地域で起きていることに懸念を持ち、何とかしたいと思っているが、それを政治にどうつなげるかがわからない」と指摘し、そうした市民の声を取り込むことに政党の役割があると訴えました。

 ゲルラッハ氏は、「ポピュリストもやがて、自らの政策のコストを市民に説明せざるを得なくなる。また、欧州では投票率が上がっており、人々は分極化しているものの、投票に行って代表を選ぶというプロセスは守られている」と、代表制民主主義の仕組み自体が必ずしも危機に瀕しているわけではない、という見方を提示。また、デジタル技術と民主主義の関係を研究する立場から、「テクノロジーを使えば公正な統治が実現するという考えもあるが、政治家はバイアスを好むものであり、デジタルデータが偏った方向に活用される懸念の方が大きい、と述べました。


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