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人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(下)-女性人口を東京へ一体なにが引き寄せるのか - 天野 馨南子

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1――2018年の「女性人口は何を誘引として動いたのか」

(中)では、女性人口の社会移動によって東京都に2005年から2015年の10年間に、実に37万人を超える女性人口が社会移動だけで増加したことを示した。

この人口規模は長野県の県庁所在地である長野市の現在の男女合わせた人口規模に匹敵する。では、一体、これらの男性を上回る女性人口の東京都への移動は何を誘引として起こっているのだろうか。

1-1 分析の前提 (解釈上の注意)
直近の女性人口移動である2018年の年間女性純増減データと、その移動に影響したであろうと考えられる2018年以前の社会統計的に代表的な指標データとの相関関係をみてみることとしたい。

移動要因を探る指標には、総務省の「社会生活統計指標 2019(社会・人口統計体系)」を使用した。同指標は人口・世帯、自然環境、経済基盤、行政基盤、教育、労働、居住、健康・医療、福祉・社会保障などに分かれている。

しかしながら、

・東京都の流出入を含め、社会移動の大半が20代男女(4割)に集中している
・平均初婚年齢が上昇を続け、女性29歳 男性31歳であり、第1子平均出産年齢も女性31歳、男性33歳である(2017年)
・2018年/女性人口の社会純増のうち92%が東京、神奈川、埼玉、千葉にて発生2

ことから、「20代前半後半で多く移動する独身男女」が、現在の東京一極集中のマジョリティグループを形成していると見受けられる。

よって、社会統計指標のうち、特に独身20代にて発生している人口移動の多くが関与すると考えられるエリアの「労働」指標と、女性人口の2018年の社会増減との相関関係を本レポートでは取り上げることとする。

また、労働指標に関して人口増減との相関をみる場合、労働者の受け皿規模(実数)がそもそも大きいところに労働者需要を求めて労働人口が流れるのは当然であるので、受け入れに関する実数(規模)指標との相関はみない。実数を元に算出した「比率」との相関を重視する。

例えば、あるエリアの女性労働人口の母数と女性社会移動増減の関係性ではなく、「女性労働人口割合」との関係性をみる、などである。

2 20代独身男女の社会移動がマジョリティである、という前提を見失うと、関東以外の地方部での移住政策は奏功しない。
「移住=子育て世帯誘致」という関東(しかも千葉、埼玉、神奈川、という東京隣接関東)で奏功している関東型(女性純増エリア型)移住施策に目を奪われ、東京都から離れた「そもそも女性流出の激しい前提」のまま地方部が「子育て世帯誘致」を掲げても、その効果は関東に比べて大きく低くなる。


1-2 社会生活統計指標と女性人口移動数の相関結果
女性人口が何を誘引として、もしくは何と強い関係をもっているか相関分析を行なったところ、0.7以上の強い相関を見せた指標が3つあった。

各指標は、国によって測定した直近3年分が掲載されているため、指標によってはある特定の年だけ女性の社会増減に強い関係をもつ1指標と、すべての測定年で強い関係をもった2指標にわかれた。

全ての調査年においての指標3と2018年の女性社会人口移動が強い相関をもった指標については、2018年における女性の社会移動に、その指標の状況が継続的にかなり強く関係していたことが予想される。



3 直近の人口の移動が、そのまま直近測定年だけの労働指標の影響をうけるとは限らないため、測定年3年間にわたる「労働指標のトレンド」との関係も見ている。 直近3回のすべての調査年の指標と女性人口社会増減が強い関係を持った指標は、以下の2つである。

●他市区町村からの通勤者比率
●高卒有効求人倍率

●(強相関1)高卒有効求人倍率について
注意したいのは、以前からよく見かける女性の東京都への流入理由の議論として「都会には地方にはない高学歴対応職種が多いので、高学歴系職種を求めて、社会進出をめざした女性が移動する」というものである。

この議論は、4大進学率が男女とも5割を超え、人口減少下で定員割れしかねない大学が学生集めに奔走する今においては、必然的に「高卒と大卒のレベル境界が緩やか」になってきており、古い感覚である可能性が高いのではないか、と現場感覚として東京に半世紀近く暮らす筆者は感じていた。

