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特集
いのちを食べて生きる
焼き肉にハンバーグ、コロッケーー。寿司や鍋もそうでしょう。毎日の食べ物には動物や魚などの「いのち」が多く含まれています。まさしく「いのちを食べて人は生きる」。口に運ぶまでの過程には様々な人が携わっています。そんな人の姿を取材してみると、葛藤や喜び、そして、色濃い人間ドラマに出会いました。

ジビエ人気も捕獲数のうち9割廃棄の現実 ブームの影で何が起きているのか

  • 2019年11月19日 09:10
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最近、飲食店やメディアなどで「ジビエ」を見聞きする機会が増えているのではないだろうか。シカやイノシシなどの野生鳥獣肉。「臭みが強い」といったイメージがつきまといがちだが、調理次第でおいしく食べられ、しかもヘルシーな食材として話題だ。なぜ今、ジビエなのか。苦難の歴史と、人気の理由を探る。

大量のシカの死骸。命が粗末に扱われている

Pixabay

「大きな穴の中に、シカの死骸がたくさん埋まっていました。見るに堪えない、無残な光景でしたよ」

一般社団法人日本ジビエ振興協会(以下、ジビエ振興協会)の代表理事・藤木徳彦さんにとって、あのときの光景が今も目にこびりついて離れない。シェフとしてレストランを経営する傍ら、20年近くジビエの普及に奔走してきた。走り続ける原点は、そこにある。

約20年前、自身のレストランで使うシカ肉を調達するため、ある猟師のもとを訪ねたときのことだった。待っていたのは、大量のシカの死骸。「命をこんなに粗末に扱っていいのか。ショックでしたね。命あるものを生かして、無駄なくいただく。おいしく調理できれば、愛される食材になる。そんな料理人としての思いが、この活動の原動力です」

“厄介モノ”から、“地域資源”へ。行政、飲食店などが動き出す

「野生の旨みを、噛み締めろ」。ジェイアール東日本フードビジネスサービスが首都圏の駅ナカを中心に展開しているファストフードチェーン「ベッカーズ」で10月1日、期間限定商品「別格 信州ジビエ ザ★鹿肉バーガー」が発売された。

鳥獣被害対策で捕獲・処理された長野県産のシカ肉を使用。ベッカーズが同県産のシカ肉を使ったジビエバーガーを販売するのは、今年で7年目となる。シリーズ累計約10万食を売り上げる人気商品だ。

そもそも、ジビエとは何か。シカやイノシシなどの野生鳥獣の食肉を意味するフランス語で、フランスをはじめヨーロッパでは高級食材として親しまれてきた。一方、日本では長く猟師やその家族、近隣住民などの家庭食として使われてきた。レストランや飲食店などで提供されるケースは稀で、多くは埋設、焼却処分されてきた歴史がある。

それがここにきて、なぜ注目されるようになったのか。それは、ジビエが地域活性化の起爆剤になると期待されているからだ。

今、全国各地で野生鳥獣による被害が深刻化している。狩猟者の高齢化と減少が止まらず、野生鳥獣の生息数は各地で増加。農作物を食べたり、田畑を荒らしたりと甚大な農業被害をもたらしているのだ。農林水産省の調査によると、農作物被害額は164億円(2017年度)に上る。直接的な被害だけではない。それによって農家の営農意欲が低下し、離農、さらには耕作放棄地の増加に拍車をかけかねない。

そこで野生鳥獣の捕獲を強化し、さらに食肉として有効活用することで、新たなビジネスや雇用につなげようという動きが生まれた。各地の行政や飲食店関係者らが動き出し、国も法整備などに乗り出した。外食チェーンや飲食店も、新たな食材として高タンパク・低カロリーなジビエに目を光らせている。厄介モノから、地域資源へ。ジビエは今、こうして生まれ変わる最中にある。

