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KIRINJIが語る、新しい音楽への好奇心と「断絶の時代」に紡ぐ言葉

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左から千ヶ崎学、堀込高樹(Photo by Takanori Kuroda)

KIRINJIによる通算14枚目のアルバム『cherish』が11月20日にリリースされる。

本作は、前々作『ネオ』から続いている「エレクトロとオーガニックの融合」という、ここ最近のKIRINJIの路線の延長線上にあるもの。YonYonや鎮座DOPENESSという2人のラッパーをフィーチャーしつつ、エレクトロやヒップホップの要素を絶妙なバランスでブレンドしながら、相変わらず洗練されたKIRINJI流のポップ・ミュージックを作り上げている。とりわけ印象的なのは低域の処理の仕方で、これまで以上にファットなキックやベースがサウンドスケープに新たな奥行きと広がりを与えている。

そうしたサウンドの変化・進化に伴い、堀込高樹の書く歌詞世界も確実に変化を遂げている。初期の人を食ったようなシニカルかつ難解な言葉遊びは影を潜め、世知辛い現代社会に対するメッセージ・ソングや、「老い」に対して正面から向き合った楽曲など、これまで以上にストレートな内容のものも多い。結成から23年。今年50歳を迎えた堀込率いる彼らが、今なお新たなことにも果敢に挑戦していくモチベーションは一体どこから来るのだろうか。堀込高樹と千ヶ崎学に訊いた。

サウンドで意識したのは「レンジ感」

─本作『cherish』は、『ネオ』から始まった「エレクトロとオーガニックの融合」の総仕上げという感じがしました。

堀込:前作『愛をあるだけ、すべて』を作り終えて1年経たないうちから制作に入ったので、やっぱり前のモードは残っていました。あのアルバムは評判も良かったし自分でも作っていて楽しかったので、この感じでもう1枚くらいは作れると思い、それを推し進めたという感じです。打ち込みの割合も、もしかしたら前作より増えているのかもしれません。そういう、エレクトロと生のバランスみたいなことも意識しましたが、今回はより「レンジ感」というものを考えながら曲を作ったり、アレンジやミックスをしました。

─「レンジ感」は確かに変化を感じました。特に低音の作り込みが、これまで以上に緻密になされていますよね。

堀込:高域を広げるのは割と簡単というか、痛くない程度に「ヌケ」を良くすればいいのですが、低域はダブつきやすい。ちゃんと締まった感じで、大きな音で鳴らした時に心地よくなるポイントを見つけることが大事でした。

─その辺りを意識するようになったのは、やはり昨今のシーンの動向を踏まえた上で?

堀込:それもありましたし、サブスクのプレイリストなどで他の楽曲と並んだ時、「下が軽いなあ」と思うことがJ-POPの曲にありがちで。特に千ヶ崎くんはベースだから、そういったことに対してプレイヤーとしてもリスナーとしても敏感だと思います。「どのくらい下が出ているか?」という感覚は僕より鋭いので、そこは彼と相談しながら作り込んでいきました。

千ヶ崎:前作までは、自分のベースに関しては自宅で録ることが多かったのですが、今作は高樹さんのホームスタジオで録りました。そういう意味でもコミュニケーションは密になったと思います。顔を突き合わせながら、結構細かいところまで相談し合って作った曲が多いです。低い波長というのは、音像の中で様々な影響を及ぼします。ミックスの中でも、エネルギーの半分は低音が占めるので、そこをどう扱うかというのは、レンジが広くなればなるほど重要になってくる。今はむしろ、レンジが広いのがデフォルトとなってきているので、そこは録りの段階から意識するようにしていました。



─当然、使う楽器やフレージングも変わってきますよね?

千ヶ崎:明らかに変わってきます。KIRINJIでは今、ほとんど5弦ベースを弾いているのですが、5弦の開放弦まで使うことって、以前はそれほどありませんでした。それが今はアレンジの段階で、その音まで含まれた発想に高樹さんがなっている。ただし、そういう重低域をこれまでと同じような感覚で弾いてしまうと音程感が薄れてしまうので、フレージングはもちろん録り方にしても、「どうやったら締まった低音になるか?」ということは意識しましたね。

─聴覚上、低い帯域になればなるほど音程が取りにくくなりますからね。

千ヶ崎:そうです。なのでベースに含まれている倍音をどう処理するか、それも踏まえた上での機材選びになってきます。ベースの場合はDIボックス(※)が今はものすごく重要。最近はどの現場に行っても、ベーシストがDIを何個も持って来ていて、さながら「DI展示会」みたいになっているとエンジニアから聞きます(笑)。ライン録音が主流になればなるほど、最初の入り口であり、レンジ感を決めるDIの役割が大きくなって来ているのだと思います。

※ダイレクト・インジェクション・ボックス:エレキギター、ベース、キーボードなどの楽器を、直接ミキサーに接続する為のインピーダンス変換機

─割と長い間、BOSSとCOUNTRYMANが定番でしたよね。

千ヶ崎:そうですね。真ん中をきっちり録ることが優先されていたというか。今は、人間の耳では聞き取りにくい帯域までをもどうやって押さえておくか?という感じ。Pro Toolsのレベルが上がっているというのもあって、そこをちゃんと録れるかどうかが、のちのミックスにも大きく影響してくる。なので、そこはより気をつけました。

「killer tune kills me」に見る現在のモード

─ちなみに、アルバムの『cherish』というタイトルの由来は?

