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北欧の福祉を見て「日本でも同じレベルの制度をつくれる」と確信しました -「賢人論。」第104回(中編)香取照幸氏

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2000年、日本の介護保険制度がスタートした。それまで「公助」である措置制度で運営してきた高齢者介護を「共助」である保険制度に転換する、大きな出来事だった。そのとき、厚生省(現・厚生労働省)の高齢者介護対策本部で働いていた香取照幸氏(事務局次長補佐、のちに事務局次長)は、この制度の立案から実現までをどのようにして見つめていたのだろうか?

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

デンマークの福祉政策に見た、日本の活路

みんなの介護 介護保険は、それまで日本に存在しない制度でしたから、その創設には大変な苦労があったと思います。香取さんご自身は、始めから実現可能だとお思いでしたか?

香取 私が最初に介護保険のことを意識したのは1990年、埼玉県庁に出向して、そこの老人福祉課長をしていたときのことです。

埼玉県は当時、高齢化率が10%にも届かないほどの若い県で、当時厚生省で老人福祉課長をしていた中村秀一さんから「在宅福祉施策後進県ナンバーワン」なんてレッテルを貼られてイジメられていました(笑)。

中村さんはスウェーデン大使館勤務経験があり、1990年のゴールドプランが実施されたとき、「2000年までにホームヘルパーを10万人に増やす」という目標を達成するための陣頭指揮を執っていたんですね。

当時の埼玉県知事は畑和(はた・やわら)さんで、80歳を過ぎたばかりのころだったせいかどうかはわかりませんが、「福祉先進国の視察をしてみたい」と言い出したんです。そこで、私がデンマーク視察のアテンドを担当して、知事と一緒にあちらの国の福祉施設を見て回りました。

みんなの介護 デンマークは、すべての国民が医療や教育を無償で受けられる、世界最高レベルの福祉国家として有名ですね。

香取 デンマークでは高齢者施設のことを「プライエム」というんですけど、そこで行われているサービスの内容や費用、制度の仕組みなどを現場の人や自治体関係者からくわしく聞きました。

24時間巡回介護をしているヘルパーさんに付いて高齢者の自宅も回りましたし、配食サービスやデイサービスも見てきました。そこで私が得た結論は「世の中にマジックはない。制度を整え、財源をきちんと確保できれば、日本でも同じレベルのサービスをつくれる」という確信でした。

みんなの介護 一時期、「北欧病」といって、北欧諸国のように社会保障を厚くすると国民が努力しなくなる、社会が停滞すると言う人がいましたが、香取さんはそうは思わなかったのですね?

香取 ええ、思いませんでした。当時の見聞記は「週刊社会保障」という社会保障の専門誌に連載しましたのでご興味のある方は探して読んでいたければと思いますが、ポイントはサービスを利用する人の主体性です。

つまり権利性を保障し、当事者として運営にコミットして拠出する仕組み、サービスを提供する人とサービスを利用する人とを直接つなぐことができる仕組み、ニーズがサービス提供に反映する仕組みをキチンとつくれば、うまく回っていくはずだと考えました。

当時、日本型福祉では「年寄りの面倒は家族が見るべき」という考えが蔓延していた

みんなの介護 驚くべき先見の明ですね。

香取 いや、先見の明でも何でもありません。その背景には当時、措置制度として行われていた日本の高齢者福祉が明らかに行き詰まっていた、ということがありました。

そもそも措置制度というのは、「配給」制度です。言い方は悪いのですが、戦中戦後の配給制度と変わらないんです。

行政がサービスの対象者も中身も全部決めます。利用者は受け身で何の権利もありません。「措置」される対象です。平等と言えば平等なのかもしれないけれど、財源は税金で予算制約の中で限られた資源を配分するのですから、「こぼれ落ちる人」が必ず出てきます。

埼玉県が全国でもトップクラスの若い県だったことはすでに述べましたが、そのせいで埼玉県の特別養護老人ホームには東京都や他県の高齢者が必ず何人かいたものです。

なぜかというと、特養待ちの高齢者のために埼玉県の施設の空いたベッドを東京の自治体が「買う」んです。

老人病院のひどさも、社会問題になっていました。当時、日本型福祉とか言って「年寄りの面倒は家族が見るべき」という古い考えがまだ蔓延していていました。

介護はまず家族がやる。家族が介護に耐えられなくなって崩壊寸前になって初めて福祉が登場する。追い詰められた家族が捨てるように高齢者を老人病院に押し込める。入院医療が必要でない高齢者が病院に溢れ、ベッドに寝かされた高齢者は昼間でも薬漬けで眠らせられている。

「社会的入院」とか「寝たきり老人」「寝かせきり老人」なんて言葉が新聞の社会面に踊っていた、そんな時代です。

こうしたやり方には限界がある、何とかしなければならないという問題意識があったからこそ、デンマークの福祉政策に活路を見ることができた。

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