■「スクラム」の強固さを競い合う時代へ
通信業界を片隅から覗いている筆者にとって気になるのは、両社の経営統合が実現した場合、それは通信業界の競争激化を促すのか、それとも寡占化が進むのかという点です。結論から言えば、競争は「寡占化しつつも激化していく」ものと考えられます。ただし、その発端はソフトバンク傘下のヤフーやLINEからではなく、やはり楽天が中心となるでしょう。
楽天のMNO参入にMNOの既存3社は表面上冷静なコメントを残していますが、内心穏やかではないのは察するところです。ソフトバンクのみならず、NTTドコモやKDDIが自社経済圏の拡大や地盤固めを急ぐ背景には、総務省指導による通信料金の低廉化や端末販売の分離に伴う通信事業収益の低下がありますが、それだけではないはずです。
これまで3社で拮抗していたMNOの枠組みへ、楽天という新たな脅威が食い込んでくるのです。しかも相手は独自経済圏の猛者。楽天が強みとする各事業へ対抗できる力を持たなくてはなりません。どこか1つの事業でもシェア争いに負けて小さな穴を開けられるようなことになれば、それが蟻の一穴となりグループ全体を揺るがす大問題となりかねないからです。

楽天はMVNOで天下を取った。MNOでも天下を取りに来ることは間違いない
企業買収や経営統合が「弱肉強食」という言葉で表現されていたのは、もはや昔の話です。各社が経済圏の確保と拡大に邁進する現代において、経営統合などが意味するところは「一致団結」です。
強みを持つ企業が、別の強みを持つ企業と連携を取ることで穴を塞ぎ、シナジー(経済圏による相乗効果)によってじわじわと相手を追い詰め押し込めていく。それはまるでラグビーのスクラムのようなものです。
現代の日本のIT・通信業界は、まさに「どれだけ強固なスクラムを組めるか」の戦いになりつつあります。すでにソフトバンクグループ傘下であるヤフーはそのスクラムに入りました。LINEはどうでしょうか。LINEモバイルとともにソフトバンクグループの強力な助っ人となる可能性は、十分にあるように思われます。
記事執筆:秋吉 健