- 2019年11月19日 14:38
【読書感想】なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか
2/2「おにぎり35個の万引き」の罪に問われた43歳無職、元公務員の回より。
安定した公務員の生活から、窃盗で捕まる路上生活者へ。そこには、理想と現実のギャップで苦しみぬいた経緯があった。
被告人が役所で担当していたのは障害者福祉だったが、そこは路上生活者など社会的弱者を食い物にして儲けようとする、法律の穴を狙ったタチの悪い連中が集まる場所でもある。
その一方で、まっとうに生きていても経済的に恵まれず、やむなく生活保護を受けたいと申し出る人が、なんらかの理由で拒まれてしまうこともしょっちゅうだ。いくら個人的に力になりたいと思っても、どうにもならないことが起きる。高い理想を抱き、人の役に立ちたくて公務員になったのに、現実との間には大きなギャップがあり、そのことが被告人を苦しめる結果になった。
ほとほと嫌気が差した被告人は考える。公務員の立場ではできることがほとんどない、と、周囲の人はつい被告人に、公務員を続けつつ問題点を改善すればいいと言いたくなるが、現場で味わった絶望感は大きく、本人は公務員を辞め、直接的にろうあ者の力になるため、フリーランスで手話通訳の仕事を始めた。
ところが、仕事の依頼をしてくるのは(被告人によれば)暴力団関係者ばかり。弱者の味方になるどころか、暴力団関係者がろうあ者からまんまとだましとった金の一部を報酬として受け取る立場になってしまったのだ。
「手話通訳の仕事はみんな暴力団がらみなんですか。違うでしょう?」
「いえ、ほとんどそうです。いくら手当を出しても、儲けるのは悪い連中ばかりなんです」
裁判長が常識的な意見を言っても一歩も引かず、「現実はそうなんだ」の一点張りである。組織に守られることのないフリーランスの身では悪い連中を追い払うことさえできず、悪人の片棒をかつぐことになってしまう。そんな自分の仕事の状況に、被告人はまたしても耐えられなくなってしまう。
悪い連中に利用されていても収入を得て、食べていかねばならない。そのような、割り切った考え方ができない被告人は、せっかくの技能を封印することを決意。高所恐怖症なのにとび職に就こうとするなど、だんだんやけになっていく。
こうして、どんどん追い詰められていって、生きついた先が「おにぎり35個の万引き」だったのです。
おにぎり35個は、5000円相当だったそうですが、万引きするのであれば、もうちょっとお金になりそうで、見つかりにくいもののほうが良かったのでは……と思います。
自暴自棄、という心境だったのでしょうね。逮捕時の所持金が147円だったことを考えると、捕まりたかったのかもしれません。
この「転落劇」を辿っていくと、いままでの職場で「不自由」だったり、「不本意」だったりすることが多くて、自分が本当にやりたいことをやるためにフリーランスになるということのリスクも考えてしまうのです。
なんのかんの言っても、組織には(とくに公務員のような場合は)、自分を守ってくれる面もあるのです。
でも、フリーランスの手話通訳にまわってくる仕事って、本当にこんなのばかりなのだろうか……事実だとしたら、あまりにもひどい話だ……こういうのも「割り切って、稼ぐために汚れ仕事でもやる」という人もいるんですけどね。
それができる人なら、こんな形で裁かれることもなかったはず。
世の中というのは、真面目な人や優しい人、気が弱い人を「食いものにする」仕組みが張り巡らされていて、一度それにとらえられてしまうと、抜け出すことができない。
著者が裁判所での人々のふるまいから学んだ「ビジネスに活かせる振る舞い」についても書かれており、裁判傍聴に興味がある人なら、面白く読めると思います。
登場人物にはなりたくないけれど、ちょっとしたはずみで、「あちら側」に行ってしまう可能性は、たぶん、誰にでもあるのです。

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