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【読書感想】なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか

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なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか ビジネスマン裁判傍聴記

Kindle版もあります。

なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか――ビジネスマン裁判傍聴記

内容紹介

▼人には誰にも「別の顔」があるーー。善良な人が罪を犯しまさかの「転落」した切ない実話33。

月間5000万超PVのプレジデントオンライン超人気連載の書籍化。

▼「おにぎり35個万引き事件」の43歳被告人の逮捕時の所持金は147円。

3つの大学を卒業し公務員の職に就いたエリート男がなぜ……。

▼ほか、ふとした邪心や油断、運命の悪戯によって犯罪に手を染めた人たち、

「現在は無職」となった33人の被告人の物語を、法廷ウオッチ19年の著者が紡ぐ。

【本書に登場する主な被告人と、彼らに学ぶ生き抜くためのスキル】

●超模範社員が「夜は別の顔」で懲役30年(30代営業マン)

●不倫が妻と会社にバレた男の巧みな後始末(40代管理職)

●躊躇なく女性の胸を触る男の恐るべき思考(39歳独身バイト)

●スロットで万札溶かした男の弁護人の情熱(23歳建設現場)

●人は見た目が9割を信じる人はバカを見る

●なぜ「相手の目を見て話す」と損するのか?

 20年近く「裁判傍聴」を続けてきた著者による、「元ビジネスマン・現在は無職」の被告人たちの物語。

 反社会的勢力に属しているような人の犯罪は、ある意味「それが収入源でもあるからなあ」と思わざるをえないところがあるのですが、定職があり、周囲からみれば「普通の暮らし」をしているにもかかわらず、なんらかの理由で犯罪に手を染めてしまう事例というのは、少なからずあるみたいです。

 読んでいると、「そんなことをするのはおかしい」と憤るようなものよりも、自分だって、同じ立場になって、お金に困ったら、こういう「しょうもないこと」をやる可能性はあるのではないか、と考えてしまうのです。

 被告人は営業職のビジネスマン。定年まで4年に迫った56歳の大ベテランだが、マイホームのローンと子どもの教育ローンを抱えて経済的に楽ではない。まだ1500万円も残金があるが、退職金でローン返済を終わらせ、老後に備える人生設計を立てていた。よくあるケースだろう。

 しかし、ダブルのローン返済はきつい。ぜいたくせずに支払いを続けてきたが、子どもの学費を払ったタイミングで携帯電話料金の支払いをするだけの蓄えが底を突き、口座引落ができないなど経済状態が逼迫する。被告人が言うには、それとタイミングを合わせるように、複数の知らない業者からケータイにメールがきたのだそうだ。

「無担保で200万円まで融資が受けられる、というものです。正直、怪しいと思いましたが、生活費が足りない状態でしたので飛びついてしまいました」

 公判では触れられなかったが、一般的なカードローンはすでに限度額まで借りていたのだと思う。金欠で焦っていた被告人がA社に60万円の融資を申し込むと、新規で携帯電話の契約をして電話機を送れば貸すという条件が出された。とにかく現金が欲しい被告人は申し込みに行ったが、支払いの滞納があったため新規契約ができない。と、新たな条件が提示された。

「私(被告人)名義の銀行の通帳とキャッシュカードを3行分、上野にある業者の私書箱まで送れば、融資する60万円を3行に分けて入金し、通帳などは送り返すという話でした」

 どんなに甘く考えてみても、まともな金融会社でないことは誰だってわかる。しかし、わらにもすがる思いの被告人はそれに応じてしまう。

 いくらお金に困っているとしても、こんなのに引っかかるなんてバカバカしい……と思うんですよ。

 ところが、人間、本当にお金に困ってしまうと、冷静な判断力が失われ、目の前にある「お金がもらえそうな方法」に、すがりついてしまうものみたいなのです。

 とはいえ、犯罪は犯罪なわけで。

 この被告人が「家族や会社に今回の(犯罪と裁判の)件を言っていない」と証言したことに対し、裁判長は「家族に言わないままでいいのか。話さないのは疑問です」と苦言を呈しています。

 うん、それはたしかに正論だ。

 しかしながら、著者は、それが正論であることを認めたうえで、こう述べているのです。

 裁判長の言うことは正しい。被告人は送った通帳やキャッシュカードが犯罪に使われるであろうことを知っていたに決まっている。そんなことはどうでもいいから60万円貸してほしいと考えていたのだ。送付先に私書箱を指定する相手が、約束通り60万円融資してくれるはずはないのだが……。

 しかし、それはマヌケというより、そこまで頭が回らないほど必死だったと考えることもできる。60万円は遊びに使いたくて借りようとしたのではない。生活費を補充し、ローンの返済をすみやかに行うためである。

 ローン返済が滞ればどうなるか。最悪、マイホームを取り上げられたり、子どもの教育に支障をきたすようになる。被告人はなんとかしてそれを防ごうとしたのだ。

 やったことは悪い。法律に反した行為だった。自分勝手な行動で、多くの人に被害を与える可能性もあった。しっかりしろよ、と僕も言いたい。が、だからといって裁判長の正論にうなずく気にもなれないのだ。

 営業マンとして数十年も働いてきた被告人には、守りたいものがある。せっかく建てた家であり、家庭の安定だ。手段は間違えたけれど、今回の事件もそのために起こしたようなものなのだ。もしも60万円借りられていたら、被告人は昼食代を節約し、妻にバレないような言い訳をしてボーナスの一部を使い、きっちり返そうとしただろう。

 家族に知られれば、家庭は大混乱になる。離婚されるとか、子どもから軽蔑されるとか、いいことは何もない。お父さんは私たちのためにそこまでやってくれたんだ、なんて思ってはもらえない。

 会社にバレれば、クビになる可能性が高いし、退職金も、もらえなくなるわけです。

 「正直」であることは人間にとって美徳ではあると思うけれど、この被告人の場合、それが本当に正解なのかどうか。

 もちろん、隠しきれずにバレてしまい「なんで黙っていたのか」と決定的な破綻をもたらす可能性もあるのですが。

 裁判長は立場上、「正論」を述べなければならないのでしょうけど、著者は、裁かれる側の事情についても、なるべく寄り添いながら書いているように感じました。

 しかし、「遊ぶ金ほしさ」ではなく、住宅ローンに教育ローンに追われてこんな事態に陥ってしまうのであれば、そりゃ、持ち家や結婚、子どもを持つなんてことをためらう人が増えていくのもわかります。

 もちろん、やってはいけないことなのは、間違いないけれど。

 この本を読んでいると、どうしようもない人だなあ、と呆れてしまうような事例とともに、「真面目すぎて(あるいは、優しすぎて)、どんどん自分を追い詰めてしまう人」がいるということを思い知らされます。

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