- 2019年11月21日 22:56
民主主義とは自己決定する仕組みだが、AI技術の急速な発展は民主主義にとって転換点となる ~第2セッション「危機感なき日本-国際課題の解決と民主主義の再建に問われた責任とは」~報告
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データとAIの世紀をどう考えるか
石破氏の「資本主義を失った」という指摘に対し小林氏は、データをコントロールして利益を上げていく金融だけが膨れ上がり、ものづくりが停滞している現状に触れつつ、従前の資本主義は終わり、バーチャルな資本主義が現れた」との見方を示しました。もっとも、これは21世紀の必然であり、もはやものづくり中心の経済に戻ろうとすることはかえって不自然であるとも指摘。さらに、データを瞬時かつ大量に分析することが可能な人工知能(AI)の重要性を強調。これまで人類は自らを生物の進化の最終形であると思ってきたが、初めて自らよりも賢いAIという存在に出会った今、これとどう共存するかが問われる革命期に入ったと語りつつ、データとアルゴリズムを握った少数の者が富を独占する時代の到来を予見しました。
しかし、それはさらなる格差の拡大を招くことになるため、小林氏は新たな分配のあり方についても考える必要があると付け加えました。
一方宇野氏は、歴史を振り返ってみれば、産業革命期の1810年代、イギリスの繊維工業を中心に起こった職人や労働者の機械打ち壊し運動「ラッダイト運動」のように新技術に対する反発や抵抗は数多く見られたが、結局人類はそれを機にさらなる進化を遂げたと指摘。今回のAIの出現についても同様に、人類は自らの進化の契機とするとの楽観的な見通しを示しました。また、宇野氏は社会の多元性に再び言及し、AIの持つ高度な処理能力は分断を乗り越えるための視点を見出す上での大きな力になるのではないかと期待を寄せました。ただ、小林氏が指摘したように、「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)のような一部の巨大企業がデータを独占する現状には懸念を示し、オープンアクセスの必要性についても強調しました。
このオープンアクセスと対極の管理社会を構築しつつある中国について小林氏は、習近平国家主席がイノベーションに向けた大号令をかけた4年前には楽観的に見ていたが、このわずかな間での急成長には目を見張るものがあるとし、「テクノロジーが地政学を左右する時代が到来した中、日本は相当な覚悟をしなければならない」と警鐘を鳴らしました。
これに対し工藤は、自己決定の観点から問題提起。人間が自己決定することよりもAIの効率的判断を選んだらその時点で「管理社会の奴隷になってしまう」と指摘。民主主義とは自己決定する仕組みであるが、自己決定を放棄すれば民主主義も自ずと壊れてしまうため、現在のAI技術の急速な発展は、実は民主主義の転換点も突き付けているとの見方を示しました。その上で工藤は、まず民主主義によって新たな技術に関するルールを定めることを先行させるべきと主張。これは民主主義を立て直すための作業そのものになると語りました。
若い世代の政治不信とその解消方法
続いて西村氏は、会場に多くの学生が詰めかけていることを踏まえ、若い世代の政治不信について各パネリストの見解と処方箋を尋ねました。
宇野氏は、都内の高校で出張授業をした経験を振り返りながら、多くの高校生たちは社会貢献に対して意欲的であるとしつつ、その一方で政治、とりわけ政党とは距離を感じていると解説。政治とは結局のところ、社会を変えていくことそのものであるのに、生徒たちにはそうした感覚が乏しく、二つの間でギャップを抱えていると指摘しました。
宇野氏は同時に、自身が大学で指導する学生を島根県の海士町で地域コミュニティづくりに参加させたところ、大きな手応えを得て帰ってきたという経験も紹介。新たなテクノロジーを使いこなせる若い世代の参加を得ながら地域から民主主義を立て直していくことは、若者にとっても民主主義そのものにとっても有効な第一歩になるのではないかと語りました。
工藤は、世論調査結果を見ると、いまだ社会に出ていない人が多い20代未満の層は「わからない」という選択肢を選ぶ傾向が多いことをまず説明。したがって、主権者教育を充実させるとともに、社会参加によって課題について考える機会を増やしていくべきだと語りました。
工藤はその一方で、若い世代だけに期待を寄せるべきではないと注意を促し、「全世代が一緒に歩いて、社会にぶつかっていくべきだ」とも語り、それが民主主義の立て直すことにもつながっていくとの見方を示しました。
小林氏は、日本人の海外留学者数の減少について言及するとともに、若い世代の内向き志向を憂い、異なる文化や価値観に触れていくことは、民主主義を担う次代の主権者としてきわめて必要な経験となることを説きました。

民主主義を立て直すための新たなアイデア
会場からの質疑応答を経て最後に西村氏は、各パネリストに民主主義を立て直すためのアイデアを再度求めました。
宇野氏は、先程の自らの発言を踏まえ、社会参加と人々の間のつながりを強め、「自分たちの力で社会は変えることができる」と思わせることが大事だと主張。市民社会の強化は民主主義の立て直しそのものであると語りました。
小林氏も、システムの見直しよりも市民の中に参加者意識、当事者意識を涵養することが重要であるとし、そのために新たなテクノロジーを活用した魅力的な仕掛けを考えていくべきと語りました。
工藤は、国会以外でも課題解決に向けた議論の舞台を創出するべきと主張。その新たな舞台と国会がアイデアを競い合うことが民主主義に緊張感をもたらすと語りました。
こうした議論を受けて西村氏は、民主主義を支える構成要素のどれかが壊れたとしても支えられるような"松葉杖"を多元的につくるべきであると感じたと所感を述べ、5時間にも及んだ本フォーラムを締めくくりました。
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