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日本の金継ぎ、イギリスで大ブーム中 - 鈴木綾

ロンドンの書店に並ぶ金継ぎ哲学の本

「綾ちゃんはキンスーグって知ってる?」

と前のルームメイトにこの間いきなり聞かれた。

「キンスーグ?  って金継ぎのこと? 壊れた道具を金でつなぐ」

「そう! キンツギ。去年授業で勉強した。」

知っている人も多いと思うけど、金継ぎというのは、日本の伝統的な陶磁器の修理法のこと。割れたり欠けたりした陶磁器を漆で接着して継ぎ目に金や白金などの粉を蒔いて飾る。金継ぎしているところのことを「景色」と言って、骨董の茶碗なんかだと金継ぎしてあった方が価値が高かったりする。

ルームメイトが通ったビジネス・スクールの先生がリーダーシップのゼミで金継ぎの話をしたらしい。先生の説明によると、全てのリーダーたちには傷や過去のトラウマがある(リーダーじゃなくても誰だって忘れたい黒歴史がある。ベタなアクション映画ヒーローみたいけど)。いいリーダーになるには強くなるための教訓として自分の傷を金継ぎの美しいひびのように受け入れるべきだと。

この話をルームメイトに聞いてから、金継ぎのことをあっちこっちで見たり聞いたりするようになった。気になって色々調べてみた結果、イギリスでも他のヨーロッパの国でも、金継ぎは一つのブームになっていることがわかった。例えばアマゾンUKで「金継ぎの本」を検索すると150件も出てくる。その一冊は表紙が金継ぎっぽくなっている聖書。ううう…

キーワードの人気度を検索できるグーグル・トレンドで確認すると、外国人は2013年ごろから金継ぎに興味を持ち始めたようだ。理由はよく分からないけど、ちょうど2013年に円安になって日本に行く外国人観光客数が急に増え始めた。外国人が日本全体に関心を持つようになったのに合わせて金継ぎに関する意識が高まったと言えるだろう。


で、ここからが大事なことなんだけど、金継ぎブームの牽引役は陶磁器オタクではない。外国人は金継ぎという「哲学」に興味がある。

外国人が考える、金継ぎという「哲学」は何だろう。

「金継ぎ:自分の欠点を受け入れ、幸せを見つけよう――日本式に」という本を執筆したトマ・ナバロによると、手術の傷跡を気にせずにビキニを着てビーチに行く乳房切除患者は「金継ぎ哲学」の典型的な実践者だ。

「自分の心の地図のように、金継ぎは教訓を教えるし、真実を明かす力がある。」と日本人の母親を持っているアメリカ人シェフ兼ウェルネス・ライター、キャンディス・クマイが話す。キャンディスは去年、「金継ぎウェルネス:マインド・ボディー・スピリットを養う日本の伝統(Kintsugi Wellness: The Japanese Art of Nourishing Mind, Body, and Spirit)」という本を出した。

「自分の壊れている、難しい、辛い部分を光や金や美しさを照らしている部分として見るのを誰でも選択できる。」

キャンディスによると、西洋の文化は均整を美徳にするのに対して、日本は不完全なものに美徳に見出す。

海外に渡った日本食や日本の伝統は違う形に「進化」を遂げる。カリフォルニア・ロールやH&Mで売られる「キモノ」は日本にインスパイアされているけど、日本に存在しない。もちろんそれが悪いと言うわけではない。日本で大人気のカステラや金平糖はポルトガル発祥のスーツだけど誰でもそれを悪いと言わない。

金継ぎ哲学もそう。外国人が自分の持つ日本文化に関する意見や印象というレンズを通じて金継ぎを見て西洋に合わせたのは金継ぎ哲学。

今や、メンタル・ヘルスとこころの健康はヨーロッパとアメリカのマスコミの一大関心事だ。日本や東洋の哲学は西洋ではとても尊敬されている。だから西洋人が金継ぎに心の平穏や生きる知恵を求めるのは分かる。

他文化の知恵や哲学を勉強するのは人をより寛容的にする、という点でとてもいいことだと思うけど、日本とイギリスだけではなく全ての国が直面している国民のメンタル・ヘルスの悪化、生きづらさの問題は、金継ぎ哲学だけでは解決しないだろう。

私が「金継ぎ」に見出すのはウェルネスでも傷跡でも照らす美しさでもない。私の金継ぎ哲学は文字どおり、「持っているものを長く大事に使おう」ってこと。

先週、虫に食われたセーターを東ロンドンのバングラデシュ仕立屋に修理に出した。この仕立屋はバングラデシュ人が前からたくさん住んでいるブリック・レインから一本入った小さな路地にある。お店の中は古いミシンや洋服で乱雑しているし、面積は6畳くらいしかないのに3人が働いている。修理に出して一時間の立たないのに優しい仕立職人さんからSMSが来た。

「修理ができました」

虫食いの部分がほとんど分からない。長く着よう。私の金継ぎセーター。

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