ただ、ここまでたどり着くまでには長く険しい道のりがあった。

十数年前まで「食べていい」決まりはなかった

「食肉として扱うためのルールがなかったんです」。そう話すのは、ジビエ振興協会の藤木さんだ。

東京都出身で、1998年に長野県茅野市にレストラン兼宿泊施設「オーベルジュ・エスポワール」を開業した藤木さん。地元産の食材を使った料理にこだわる中で、シカ肉の存在を知った。これをレストランで提供し、さらに「信州ジビエ」として地域のブランドにしようと思いついたという。

2004年、まずは近隣の飲食店関係者を招いてジビエ料理の勉強会を開催することにした。しかし、予期せぬ事態に直面する。保健所からストップがかかったのだ。

「野生鳥獣の肉をメニューに入れるのは『けしからん』と言われたんです。当時は、食肉として扱うための衛生管理の基準がなくて。食べちゃいけない基準もなければ、食べていい基準もない。だから、保健所としては許可できないというわけです。これだけ鳥獣被害が深刻なのに、県はもちろん、国も基準を設定していませんでした」(藤木さん)

そこから、藤木さんは県とともに野生鳥獣を食肉として利用するためのルールづくりに乗り出した。2007年、県は衛生管理に関するガイドラインを作成し、捕獲から運搬、処理、加工・調理、販売までの各工程について基準を設定。「最初の一歩を踏み出した」(藤木さん)

これに全国の自治体が着目し、「教えてほしい」と藤木さんのもとに依頼が殺到。藤木さんは各地を駆け回り、自治体や飲食店関係者らと勉強会を重ねた。その後、各地で長野県と同じようなガイドラインが策定されることになる。そして2012年、藤木さんはジビエ料理の普及を目指す全国組織として、ジビエ振興協会(当時はNPO法人、2017年に一般社団法人化)を立ち上げた。

ジビエ振興協会は、全国各地でジビエ解体処理講習会を開催している。(ジビエ振興協会Facebookページより)

ジビエ流通量の増加も、利用率はわずか7%

一方、国も動き出した。2007年、深刻化する鳥獣被害に歯止めをかけようと、鳥獣被害防止特措法を制定。対策を講じる自治体への財政支援や、狩猟や被害対策に関わる担い手の確保に乗り出した。そして2014年、厚生労働省は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」を策定し、捕獲から販売までの衛生管理に関する基準が設けられた。国はその後も関連制度の改正などを行い、ジビエ消費を増やすための環境整備を進めてきた。

その影響もあり、近年は有害鳥獣の捕獲頭数が増加している。同特措法成立前の2006年、20万頭を切っていたシカの捕獲頭数は2016年に58万頭に増加。イノシシも同様に増えている(下記グラフ参照)。また、ジビエの利用量も徐々に増えてきている。農林水産省の調査によると、2018年度に全国約560の食肉加工処理施設で処理されたジビエ利用量は1887トンに達し、前年度から約16%増加。このうち、ペットフードや自家消費分などを除き、食肉として販売目的で処理されたのが1400トン(前年度比約22%増)。シカが約5割、イノシシが約2割を占める。

シカ(右)とイノシシともに、近年は捕獲頭数が増えている(環境省調べ)

こうした数字を見ると、ジビエの利用が進んでいるように見える。ただ、その裏にはもう1つ、驚くべき数字がある。捕獲した鳥獣のうち、実際に処理した割合を示す利用率だ。2016年度のシカとイノシシの利用率は、実に約7%にとどまる。最新の調査(2017年度)でも、約8%とほぼ横ばいだ。残りの9割以上が埋設、あるいは焼却処分されているのだ。

※シカとイノシシを合わせた利用率は約7%にとどまる。(2016年度実績。農林水産省資料より。捕獲頭数は環境省調べ)

捕獲頭数が増えているのに、なぜここまで極端に利用率が低いのか。藤木さんは、それを阻む壁の1つに「流通」の問題があると指摘する。

「今これだけジビエと叫ばれている状況でも、ここには卸業者が参入してないんです」。藤木さんがそう話すように、ジビエについてはまだ一般的な流通体制が整備されていないという。