本分析結果を見ると、やはり他ならぬ「高卒新卒」(いわゆる高学歴や熟練者を対象者としない)職での有効求人倍率の高さが高いエリアほど、女性の社会純増が大きくなる、両者には非常に強い関係性がある、という結果である。

つまり、高学歴職種有無に関わらず(学歴参入障壁とは関係なく)女性が東京都へ流入していることがうかがわれる。

統計的に大きく労働人口が動く時、同じく統計的に少数派を対象とする高学歴職種がそれに影響をもたらしてくるとは考えにくかったこともあり、納得の結果であるとも言える。

またこの結果は、地方部において高卒女性(もしくは大卒の一部の女性)が希望するような仕事においての有効求人倍率さえ相対的には低い、ということが挙げられる。

「わがエリアには女性の仕事はあるのでそこは問題ではない」という感覚がある地方部もあるが、図表から「失業率」や「高卒就職率」が女性の社会人口移動に全く影響していないことを見ると、もはや「仕事があるだけ」という状況は、人口減少下の若手不足の売り手市場においてはなんら女性誘致要因にならない考え方であることも示されている。

これまで「高卒女性なら、仕事もあるので地方に残ってくれるのでは」という考え方は、統計結果的には否定されており、早急に是正されるべきであることを数字から読み取ることが出来る。

女性の意識を反映した多様な新卒仕事の労働供給の厚みがあるかどうかが、女性獲得のエリア間の明暗を分けている。

●(強相関2)他市区町村からの通勤者比率
この指標は、2018年度において東京都だけで全国の女性人口純減分の55%、4万7千人以上を獲得し、これに神奈川県、埼玉県、千葉県という東京都近接エリア(ベッドタウンエリア)での純増を合計すると全体の92%となり、日本における年間女性人口の「シャッフリングによる人数入れ替え」の9割以上を「東京グループ」が獲得した理由を如実に表した結果といえる。

他市区町村からの通勤者比率が高いエリアということは、仕事が潤沢にあり、その分、商業エリアが多く、住むには高額すぎるような東京都、または都市部ほど女性流入が大きいことを表している。この指標は相関が中程度の「他市町村への通勤者比率」とセットとなる指標であり、女性の流入規模との相関は、

他市区町村からの通勤者比率 > 他市町村への通勤者比率

であるので、「仕事場へは距離があるものの住みやすい」エリアよりも、「住みにくいが仕事場が豊富にある」エリアが女性に選ばれていることがわかる。

1995年までの専業主婦が多数派だった世代の「奥様の夢の広い一戸建て」よりも、それ以降の共働き主婦がマジョリティとなった世代のライフデザインに親和性がより高いと思われる「職場に近くて便利」なエリアが選ばれているといえる。社会移動が若い独身メインであれば当然のことかもしれない。

もちろん、両指標ともに中程度以上の相関を持っているため、独身女性にとって「そもそも女性の仕事が豊富にない/通勤圏内にさえもない」状況では、若い女性の流出一途、ということになる。

流山市など首都圏エリアでの「子育て世帯誘致」報道が活況であるが、この現象には前提として、女性労働の供給にも仕事先への通勤の便利さを含めて、厚みがあるエリアであることがあげられる。

上の2指標に加えて、直近3回の測定年のうち前々回結果(15年)と強い関係をもったのが、「決まって支給する現金給与月額(女性)」である。全ての調査年において中程度の相関にとどまったパートタイム給与よりも(図表3)、決まって支給する現金給与月額のほうがより高い相関をもつ傾向にあり、相関分析からは女性の移動にはパートタイム給与よりも、決まって支給する現金給与月額がより強い関係性をもっているようだ、ということがうかがえた。

20代の独身女性がメインで移動しているということを考えると、これも当然の結果であるともいえなくはない。

地方部は「夫の転勤についてくる女性」想定で人口移動、地方への人口誘致を考えてこなかったか。そもそも、男性誘致を考えるあまりに、女性の行動について確認を怠ってこなかったか。今一度、政策を見直さなくてはならない。

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