堀込:「killer tune kills me feat. YonYon」の歌詞の最後でYonYonが、”I want to cherish my tune”と歌っていて。要約すると”思い出を大切にしたい”ということ。僕はチェリッシュと聴いてぱっと思い浮かぶのは、フォークデュオくらいだったのですが(笑)、「そうか、cherishって大切にするという意味なのか。良い言葉だな」と改めて思ったんですよね。

ただ、実際にアルバムで歌われている内容は、あまり「cherish」していないというか(笑)。むしろ、「cherishな状態が欠けている世の中だからこそ、その言葉が求められている」という逆説的な内容だと思います。例えば、「『あの娘は誰?』とか言わせたい」では、華やかな曲調ですが「貧困」について歌っている。きらびやかな一方で、ものすごく寂しい現実があるということが楽曲全体のテーマになっています。

─「cherish」が欠けた状態だからこそ、その存在感が際立っているというか。ともあれ今作では、かなりメッセージ性の強い歌詞が増えましたよね。

堀込:今の世の中、純粋なラブソングを作る気にはやっぱりなれなくて(笑)。どうしたってその時の時代の空気やムードからは影響は受けます。今話したような「貧富の格差」もそうですし、思想信条の違うもの同士の断絶……ちょうどレコーディング中は、日韓関係が緊迫した時期だったんですよね。どうしても、そういったムードに影響は受けてしまう。



─今回、YonYonさんの韓国語ラップをフィーチャーした経緯は?

堀込:韓国のラップや歌モノって、パリッとしていて聴いていて気持ちいいなと以前から思っていました。その矢先に彼女がSIRUPと一緒にやっている「Mirror(選択)」をたまたまラジオで聴いて「カッコいいな」と。そうしたらある日、InstagramにYonYonさんからフォローされて。いつか機会があったらよろしくお願いしますなんて話していたら、ちょうどいい曲が出来たので「これ幸い」とばかりにお願いしました。

昔から韓国にはKIRINJIのお客さんが結構いらっしゃるので、そういう方々はもちろん、日本のポップスに興味を持っている方たちにもぜひ聴いてもらいたいと思いました。今や韓国が、「アジアン・ポップスのハブ」となりつつある。日本はもう、その役目を終えて韓国や台湾、インドネシアに重心が移動してしまったような気がしています。インディーっぽい音楽も面白い。例えばSE SO NEON(セソニョン)などは、初めて自分がブラジルのロックを聴いた時に近い感動があって。メンバーの一人、So!YoON! (a.k.a Soyoon)が最近『So!YoON!』というソロアルバムを出したのですが、それもいろんな音楽的要素が入っていてカッコいいんですよ。



─弓木さんがメイン・ボーカルのシングルというのは、実は「killer tune kills me」が初めてなんですよね?

堀込:KIRINJIのファンの方で、ライブにもよく足を運んでくださる人なら、弓木さんが歌ったり、コトリンゴさんがいた頃は彼女が歌う曲も存在していることを、ご存知だと思いますが、ラジオやテレビでシングルしか聴いたことがない人は、僕らのことを「男性ボーカル・バンド」としか思っていないかも知れないな、と。弓木さんはパーソナリティもすごく魅力的だし、ウィスパーじゃないんだけど、歌い上げてもいない。普通に歌っている声が、すごく綺麗で印象的なんですよね。こんなに素晴らしいボーカリストがいるのに世に出さないのはもったいない。ちょうど彼女も「弓木トイ」という個人のプロジェクトを立ち上げたところなので、タイミングとしてもいいかなと思いました。

─この曲の歌詞に目を向けると、終わってしまった恋を「昔夢中になって聴いたキラーチューン」になぞっています。高樹さんは別のインタビューで、「ひとつの音楽に対して、今は10代の頃のようにどハマりできないな、という気持ちを感じていた」「『あんな経験って、もうできないのかな』と、少し寂しさを感じる部分があったりして」とも語っていましたが、それって音楽以外でも感じますか?

堀込:例えば映画を観ていても、「あ、この感じは前にもあったよなあ」とか考えてしまって、以前よりも夢中になれないときがある。それって本当に良くないと思っているのですが、年齢的なものというより、山ほど映画を観てしまったり、音楽を聴いてしまったりした人特有の思考回路なのかも知れないですね。恋愛映画とかも、なかなかこの年では盛り上がりにくい(笑)。そんなふうに情熱が消えかかっていく寂しさを歌っているようにも取れるし、失恋した女性の歌とも取れる。ただし「燃え尽きかけてる中年の歌」というのが前面に出るのは問題といえば問題で……。

─(笑)。

堀込:僕が歌ってたら、そう聴こえていたかも知れないけど、弓木さんとYonYonの声だと、一気に甘く切ない素敵なポップスになるのが面白いですよね。

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