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  • 木曽崇

日本版カジノ:広がる開発コストへの懸念

昨日のエントリでもご紹介しましたが、現在グローバルのカジノ業界の中で日本の統合型リゾートに対する開発コストへの懸念が広がっています。以下、参照。

【参考1】ラスベガス・サンズが100億米ドルは単なる「開始点」、日本の開発コストへの懸念に言及
https://www.asgam.jp/index.php/2019/10/25/las-vegas-sands-cites-concerns-over-japan-development-costs-with-us10-billion-only-the-starting-point-jp/
【参考2】ウィン・リゾーツ、日本のIR開発コストの上昇に対するLVSの懸念を反映
https://www.asgam.jp/index.php/2019/11/08/wynn-resorts-echoes-lvs-concerns-over-rising-japan-ir-development-costs-jp/

上記記事はよく読むと実は「開発単価」に対する懸念が表明されているもの。ただ、実はこの開発単価と開発総額というのは地続きのものであり、単価が上がっているからこそ開発総額が上がる。単価が安ければ総額も下がるものであります。

一方で、実はこの国際的な懸念の背景にあるのが、行政側による統合型リゾート対する過剰な投資期待であります。上記参考1で示した記事内でラスベガスサンズ社のゴールドスタイン社長が「我々は100億米ドルを求めるトップの都市でビジネスをするつもりだ」(※下線は筆者)とコメントをしている通り、1兆円(100億米ドル)を求めている主体は事業者ではなく「都市」側、すなわち地方行政。事業者はその行政の求めを前提として入札競争のラインを見極めを行っているということであります。そして今日本ではその要求ラインが高く維持されたままで、開発単価がどんどん上がっているからこそ、そこに投資を行う各企業が認知する投資リスクが膨れ上がっているワケであります。

同時に、上記参考2で示した記事内では、ウィンリゾーツ社のマドックスCEOは「当社は日本での誘致達成を精力的に追求するが、財政的に意味がなければやめる」とまで言い出しているワケで、そこに何かオカシナ事が起こり始めているのは皆さんもご理解頂けることと思います。



私の所には公民合わせて色んな人達がご相談にいらっしゃるワケですが、そういう人達の中には「〇〇は市場が小さすぎてダメだ」とか「△△は後背人口も多く、国際空港へのアクセスが良いため有望だ」などと様々な自己分析をご披露される方がいらっしゃいます。ただ、実は私の立場でそういう方々にいつも申し上げるのは「市場の大小と事業の成否は必ずしも一致しませんよ」ということ。

事業目線で考えた場合、当たり前の事なのですが

・どんなに大きな需要の存在する市場であっても、そこに過剰な投資を行えば事業は失敗する
・どんなに小さな市場であっても、そこに適正な投資を行うのであれば事業は成功する

ということです。そして、今日本に起こっていることは国が作った制度、そしてそれに基づいて各都道府県等が描いている誘致計画が、当該地域の市場に不釣り合いなほど膨れ上がりつつあるということ。すなわち「どんなに大きな需要の存在する市場であっても、そこに過剰な投資を行えば事業は失敗する」状態に向かいつつあるからこそ、そこに懸念を示すカジノ事業者が出てきているのです。

その代表となるのが大阪湾にある広大な遊休地を開発地として指定してしまった大阪の夢洲構想であり、だからこそ私は常々、大阪府市の描くIR構想に対して非常にシニカルであり続けて来ました。そして、これは事実として当初7社集まっていた進出希望企業が1社抜け、2社抜けと徐々に撤退宣言を行い、現在3社にまで減退してしまっているのは、まさにそういう背景があるからに他なりません。

日本の行政の描く統合型リゾートがなぜこれ程までに過剰評価となってしまったのか。結局、それを突き詰めて行くと、一部の「有識者」と呼ばれる人間達が出してきた日本カジノ市場推計値が伝統的に「大きすぎた」からに他なりません。この様な日本市場に対する過剰な評価が広まる発端となったのは、2009年に大阪商業大学商経学会論集(第5巻、第1号)に掲載された「カジノ開設の経済効果」(佐和良作・田口順等)という論文です。この論文は日本のカジノ市場が全体で3.4兆円にも及ぶとする試算額を示したものでありますが、実は私は当初からこの論文に対して余りに荒っぽい手法によって桁違いの大きさの推計値を出しているものとして、幾度となく問題点を指摘してきました(参照)。

この大きすぎる推計値を出したのが大阪を活動の拠点とする研究グループであったのもあり、この論文が「大阪エンターテイメント都市構想研究会」(座長:橋爪紳也)と呼ばれた任意団体に持ち込まれることで夢洲構想の原型が作られ、更にそれが関西経済同友会、大阪府市へと引き継がれてゆくことで、現在の形にまで発展してきたのが実態。一方でフタをあけてみると、当初謳われていたような市場予測の数字は現実的には出てこないわけで、行政が皮算用で構想した計画は足元から崩れて行ってしまったわけです。

一方で行政側は当初描いた構想になんとか民間提案の開発案を近づけようと、投資額を高いレベルで維持させる為に冒頭で述べたような「1兆円投資を要望」の様な行動を取り始めるワケですが、そうやって市場規模に見合わない投資額を「無理やり」民間に求めることは将来の市場形成にとってはけして良い影響は与えません。IR投資は公共投資と異なりあくまで回収を前提とした民間投資なわけですから、行政からの求めで半ば強制的に過剰な投資を行った事業者は、開業後の運営の中でそれを猛烈に「取り戻そう」とし、それらが実際の運営の在り方に反映されてゆくことになります。

我が国のカジノ合法化は、国民に単純な賭博の場を提供することを目的としているのではなく、あくまで観光振興、なかでも特に国際観光の振興を目的として導入されたもの。その顧客に関しても「地元民よりも観光客、その中でも特に国際観光客」を自ずと収益の中心とさせるように制度や入札設計の面で様々な誘導が行われているわけですが、一方で過剰な初期投資を無理に取り戻そうとすれば事業者は「国際観光客だけでなく日本人観光客も、それでも足りなければ地元民も」と本来政策的には望ましくない方向へと運営スタイルを振って行かざるを得なくなるわけです。

要は、適正な事業者間の競争の中で投資額が大きくなってゆくのは入札制度の必然であるとしても、それら競争が適正な範疇を大きく超えて過剰な投資を生んでしまうような環境を行政自身が意図的に作ってり出して行く「あり方」というのはけして健全ではないわけで、そういう行動はまずもって控えましょうということ。巨大な遊休地を抱える夢洲をIR開発地として指定してしまった大阪はもはや後戻りが出来ないとしても、それ以外のIR誘致都市の皆様はかつて「ウン兆円」なんて言われていた間違った市場推計値を一旦頭から取り払って、改めて白紙から開発構想を描いて欲しいなあと思うところ。

私としては、過去に積み上げられた間違った与件によって、日本に過剰投資を前提とした歪んだ市場が成立してしまい、それ故に日本のカジノ市場が不健全な方向に走ってしまうことだけは避けたいな、と思うところであります。

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