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米国の中絶率、過去最低に その理由は?

マックス・マッツァ

Getty Images 米最高裁前で抗議する人工妊娠中絶賛成派と反対派

アメリカの人工妊娠中絶率が、 連邦最高裁が人工中絶を女性の権利として認めた1973年の「ロー対ウェイド」判決以降で最も低くなっていることが、9月18日に発表された最新の調査結果で明らかになった。専門家は、中絶率の減少理由を特定するのは難しいとしている。

中絶権を支持するガットマッハー研究所は、2017年に約86万2320件の人工中絶が行われたと推定している。これは、2011年の約20万件を下回っている。ピークだった1990年には約160万件の中絶が行われていた。

10年近くにわたり、保守的な州や自治体の政治家が中絶を規制しようと取り組んできたが、同研究所は、中絶件数の減少は必ずしも新しい法律が関係しているわけではないとしている。

では、アメリカの中絶率が史上最低を記録した理由は何なのか。5つの仮説をあげてみた。

生殖医療の改善

病院や中絶クリニックの調査をもとに定期的にまとめているガットマッハー研究所の報告書の著者は、中絶減少の理由の1つが、避妊が容易になり、女性用避妊具が改良されたことである可能性を発見した。

子宮内避妊具やインプラントは過去10年で改良されたほか、2009年に議会を通過した「負担可能医療法(Affordable Care Act、ACA)」(通称オバマケア、医療制度改革法)により、次第に保険会社に補償されるようになっている。

同研究所のエリザベス・ナッシュ氏は、ACAや州法などが避妊へのアクセスを拡大していると話す。

ナッシュ氏は、報告書は全国平均を示している一方で、個々の状況は反映していないと警告する。たとえば、2014年に中絶手術を受けるために女性が移動した平均距離は55キロだが、一部の女性はもっと長い距離の移動を強いられていた。

「自分が住んでいる街に中絶手術を受けられる施設があって、バスや電車で移動できる人がいる一方で、数百マイルもの距離を移動する人もいる」

在宅中絶

報告書によると、中絶手術ではなく在宅での医療中絶を選ぶ女性が増え始めている。ただ、記録が残されている中絶の95%は専門のクリニックで行われている。

クリニック以外での中絶を追跡することは難しい。そのことが、中絶率の減少の背景にあるとみられる。

医療中絶はいわゆる中絶ピルを使って行うもので、2017年には全体の39%を占めた。2014年の20%から増加傾向にある。

報告書によると、2017年に行われた中絶の10件に4件は、手術ではなくピルを用いたものだったという。

法的規制の強化

2011年から2017の間に、中絶に関する394の新たな州法が32の州で成立した。最も厳格な州法の一部は、ガットマッハー研究所の調査が行われた後の2018年に、保守的な複数の州で可決した。しかしその中のいくつかは、裁判所の判断を受けて施行が一時保留されている。

中絶反対派は、各地の法律の効果を証明するものとして、中絶率の減少を喜んだ。

生まれる権利を守る全米委員会(NRLC)のローラ・エシェヴァリア氏は、「地域の法律は影響を与えていると思う。大きな影響がないのであれば、なぜ中絶業界のあらゆる人たちは法律が可決するたびに憤慨するのだろうか」と述べた。

一方、ナッシュ氏は、各地の法律は国内での中絶率の減少において「確実に影響を与えている」が、「数字は事の全容を物語ってはいない」と指摘する。

「中絶率は、減少しようが増加しようが、中絶へのアクセスの指標にはならない。我々に必要なのは、個々人のために中絶制度がどう機能し、手の届く価格で利用できるかどうかを考えることだ」

2014年から2017年の間に中絶規制が可決した一部の州では、実際には中絶率が増加した。そしてクリニックを新設した複数の州では、中絶率が減少した。

総合的に見ると、この3年間ではアメリカの中絶クリニックの数は増えたものの、2017年以降は一部クリニックが閉鎖している。

出生率の減少

女性が欲しいと思う子供の数は減少しており、昨年米政府が公表したデータによると、米国内の出生率は1987年以降で最も低くなっている。

2018年の報告書によると、出生率と生殖能力は30年間で最も低いという。

アメリカの研究者は、より多くの女性が高等教育や職を求めていることが出生数の減少の要因の1つだとしている。

他の要因には、社会的期待の変化や、避妊へのアクセスが容易になったこと、育児休暇の取得に制約があることなども含まれるかもしれない。

妊娠に対する意識の向上

「生まれる権利を守る全米委員会(NRLC)」などの反中絶団体は、報告書のデータは正しいと認めている。ガットマッハー研究所が、中絶を行う医師らと密接な関わりを持っているからだ。

「アメリカ人に胎児の人間性について啓発し、中絶を規制する法令を可決することを目指す中絶合法化反対運動の取り組みは、影響を与えている」と、NRLC代表のキャロル・トビアス氏は言う。

NRLC広報担当のローラ・エシェヴァリア氏は、直近のスーパーボウルで流れた広告で、おやつを欲する胎児の超音波映像が使われていたことに言及し、「子宮内部で起きていることへの認識」は広まっていると付け加えた。

(英語記事 Why are US abortion rates at a record low?

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