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どう考えてもおかしい「香典半返し」という習慣

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葬式で香典をもらったら、香典の額の半分を返す「半返し」がマナーだとされている。だが、本来の香典返しは、お金が余った場合にのみ行うものだった。半返しの習慣はなぜ広まったのか。宗教学者の島田裕巳氏が解説する――。

※本稿は、島田裕巳『神社で拍手を打つな!』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■1970年代の「怪しいアルバイト」

それはかなり昔のことである。

1970年代の半ばだった。

私の知り合いがアルバイトをやっていた。

東京都内でのことで、区役所の出張所に行って、最近亡くなった人を調べ、その住所を書き写してくるという仕事である。個人情報のことがうるさく言われるようになった今日からすれば、あり得ない仕事である。その目的は、香典返しを専門に扱っている業者が、最近葬式を出した家にダイレクトメールを送り、香典返しの品を買ってもらうことにあった。その当時でも、これは、かなり怪しげなアルバイトに思えた。人の不幸につけこんでいる。そんな印象を受けたからだ。

しかし、葬式にまつわるしきたりについて考える際に、この時代に、そうした仕事があったということは興味深い。なぜ興味深いかと言えば、業者がこうしたダイレクトメールを出していたということは、この時代にはまだ香典返しというしきたりが十分には確立していなかったことを意味しているからだ。

現在では、葬式で香典を貰(もら)ったら、お返しをする。そうしたしきたりが確立されている。たとえ、業者が、その家が葬式を出したという情報をつかんでダイレクトメールを送ったとしても、すでに葬祭業者がその手はずを整えているので、仕事にありつけることはほとんどない。今は、そんなダイレクトメールを送る業者自体が存在しないはずだ。

■農村では「米」をもちよることもあった

葬式の際に、香典をいただいたら、お返しをする。そうしたしきたりが、今では定着している。お返しは、基本的に「半返し」とされ、香典の額の半分を、遺族は品物を選んで届けることになる。最近は、カタログが送られてきて、そのなかから選ぶというやり方も多くなった。

香典は、「香奠」とも書かれ、仏教用語とされる。仏教関係の辞典にも、「香奠」の項目があり、「香資(こう し)」「香銭(こう せん)」とも言い、奠には、すすめる、そなえるの意味があるとして、次のような説明がなされている。

「原義は仏前または死者の霊前に香をそなえること、またその香物。現在では、香を買う資金または香の代品という意味で、親戚や知人がもちよる金品を意味することが多い。農村では米などをもちよることもあった」

その上で、香典返しについては、次のような説明が加えられている。

「葬儀や法事で施主はまとまった出費がかかるため、まわりの者はその一部にと香奠を提供するので、仏事が終わり余りが出れば、香奠返しをする。また仏具などを買って菩提寺に寄進する」(『岩波仏教辞典』)

この説明で注目されるのは、香典返しは必ず行われるものではなく、葬式を出して、香典が余った場合に行われるとされていることである。ということは、余らなければ、しないものであり、する必要がないということにもなる。

■本来は経済的な負担を軽くするためのもの

香典が、葬式を出す遺族の経済的な負担を軽減するために行われるものであるなら、本来、香典で全体の費用がまかなえない場合には、お返しをする必要はない。ところが、今のしきたりでは、余りが出ようと出まいと、お返しは必ずするものとなってしまった。

塩月弥栄子の『冠婚葬祭入門』は、最初にふれたアルバイトが行われていたよりも前の1970年の刊行なので、香典返しについては、「香典は、他家の不幸に同情し、相互扶助的な意味もあって贈られたのですから、感謝の挨拶状だけでもよいのです」と述べられている。

香典返しは、業者の手を通して行われる。半返しなら、香典の半分は遺族にわたっても、残りの半分は業者の手に入る仕掛けである。カタログなど、さほど欲しいものが選べるわけではなく、いつの間にか忘れ、期限が過ぎてしまう。そうなったとき、果たして残金は遺族に返還されるのだろうか。

これは、どう考えてもおかしなしきたりである。

では、そこに疑問を感じて、遺族が香典返しをしないということはあるのだろうか。また、できるのだろうか。

そこはなかなか難しい。

もちろん、香典返しがこなかったからといって、香典を出した側が抗議をすることはないだろう。だが、人は意外にそのことを覚えているものだ。

「あの家は香典返しもしない」

そんな評判を立てられても困る。そう考える人も少なくないだろう。

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