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「進路相談は5分で終わり」東大合格者を量産する“男子御三家”の意外な素顔とは OBたちの母校に寄せる思いの強さに驚かされた - 矢野 耕平

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 麻布、開成、武蔵は、東大をはじめとする最難関大学に毎年数多くの合格者を送り込み、高度成長時代以降、受験界では「男子御三家」としてその名を轟かせてきた。三校とも非常に個性的な教育をおこなうことでも有名だ。

筆者・矢野耕平氏

 著者は中学受験塾講師として25年以上にわたって指導を重ね、数多くの教え子を男子御三家に送り込んできた。今回、『男子御三家』(文春新書)の執筆に当たって、著者の教え子をはじめ数十人の男子御三家卒業生が取材に協力してくれた。各校が求める生徒像、6年間の学園生活の詳細、さらには男子校ならではのぶっちゃけトークも炸裂。

 今回は、その「序章」から抜粋する。

◆ ◆ ◆

男子御三家とは

「男子御三家」と呼称される私立中学校・高等学校をご存知だろうか。

 これは東京にある私立男子校「麻布」「開成」「武蔵」の三校を指し示している。

 それぞれが長い歴史を背負った伝統校であるとともに、難関大学合格実績では毎年屈指の結果を残している進学校だ(2019年度の東京大学合格者数は、麻布100名、開成186名、武蔵22名)。三校ともその知名度は全国区である。

 そんな学校だからこそ、入口に高いハードルが設けられている。中学受験の世界では難関校として知られ、難問揃いの入試問題に挑み、高倍率の入試を突破しなければならない。中学受験生にとってはまさに憧れの存在である。

 わたしは2015年10月に『女子御三家』(文春新書)を上梓した。「女子御三家」とは、東京にある「桜蔭」「女子学院」「雙葉」の三校を指す。いずれも才女が通う女子校である。この本では数多の卒業生(OG)たちに取材を試み、また、学校関係者の声をふんだんに反映することで、それまであまり知られていなかった女子御三家の実像を浮き彫りにした。卒業生である彼女たちのほとんどは身振り手振りを交えて母校を懐かしく振り返りながら、嬉々として学校の内情を話してくれた。

 では、今回の『男子御三家』はどうか。

 卒業生(OB)たちが嬉々として母校を語るのは同様であるが、びっくりさせられたのは男子御三家出身者の母校に寄せる思いの強さである。むしろ、「強過ぎる」と表現してもよいかもしれない。女子御三家出身者たちはどこか冷静で客観視しているような物言いに感じられたのに対し、男子御三家出身者たちは母校を思い入れたっぷりに、ときには感情をあらわにしながら語るのである。

 母校とはその漢字の意味する通り「母なる存在」である。女性よりも男性のほうがやはりマザコン要素、母校愛というのは強いのかもしれない。そんなことを感じさせられた一端をまずは紹介しよう。

卒業生たちの母校愛

 麻布出身の早稲田大学教育学部4年生に取材を試みた際、彼は麻布のあれこれを思い出して語ってくれたあと、ため息交じりにこう言った。

「麻布の学校生活……。人生であんな楽しかったことも逆につらかったこともない。ぼくは麻布で人生を終えるべきだったといまだに思っています。だから、いまは『余生』を過ごしているわけです(笑)。それこそ三島由紀夫が『本当は戦中で死ぬべきだったのに、生きてしまっている』、そんなふうに語ったことがあるみたいですが、同じメンタリティですね」

 何とも大仰な言い回しに感じられることだろう。でも、彼はいたって真面目にそう語るのだ。そして、彼はこうも言い添えた。

「麻布で濃厚な友人関係を築いてしまったので、大学入学後はなかなか親しくできる人を見つけられませんでした。それでも、大学の友人が二人できました。ぼくは麻布の友人たちと同じくらい大事にしたい。同じように、これからぼくがある女性と出会って結婚するんだったら、相手を麻布と同じくらい愛したい」

 麻布という学校、麻布の友人、麻布時代の思い出が、彼の価値判断の大切な尺度になっていることがわかる。

 開成出身の私立大学准教授に取材をした折、彼は開成に入学した頃を思い出してこんなことを口にした。

「開成に入るまではお山の大将的な意識があったんです。自分より勉強できるヤツはいないだろうと。でも、開成に入ったらただ単に『勉強ができる』というより『こんなに頭のいいヤツがゴロゴロしているんだ』って衝撃を受けました。開成でわたしが得た経験ではこれが一番かもしれません。東大法学部に入ったときも、東大の大学院に進んだときも、開成に入ったときのような衝撃は全く感じられなかったですから」

 武蔵出身の公立大学准教授は、母校を語る際にちょっと過激とも思えることばを発した。

「これから先も武蔵のいいところはそのまま残してほしいです。延命させるために学校の教育方針を変えるならば、最終的には衰退して潰れてしまっても構わないと思う」

 どうだろうか。彼らのことばの一端に触れただけでも、男子御三家卒業生たちの母校愛の強さがひしひしと伝わってくるだろう。

先生たちも相当な熱量で

 本書を執筆するにあたり、数多くの男子御三家卒業生に取材をおこなった。

 それだけではない。男子御三家各校で指導する学校関係者の協力も得られたのだ。

 麻布は、ご自身も麻布出身である校長の平秀明先生が取材を引き受けてくださり、麻布の教育内容のみならず、学校教育の意義にまで踏み込んで語ってくれた。

 開成は「カンハシ」の愛称で卒業生たちから親しまれている名物教師の橋本弘正先生(漢文担当)が取材に応じてくださった。ご自身も開成の卒業生であるとともに、開成で32年間教壇に立ち続けた方である。橋本先生は開成独自の教育、そしてそこで学ぶ(学んだ)子どもたちについて熱く語ってくれた。ちなみに、橋本先生は開成を既に退職されていて、取材当時は海陽学園(愛知県)と明法(東京都)の特任講師を務められていた。

 そして、武蔵は2019年に校長に就任したばかりの杉山剛士先生が取材を受けてくださった。杉山先生は武蔵の卒業生であり、前年まで埼玉県立浦和高校の校長としてその腕を奮ってきた人物だ。加えて、近年の武蔵の教育内容やその課題面についてかなり踏み込んだ話をしてくださったのは副校長の高野橋雅之先生である。高野橋先生は数学科教諭であるとともに、野球部の指導に携わっている。

 母校愛たっぷりなのは卒業生だけではなく、勤務されている先生方も同様だ。

『女子御三家』を執筆した際は、桜蔭、女子学院、雙葉それぞれの学校関係者のインタビューをテープ起こしすると、原稿用紙換算で20~30枚程度だったのだが、麻布、開成、武蔵の学校関係者のインタビュー分量は4060枚程度、つまり、女子御三家の倍になったのである。どの先生方も相当な熱量で自校を語ってくださったのである。

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