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- 2019年11月16日 11:05
KIRINJIが語る、新しい音楽への好奇心と「断絶の時代」に紡ぐ言葉
2/2今は、毒気のある言葉をわざわざ歌にするのも違う
─例えば前作に収録された「時間がない」では、当時49歳だった高樹さんの「残りの人生」について歌っていました。今作でもこの「killer tune kills me」をはじめ、「休日の過ごし方」や「隣で寝てる人」など高樹さんの年齢だからこその「リアル」があります。実際、今年50歳を迎えたわけですが、何か思うところはありますか?堀込:「休日の過ごし方」は、自分がもし結婚もしないで一人でミュージシャンとして生活していたらどんな感じかな?ということを思い浮かべながら書いた曲です。独身の友人は結構多いのですが、彼らはみんなアイドル好きになっちゃって(笑)、イベントへ行ったり、小さなライブハウスに通い詰めたりしているんですけど、でも彼らはちょっと前まで、休みの日となると映画へ行ったり美術館へ行ったり、そのあとオープンしたばかりの話題のカフェへ行って、休憩がてらお茶して……みたいな過ごし方をしていた(笑)。最近、日曜日にカフェに行くと、一人で来てお茶を飲んでいる人が増えましたよね。
─”約束はない 予定はあっても 映画と本屋とカフェ”というライン、独身中年としては刺さりまくりました(笑)。そういえば去年だったか、日刊ゲンダイで中年男性が一人でフジロックへ行く現象について取り上げられていましたよね。記事の内容には賛否両論ありましたが。
堀込:へえ、そうなんですね。僕も去年テントエリアに泊まっていたら、隣が一人用テントで。静かに過ごしていらっしゃいました。俺も独身だったらこういうことしたいなあと思いましたけど。
─千ヶ崎さんは、この辺りの高樹さんの歌詞をどう思いましたか?
千ヶ崎:”自由の刑に処せられたプリズナー”は強烈ですよね。
堀込:(笑)。僕も結婚する前とか、そんな感じでした。会社勤めもしていて、彼女もいない時期だと休みの日にキリンジの曲を作って、でもそれだけだと息が詰まるから気分転換に外へ出かけて。
千ヶ崎:「時間が有り余る感覚」ってもうなくなっちゃいましたよね。そういえば学生の頃とか、美術館の横の噴水近くで昼寝とかしてたな。
堀込:ちょうど僕はその頃、川崎に住んでいたんですよ。二子玉川を過ぎて高津とかその辺りだったから、意味なく鶴見や浜川崎とか行っていました。東芝の工場に勤めてる社員だけが使う鶴見線に乗って。
千ヶ崎:あと、「隣で寝てる人」は、聴けば聴くほど面白い曲(笑)。ちょっと「silver girl」の続編のようにも感じました。この辺りの描き方が、歳を取るにつれて高樹さんの中でどう変わっていくのかは楽しみですよね。興味が尽きない(笑)。

Photo by Takanori Kuroda
─歌詞が変わってきたのは、お子さんが大きくなったことも関係していますか?
堀込:音楽の趣味は日々変わるし、もちろん息子の影響も受けるけど、歌詞に関しては「変わった」という自覚があまりないです。ただ、いっときよりも毒気がなくなったとは言われますよね。でも、世の中に毒気のある言葉が溢れているから、わざわざここでそういうことを歌にするのもなんか違うよな、という気持ちはずっと続いていて。
千ヶ崎:でも、毒気を吐きたい性質というのは高樹さんの中に、おそらく今もあるわけじゃないですか。
堀込:(笑)。
千ヶ崎:表層には現れていなくても、その毒は歌詞の中から時々感じますし、むしろそこが僕はすごく好きなんですよね。
新鮮な気持ちで作曲に挑まないと、完成までたどり着かない
─ところで今回、サウンド的にはどの辺の音楽が共通言語になっていました?堀込:ラファエル・サディークの新作『Jimmy Lee』とか。話には出なかったけどビリー・アイリッシュとかね。あんなに低音がブワッと出ている楽曲が、普通にみんな聴いていて「かっこいい」と言われている状況にはインスパイアされました。他にはポスト・マローンの、ちょっとロックっぽいテクスチャなんだけどローもたっぷりある感じ……今は、完全にそっちにシフトしているんだなって思いますし、実際そういうものを気持ちいいと感じるようになってくると、従来のポップスの音像だとちょっと物足りなくなってくるんですよね。
─アルバムの中で、特にアレンジや音像などが振り切れた楽曲というと「善人の反省」になりますかね。
堀込:あの曲は最初、ローファイ・ヒップホップみたいなアレンジにして、2分くらいでお茶を濁そうかなと思ったんですよ(笑)。
千ヶ崎:確かレコーディングの最後に出来たんですよね。高樹さんのアレンジって、いつも完成形がはっきり分かるくらい最初の段階から作り込んであるのですが、あの曲は珍しくそうじゃなかった。ピアノとメロディと、仮のループ・パターンくらいで送られて来ました。でも、たまにはこういうのに自由にベースを当ててみて、あとからギターや歌を乗せていくっていうのもやり方としては面白いなと。KIRINJIではほんと、初めての試みだったし。
堀込:ただ、最初から最後までローファイ・ヒップホップだけだとさすがに飽きるなと(笑)。もう少し面白みのあるものにしたいと思って、ギター・ソロに対してメロディを乗せてみました。要するに、ジャズでいうところのヴォカリーズというか。ああいうノリで出来ないかと思い、歌詞カードを見ながら歌とギターを同時に考えていきました。
─歌詞から作るのって、珍しくないですか?
