
「私たちは自殺行為をしている。地球環境に何が起きるか完全に分かっているのに、まだ続けている」
貧困層に少額の融資をおこなう「マイクロクレジット」の創始者で、2006年にノーベル平和賞を受賞したバングラデシュ人のムハマド・ユヌス氏が来日し、11月14日に日本の高校生らと若者の社会貢献について対話する会が開かれた。
参加したのはすでに社会貢献活動に取り組んでいる、あるいはこれから取り組もうという具体的な見通しをもつ学生たちで、社会貢献を続けてきたモチベーションの保ち方、周囲・大人から受ける圧力への向き合い方など、長年活動を続けてきたユヌス氏へ熱心に質問し、アドバイスを求めた。
現代の若者は歴史上最もパワーをもつ世代

「若者でも身近にできる活動はあるか」
高校生の言葉に、ユヌス氏は「そもそも若者であることは、不利ではなく有利なことだと考えるべきだ」と答えた。
若者は頭が凝り固まっていない。さらに現代の若者は、初めからテクノロジーを使うことができる。 それらの点から現代の若者は「歴史上類をみないパワフルな世代」だとし、それぞれがもつ“世界を変えることができるアラジンのランプ”を認識していないとしたら大変残念だと指摘。
「自分を小さな子どもだと思わないで、非常にパワーを持った人間だと考えて」と語り、大胆に行動する必要性を説いた。
大人の承認を得る必要はない

「どうやって世界中の学生とソーシャルビジネスでつながることができるか。また、大人の圧力にどう向き合えばいいのか」
つながること自体は現代では簡単なこと。そう語ったユヌス氏は、まず一人のアイディアでインパクトを作り出すことが重要だとして、「マイクロクレジット」を始めた当初の経験を振り返った。
ユヌス氏は、農村の貧困層を少額融資で支援したことをきっかけに、「グラミン銀行」を創設。マイクロクレジットという、貧困を減らす新たなモデルをかたち作ったことを評価され、ノーベル平和賞を受賞している。
「バングラデシュの小さな村で、2ドル、5ドルを貸していたときは、まったく意味があるとは思いませんでした。本当にシンプルなアイディアでした。でも今では『すごいアイディア』だと言われるまでになっています」
いいアイディアさえあれば全世界を変えられるし、世界の方からそれを真似しにくると説明した。

一方で当初は「2ドルでどうするの?」などと周囲から否定的な意見もあったと語ったうえで、若者に対しては「大人の承認を得る必要はない」と訴える。
「古い道をそのまま進んでいけば、同じ目的地にしかたどり着けませんよね。これまでの道をそのまま行ったらひどい未来が待っている。だから新しい目的地を探す必要があります」
日本、世界にとって一番の問題は環境問題

「ユヌスさんから見た日本の一番の課題を教えてほしい」
ユヌス氏は、日本は世界から孤立しているわけではなく、世界の問題は日本の問題でもあると説明したうえで、いま世界で重要な課題として「環境」を挙げた。
2050年までに気温が2度上昇する可能性があり、それが「人間が地球上で生きていける最終的なもの」だという。
そしてその30年後の未来は、今の大人は死んでいるかもしれないが、高校生ら若者にとっては生きている間の問題だと訴えた。

さらに、企業、産業が化石燃料を使い、人々がプラスチックを日々の生活の中で使うことで環境問題が進行しているとし、
「問題があると分かっているのに、まるで何事も起きていないかのように、何も手を打っていない」
と現状を嘆いた。
環境問題悪化に進む世界は自殺行為

最後に、国連の気候行動サミットで話題になったスウェーデンの”環境少女”グレタ・トゥーンベリさんの活動にも言及。グレタさんが「大人たちが私の生活を破壊している」「学校に行けというけど、このままでは生き残ることができない」と大人を痛烈に批判した言葉を引用し、まさにこれが大問題だと賛意を示した。
何が起きるか完全に分かっていながら、手を打たずに続けていることを「自殺行為」と表現して現状を嘆く一方で、先進国である日本は世界を先導するリーダーシップをとれるはずだと語り、
「若い世代はリーダーシップを発揮するべきなのです。グレタさんのように『食い止めなければいけない』ということを示さなければ終わってしまいます」
と締めくくった。

なお、広尾学園高校は11月30日、日本財団のソーシャルイノベーションフォーラムで開催される「ユメジツゲン大会」にも出演。中高生を中心とした若者の「社会を変える」挑戦を応援するプラットフォームについて議論し、発表するとのことだ。