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書評「ディープフェイクと闘う『スロージャーナリズム』の時代」 フェイクニュース対抗策の最前線を追う

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フェイクニュースと事実を伝えるニュースを見極めるには、どうするか?

 これまで、以下のような対処法が推奨されてきた。

 -信頼できるニュース媒体が発信しているかどうか

 -見識ある友人・知人による拡散かどうか

 -大手媒体が同様のニュースを報じているかどうか

 しかし、筆者はここ2年ほど、「こういうレベルでの対処方法では十分ではない」という危機感を持ってきた。

 大きな理由を1つ挙げるとすれば、「フェイクの度合いが本物と見分けがつかないぐらいの水準に達しているから」だ。

 また、国家レベルでディスインフォメーション(国家・企業・組織あるいは人の信用を失墜させるために、マスコミなどを利用して故意に流す虚偽の情報)の拡散が常時行われており、どこに真実・事実があるのかが分からなくなるほど、情報が錯綜しているという認識があった。

 もう少ししっかりと、フェイクニュースについて考える時が来たのではないか。

 そう思っていたところに刊行されたのが、本書「ディープフェイクと闘う『スロージャーナリズム』の時代」(朝日新聞出版)である。装丁家菊池信義氏の手による、題字が縦と横にぶつかり合うような表紙が目を引く。

 内容に触れる前にあらかじめお断りしておくと、本書の一部は筆者も時折寄稿する論壇サイト「論座」に掲載され、著者による筆者への英国のメディア状況についてのインタビュー記事も入っている。

 ここでは、この記事以外の部分を紹介したい。

「ディープフェイクと闘う 『スロージャーナリズム』の時代」(筆者撮影)

その問題意識は

 本書の著者は、朝日新聞夕刊企画編集長の松本一弥氏。オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長、WEBRONZA(現「論座」)編集長を経て、現職に就任。メディアの戦争責任を検証したプロジェクト「新聞と戦争」の統括デスクを務めた(のちに、朝日文庫「新聞と戦争 上下」で書籍化された)。

 松本氏は、フェイクニュースやディーブフェイクに「抗い、闘うことを余儀なくされる、そんな時代がやってきた」という認識を持つ。

 書籍や論文に書かれているフェイクニュース現象を紹介するだけでは不十分と考えた同氏は、米国に飛んだ。ワシントン、ボストン、ニューヨーク、シアトル、カリフォルニア、サンフランシスコ、そして沖縄を訪れて、最先端の取り組みに耳を傾け、フェイクニュースに抗う「相手の人間性の一端にじかに触れた上で感じたこと」を伝えている。ここがほかのフェイクニュース関連の本と大きく異なる点だ。

 表題にある「スロージャーナリズム」とは、「報道するスピードを『減速』してゆったりした時間軸の中で深く掘り下げていく」ジャーナリズムを指す。

フェイクニュースに抗う取り組み

 本書がプロローグで取り上げたのは、ディープフェイクとの闘いだ。

 米カリフォルニア大学デービス校准教授のシンディ・シェン氏は、人々が何をもとにして「本物」と「フェイク」を見分けるかの様々な実験を行っている。

 分かったことの1つは、情報の受け手側の経験(ネット上の技術やソーシャルメディアをいかに使いこなしているか)がネット画像の信ぴょう性判断に大きな役割を果たしていたこと。つまり、「誰がその情報を発信しているか」という要素は、「実際には判断に影響を与えない可能性が浮上した」という。

 これに対して、メディアリテラシー教育を施すことが1つの解決策とはなるものの、シェン氏は「何を信用すれば分からない」という猜疑心がまん延する状況にも懸念を示す。

 ところで、ディープフェイクがどのように生成されるのかを考えたことがあるだろうか。

 本書は、経営コンサルタント小林啓倫氏の説明を紹介する。同氏によると、ディープフェイクを生み出す技術の1つは、「敵対的生成ネットワーク」(GAN)と呼ばれるものだ。

 GANのAIは、「与えられたデータをもとに新たなコンテンツをつくり出す『ジェネレーター』役、もう1つはそのコンテンツが本物かどうかを見抜こうとする『ディスクリミネーター』役で、前者のAIは後者のAIからフィードバックされた情報をもとに自らの弱点を分析」する。このAI同士が何百回も繰り返す作業を行う中で、本物により近くなっていくという。

米国でメディアが二極化した過程を探る

 フェイクニュースの事例として、よく使われるのが2016年の米大統領戦であり、ニューヨークタイムズを含む主要メディアこそが「フェイクニュースだ」として批判するトランプ米大統領の一連の発言だ。

 ハーバード大学バークマンセンターのリサーチディレクター、ロバート・ファリス氏は、米国の「右派メディアが突出した二極化」を同僚らとともに徹底調査し、その結果を400ページを超える大著「Network Propaganda(ネットワーク・プロパガンダ)」にまとめた。

 松本氏は、ファリス氏の研究室を訪ねる。

 「哲学者のような風貌が印象的な」ファリス氏によると、米国社会が二極化していることは周知だったものの、データの分析から明確になったのが、「右派メディアと左派メディアのバランスがまったく取れておらず、右派メディアだけが非常に対称性を欠いた中、極端なまでに突出し続けた」ことだった。

 左派及び右派の両方のメディアがフェイクニュースを生成していたが、左派メディアでは事実誤認を駆逐し、軌道修正をしようとする動きが出る一方で、右派メディアはフェイクニュースをさらに拡大させていく特徴があった。

 例えば、右派ブロガーがツイッターを使って不特定多数に情報を拡散し、影響力を持つ別の人がフェイスブックで紹介する。こうして同じエコシステムの中で同一のフェイクニュースやヘイトスピーチが「際限なく増幅」されてしまうのだという。

 ファリス氏や共同執筆者が出した結論は、既存メディアにも厳しいものだった。

 「ネットに蔓延するフェイクニュースは実はそれほど大きな問題ではなく、それよりもむしろ、既存のメディアが間違った情報を垂れ流してしまっていることの方がもっと恐ろしいのではないか」。

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