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ダルビッシュ有 どんな作戦も通用しない、本格派であり技巧派 - 野村克也

野球界には、ときどき「怪物」と呼ばれる者が現れる。 元祖怪物・江川卓、「ゴジラ」こと松井秀喜、投打二刀流で「100年にひとり」と言われる大谷翔平……。
野村克也さんの新刊『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)では、教え子である田中将大、「難攻不落」と評するダルビッシュ有から、ライバルだった王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手まで、名将ノムさんが嫉妬する38人の「怪物」を徹底分析しています。

*   *   *



正直、プロ入り当初のダルビッシュ有は、それほどのピッチャーだとは思わなかった。

東北高時代は2年の春から4季連続甲子園に出場。2年夏に準優勝、3年春には熊本工相手にノーヒットノーラン、3年の夏は3回戦の9回に大会初失点し、延長の末涙を呑んだと記録にはあるが、私は憶えていない。ドラフト1位で日本ハムに入団後も、あまり印象はなかった。

だが、身体が大きくなるにつれてボールにスピードが増した。加えて鋭いカーブを持っていて、私が「原点能力」と呼ぶ、アウトコース低めにきちんと投げ込む能力も備わった。「これはいいピッチャーになるな」という気がした。ほどなく、ダルビッシュは怪物としての真価を発揮しはじめた。

ダルビッシュのどこが卓越しているのか──。

本格派であり、技巧派でもあるという点だと私は思っている。つまり、スピードだけでも充分勝負できる本格派でありながら、多彩な球種を持ち、緩急、内外、タテヨコ、出し入れを自在に使いこなす技巧派としても超一流なのである。状況や自分の状態、相手バッターの力量・狙いに応じて、本格派と技巧派を使い分けるのだ。

言い換えれば、それは危機察知能力、危機回避能力が高いということでもある。楽天ゴールデンイーグルスの監督だったとき、2009年の開幕戦でダルビッシュと対戦したことがあった。前年は防御率0.45に抑えられていた反省から徹底的に研究した結果、こういう作戦を採用した。

「ホームベースの内側1/3、すなわちインコースは見逃し、アウトコースのストライクとボールをしっかり見極め、右方向へ打ち返す」

この攻略法が成功し、楽天は初回に3点を先取。岩隈久志がこれを守り切り、約1年ぶりにダルビッシュから勝利をもぎとったのだが、2回以降は沈黙させられた。また、右バッターにインコースのツーシームを徹底して狙わせたときも、立ち上がりこそ成功したものの、ダルビッシュはすぐにこちらの狙いを見抜き、インコース狙いを逆手にとられて以降は抑えられた。すでに当時のダルビッシュは、難攻不落のピッチャーに成長していた。

私が考えるエースの条件

そんなダルビッシュの真骨頂といえるのが、テキサス・レンジャーズに移籍して2年目、2013年4月2日のヒューストン・アストロズ戦だ。初先発のダルビッシュは、9回2死まで完全試合という、見事なピッチングを展開したのである。

14個の三振を奪い、残るアウトもほとんどが内野ゴロ、外野フライはふたつだけだった。アストロズ打線は、本格派と技巧派を使い分けるダルビッシュの前に、ストレートを打ち損じ、変化球をひっかけてボテボテのゴロの山を築いたのだった。

こうした高い能力に加え、ダルビッシュについて私が評価するのは、エースの条件を満たしていることだ。

私の考えるエースの条件とは、第一に、チームの危機を救ってくれることにある。

チームが不調のとき、打線が沈黙しているときであっても勝利をもたらしてくれるということである。

そしてもうひとつが、チームの鑑であること。ほかの選手の見本となれる存在であるという意味だ。かつては素行に若干の問題があったダルビッシュだが、ある時期からガラッと変わったという印象を私は受けた。トレーニングやピッチングに対する研究心も旺盛のようだし、さまざまな社会貢献活動も行っていると聞く。近年は故障がちで、やや精彩を欠いているようだが、まだまだこの怪物には可能性があると私は期待している。

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