なぜなのか。まず、全国の食肉加工処理施設は数人規模で経営しているケースが多く、人手不足もありまとまった流通量を確保するのが難しい。価格が安定しないため、卸も参入に二の足を踏んでいるのだ。今はほとんどの施設が自ら地道に営業し、飲食店などと直接取引しているのが実態だという。いくら捕獲しても、消費の出口がなければ利用率は上昇しない。「今はほとんどの処理施設で在庫が余っている。捕獲し、処理しても置いておくスペースがない状態」(藤木さん)という。

国、地域を挙げて取り組む鳥獣被害対策とジビエの利用。一歩ずつ前進してはいるものの、まだ課題は少なくないようだ。

認証制度がスタート。若い狩猟免許取得が倍増

「ジビエの歴史はまだ浅いですからね。ルールのないところから始まって、そうはいってもものすごいスピードでここまで来たと思いますよ」。課題はあるものの、藤木さんはこれまでの前進ぶりに手応えも感じている。

冒頭で紹介したベッカーズのほかにも、ジビエ料理は大手ファストフード店や居酒屋チェーンなどでメニュー化される例は増えている。ジビエと聞くとフランス料理が真っ先に浮かぶが、和洋中とバリエーションも広がっているという。

そうした中、農林水産省は2018年5月にシカとイノシシを対象にした「国産ジビエ認証制度」をスタートさせた。厚生労働省が策定したガイドラインの順守に加え、新たに金属探知機による検査や、捕獲地や賞味期限などを記したラベルの表示などを義務付けた。

より厳格な衛生管理基準を設けることで、外食チェーンなどにとって安心感が増し、仕入れやすくなる効果が期待できるという。現在、認証を取得した食肉処理加工施設は8つにとどまるが、「認証を取りたいという声は多い」(藤木さん)と、今後どんどん増えていきそうだ。

また、ここにきて各地の食肉加工処理施設が広域連携する動きも出てきた。国産ジビエ認証を取得している「信州富士見高原ファーム」(長野県富士見町)。ここは認証を取得する他の7カ所の施設と連携し、まとまった量を安定的に素早く配送する体制づくりを進めている。流通に対する新たなアプローチだ。

依然として狩猟者の高齢化と減少は続いているものの、新たに狩猟免許を取得する人が増加傾向にあることも追い風だ(下記グラフ参照)。特に近年は40代未満の占める割合が上昇しており、2016年は1割を超え、10年前から倍増した。

新規の狩猟免許取得者数。全体として増加傾向にあり、40代未満の割合が増えているのも特徴だ(環境省調べ)

ブームから、定着へ。スーパー、学校給食も視野に

20年かけて、ようやくここまでたどり着いた。危機感は変わらずあるが、希望もある。だから藤木さんは、これからも走り続ける覚悟だ。

「このままでは、地方はどんどん疲弊していきますよ。鳥獣被害対策は待ったなしです。ジビエはまだ、『最近よく聞くよね』くらいの小さなブーム。これを早く定着させないといけません。まずは外食チェーンなどで食べていただく機会を増やして、次はスーパーマーケットで売られ、学校給食にも入る。そんな身近な食材として、みなさんの食卓にどんどん普及させていきたいですね」

ジビエ市場はこれからさらに拡大していくのか。ブームから定着へ。今がまさに、その正念場なのかもしれない。

(文・近藤快、編集・石川奈津美)

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<イベント情報>
第6回 日本ジビエサミット in 東京「国産ジビエの最前線 広がるジビエ流通」
日時:2019年11月20〜22日
場所:東京ビッグサイト
主催:一般社団法人日本ジビエ振興協会
HP:http://www.gibier.or.jp/06summit/

「全国ジビエフェア」
日時:2019年11月1日〜2020年2月28日
主催:一般社団法人日本フードサービス協会
HP:https://gibierfair.jp

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