堀込:実はここ何作か、サビやBメロはしっかりメロディを作り込みつつ、ヴァースに関しては先に歌詞を書いて、それをもとにメロディを派生させるということをやっています。今作だと「killer tune kills me」の、弓木さんが歌っているパートはそういう作り方ですし、「『あの娘は誰?』とか言わせたい」のサビ以外もそう。基本的に歌詞を書いてから、それをどうメロディにしていくか? という発想で作っています。
─なぜそういうやり方にシフトしたんですか?
堀込:Aメロからサビまで全てメロディをかっちり決めてしまうと、なんかニューミュージックっぽくなっちゃうんですよ。今の日本のポップスって、2拍3連や5連符のように、譜割に特徴のあるものが増えていますよね。中村佳穂さんやSIRUPにもそういう曲があって、やっぱりすごくカッコ良いい。彼らはラッパーではないけど、リズムの取り方が明らかにヒップホップ以降の発想なんです。そういうものを、自分でも何か出来ないかなと思ったところから始まった試みです。
─これもまた別のインタビューで高樹さんは、「以前(『DODECAGON』の頃)はそれまでのキリンジに対し、どうやって別のイメージを備え付けるかが念頭にあった。でも今回の場合は、現在の音楽シーンにどれくらい寄せていけるかという意識のほうが強い」と話していました。「現在の音楽シーンにどれくらい寄せていけるかという意識」は、単純に新しい音楽への好奇心からきているのか、あるいは「危機感」のようなものなのか、最後にお聞かせください。
堀込:危機感のようなものは特にありませんが、ただ作る時に新鮮な気持ちで挑まないと、完成までたどり着かないんです。例えばピアノで曲を作り始めるとして、ミドルテンポのいい感じの曲が出来たと。「最近、こういうのやってなかったから仕上げてみるか」という感じで始めても、途中で嫌になってくる。「これだったらドラムを録って、そこにベースを重ねて、ピアノはこんな感じで」っていうふうに先が見えてしまうと盛り上がらないというか。
─下手したらボツになるかも知れない、くらいの緊張感があったほうが作り甲斐があると。
堀込:「これが出来たら大変なことになる!」みたいな気持ちで制作に当たるというか、自分でもどうなるか分からないような、今話した「善人の反省」みたいな曲もそうだし。そういうところに面白さを感じているのでしょうね。
KIRINJI
『cherish』
2019年11月20日リリース
初回限定盤ボーナスDVD:
「killer tune kills me feat. YonYon」、
「Almond Eyes feat. 鎮座DOPENESS」のミュージックビデオを収録。

[初回限定盤] [SHM-CD+DVD]
KIRINJI TOUR 2020
2020年2月28日(金) 札幌 PENNY LANE 24
2020年3月5日(木) 広島クラブクアトロ
2020年3月7日(土) 福岡 イムズホール
2020年3月13日(金) 仙台 Darwin
2020年3月18日(水) 大阪 Zepp Namba (OSAKA)
2020年3月20日(金・祝) 名古屋クラブクアトロ
2020年3月24日(火)、25日(水)LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂)
2020年3月28日(土) 沖縄 桜坂セントラル
KIRINJI公式ページ:
https://www.kirinji-official.com/
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