- 2019年11月20日 06:00
「新築」という呪縛 日本に中古は根付くのか 中古活性化を阻むしがらみ 「脱新築時代」は来るか? - 中西 享・友森敏雄・濱崎陽平
1/2都心における新築マンションの供給量の減少と価格高騰により、マンションを中心に新築から中古や賃貸物件にシフトする「脱新築時代」とも読める動きが出てきた。不動産業界では中古、賃貸物件の販売を拡大する傾向もみられる。一方で、国の住宅政策は高度成長期から続いてきた新築優遇から大きくは変わっておらず、人口減少が進む中で中古の流通を拡大する政策を促進すべきだという指摘もある。「脱新築時代」の最新事情を追跡した。
3年連続で中古マンションの
契約件数が新築を上回る
首都圏において2016年から18年まで3年連続で中古マンションの契約件数が新築を上回ったことは、不動産・住宅業界に新しい流れが生まれたことを印象付けた。5年ほど前までは新築志向が強かったが、首都圏のマンション価格がこの数年で急騰した反面、所得の伸びがそれに追いつかなかったことから、新築から中古ヘのシフトがみられるようになった。
今年の首都圏のマンション供給量は不動産経済研究所の予測によれば、3万7000戸の横ばい。都心部で大規模物件を供給できる土地が見当たらないことから、今後も大きくは増えないとみている。

同研究所の松田忠司・主任研究員は「首都圏では、00年から07年ごろまでに年間7万~9万戸の大量供給されていた新築マンションが中古として市場に出はじめている。このころのものは設備もしっかりしており、いま流行の間取りを先取りしているのもあり、こうした物件を購入してリノベーションするユーザーが増えている。利便性の高い新築マンションの供給量は今後も少ないので、首都圏に人口流入が続く現状では中古に流れる傾向が続くのではないか」と指摘する。
東京カンテイの調査では、今年9月の首都圏の中古マンションの平均価格(70平米換算)は、前月より0・6%上昇して3727万円、東京都は2・7%増の5165万円で最高値を更新した。
23区内も2・3%増の5764万円と高水準になっている。都心6区(千代田、中央、港、新宿、渋谷、文京)では、ついに8000万円台の大台に初めて達した。これも消費者の都心に住みたい志向が極めて強いことを裏付けている。
井出武・上席主任研究員は「東京23区では中央3区(千代田、港、渋谷)の水準が依然として高く、これに引っ張られて中古マンションの価格はジリジリ上昇している。新築マンションの価格も依然高水準で、富裕層は都心3区のビンテージマンションを求め、実需購入者は築20年前後で城北・城東エリアで比較的安価な中古マンションに流れる状況となっている。
最近は共働き世帯が増えていることから、通勤に便利な駅に近いマンションが好まれる。ただ、パワーカップルと呼ばれる世帯の合計年収が1500万円以上ある共働きであっても23区内で、7000万円台まで上昇した高額マンションを購入することは躊躇してしまうのではないだろうか。それなら、新築よりも平均30%ほど安く買える中古を買って、自分の好みに合わせてリノベーションしようという動きになっているようだ」とみている。
ただし、中古へのシフトが起きているのは首都圏のマンションに限った話だ。現状でも全国における中古の流通シェアは、マンションなどの共同住宅、戸建てを合わせても14・5%という低水準で推移している。
18年に行われた住宅・土地調査(総務省)によると、住宅総数は6241万戸。しかし、その13・6%に当たる849万戸がすでに空き家となっている。マンションの戸数は654万7000戸あるが、老朽化が進んできている。
また、少子高齢化も進み、人口は減少傾向が続く。世帯数の推移を見ると、23年の5419万世帯がピークで、以後は減少し、40年には5076万世帯になる。つまり、人口と世帯数の減少により、住宅需要の先行きは頭打ちになるのは明白だ。 それにもかかわらず、人口と世帯数の構造変化に対応した住宅政策がとられてきていない。
国はこの十数年にわたって、大手デベロッパーによるタワーマンションに代表される新築マンションや戸建て住宅を建て続けることが経済成長につながり、国民総生産(GDP)の増加要因になるとして歓迎してきた。
- WEDGE Infinity
- 月刊誌「Wedge」のウェブ版