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あなたは人事を信じますか?

 さて世の中には体罰容認の声も根強いものですが、こうした人々に共通しているのは何よりも「ナイーブさ」でしょうか。体罰が解禁されれば、自分たちが「悪」と感じている相手を、教員が体罰を以て制裁してくれると、そう無邪気に信じているわけです。もっとも私は、体罰容認論者のように教員を信じることはできません。体罰の禁止がなくなったところで、教師の暴力が向かう先は、本当に「力」で制圧する他ない人々ではなく、単に教員が嫌っている相手の方でしょう。

 同様に解雇待望論みたいなものもあるわけです。雇用維持が全ての悪である、会社のほしいままに従業員を解雇できるようになれば全てが良くなると、そう説いて恥じない人もいます。こうした類への賛同者も少なくありませんが――そこに共通しているのもまた、体罰容認論と同様の「ナイーブさ」だと言えます。

 ようするに解雇規制(そんなものが実在するかは疑わしいですが)さえ撤廃されれば、会社のお荷物になっている人がクビになり、懸命に働いている自分たちに利益が回ってくると、そう無邪気に信じているわけです。いずれもシンプルな勧善懲悪の世界に生きている人々の思考と言いますか、そんな風に世の中が単純であったらいいですね、としか言い様がありません。

 体罰を待望している人々が「殴って欲しい人」と、教師が「殴ってやりたい奴」が一致する可能性は、極めて低いことでしょう。もし「自分と○○先生は一心同体、○○先生なら必ず△△を罰してくれる」と確信できるのなら、体罰を求める心情も分かります。しかし、そんなに学校教師って、信用できるのでしょうか? そして同様に会社の役員や人事を、あなたは信じられますか?

 もし「働かないおじさん」が会社の要職にいて、働いているはずの「自分」が冷遇されているのなら、それは会社の人事評価基準に照らして、「あなた」の方が働いていないから、と言うことに他なりません。自分の目から見て「働いていない」人が、会社の目から見て「働いていない」とは限らない、むしろ真逆であることすら珍しくないわけです。そして会社がほしいままに従業員を解雇するなら、当然のごとく標的は「会社から見て」働いていない人の方です。

 自分の評価と会社の評価は完全に一致している、自分の評価が低いのは自分の働きが悪いから、◇◇さんの評価が高いのは◇◇さんの会社への貢献が著しいから――そう確信している人が解雇規制緩和論をヨイショするのであれば、まぁ筋は通っています。しかし、会社の下す評価に多少なりとも異論があるにもかかわらず解雇規制緩和に同調しているとしたら、その人の主張は完全に矛盾しています。

 とりあえず私の勤務先ですと、評価されるのは専ら「改革バカ」だったりします。営業であれば売り上げの数値で誤魔化しも効くのですが、非営業の場合はとにかく「変える」とことが評価に繋がります。逆にやることを「変えない」、日常の業務を運営することに関しては全く評価に繋がらないのが特徴です。誰も望んでいないことを改革と称して強行して周りを振り回せば昇進し、変える必要がないからと従来通りのやり方を維持すれば「やる気がない」と叱責される、そんな会社です。

 皆様のお勤め先は、いかがでしょうか。私の会社で恣意的な解雇が許されるようになったなら、中核的人材として会社に残されるのは業務を引っかき回すだけの改革バカばかりで、実務を支えてきた「改革ごっことは無縁の人々」は追いやられることが予想されます。即ち会社に必要な人材が解雇されて無用な人間が残ることになるわけですが――皆様の勤務先ではいかがでしょう。どういう人々が「会社から」働きを認められ、どういう人々が「会社から」疎まれているのか、会社にクビを切る刃物を持たせるのが適切かどうかを考える際には、まずそれを頭に入れておく必要があります。

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