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又吉直樹が直木賞作家・西加奈子と語る新作『人間』執筆の舞台裏 「私小説でも私小説じゃなくても一緒やん」

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BLOGOS編集部

『火花』で芸人、『劇場』で演劇の世界を描いた、お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹が三作目となる、初の長編小説『人間』(毎日新聞出版)を上梓。発売を記念して直木賞作家の西加奈子とのトークイベントが東京都渋谷区の紀伊國屋サザンシアターで開催された。

各場面に込めた想いや、小説を書くことについて、そして芥川賞受賞時の裏話を披露した1時間45分にわたる対談の一部を紹介する。

毎日新聞出版社

『人間』あらすじ

絵や文章での表現を志してきた永山は、38歳の誕生日、古い知人からメールを受け取る。若かりし頃「ハウス」と呼ばれる共同住居でともに暮らした中野太一が、人気芸人で作家でもある影島道夫をコラム上で批判。そのやりとりが世間を賑わしているという

永山の脳裡に、ハウスで芸術家志望の男女と創作や議論に明け暮れた日々が甦る。当時、永山の作品が編集者の目にとまり、出版に至ったこともあったが、ハウスの住人たちとの間にある事件が起こってしまう。知人からのメールをきっかけに忘れかけていた苦い過去、そして自分自身と向き合っていく永山だったが――。

◆『人間』を読んで脳みそが飛んでいきそうになった


西:(『人間』を読んで)脳みそが飛んでいきそうになった。『人間』はページを戻って「なんやったんやろ?」っていうシーンがものすごくありました。例えば「そとば」のシーン(※)ってわかる?

※住宅街を歩く主人公の永山が、見知らぬ親子のやりとりに遭遇するシーン。「おそば」という母親を真似をして子どもが「そとば」という言葉を繰り返す。

又吉:わかりますよ。

西:そら書いたんやからわかるよな(笑)。読み飛ばす人は飛ばすんやけど、読んだ後にあれなんやったんやろって。昔からシークエンス(場面)のつなぎ方は素晴らしかったんやけど、まじでどうやって繋いでいってんのかわかりませんでした。

又吉:僕もわからないですね。

西:(笑)。好きに書いてるってこと?

又吉:割と好きに書いてますけど、考えているというよりは、「なるほど」っていう感じで書いてるかもしれない。


西:(今回は)新聞連載だったことは関係ありました?

又吉:ありました。今日から読む人もおるかもしれんから、1回の中でその日1日、引っかかるようなセリフや描写はやっぱり入れたいというか。

西:でも、全然わざとらしくない。褒め言葉として、ほんまに狂ってきてんなって。永山くんと奥くんの長い会話のシーン(※)を読んでる時に、めっちゃ体痛くなってきた。又吉さんってここまでのレベルの会話をしたいんやったら、友達いないやろなと。

※永山が若いころ共同生活をしていた「ハウス」の住人であり、友人だった奥と20年近く経って再会する場面。

又吉:友達はいます。

西:(笑)

◆登場人物がどういう会話をするかは考えていない


又吉:連載なんで、進行もギリギリやったんですけど、奥と永山が会話をする場面に行くまでの間、めっちゃテンション上がってたんですよ。「もうすぐ会える!」みたいな。自分次第やのに。

会場:(笑)

又吉:「こういうことを言うんかな」っていうのはあるんですけど、具体的にどういう会話がなされるか考えてない。めっちゃ楽しみで、酒飲んでる感じでした。

西:こういう場面ってどういうスイッチがあるの? 永山くんが喋ってる時は永山くんになって、奥くんが喋ってる時は奥くんになるのか。それとも第三者的な位置でいるのか。

又吉:2カメですね。同時というより、切り替えてる感じですかね。主に両方見てて、ひとりが質問する時に、相手がなんて答えるかっていう想定はしてないです。

西:会話のシーンが終わったら寂しかった?

又吉:客観的に長いというのはあるんですけれども、僕は「まだこれ終われないぞ」っていう感じではありました。寂しいからもう少し話したいと思いましたね。

◆芸人からマイクや舞台を奪うとおかしくなる


西:長いといえば、影島がナカノタイチというライターにめっちゃキレてメール送るシーン(※)。あの長さの狂気性は面白かった。

※永山が自身の過去を振り返るきっかけとなった出来事。「ハウス」の住人の一人で、永山とは犬猿の仲であったコラムニスト/イラストレーターのナカノタイチが、芸人/作家の影島道夫を批判するコラムを書いたことに激怒した影島が、長文のメールで反論。そのやりとりをネットに公開したことで世間の話題をさらう。

又吉:あれは倍くらい書こうと思えばかけましたけどね。得意分野なので(笑)。芸人のくせに文化人のふりすんなみたいなことをいわれた影島はとにかく異常な気迫。影島自身は人に読まれる前提でメールを書いていて、芸人として漫談っぽく語ってるけど、途中でコントロールできんくなって崩れていってる。

西:誠実さがありすぎておかしくなる人っている。誠実であることってまっすぐやから、絶対なにかにぶつかっていく。傷だらけになるのは当たり前で、穏やかなものを誠実さってとらえる傾向は違う。まじでちゃんと言おうとしてもおかしなってしまうっていう。そこが(『火花』の)神谷さんとかぶりました。

又吉:ナカノタイチはそもそも「芸人をやるしか生きていくすべがなかった」という大前提を見失っている。ボケを放棄したら芸人じゃないっていうのは、影島に「死ね」と言っているに等しい。人間じゃない、居場所はないと。芸人から舞台を奪ったり、マイクを奪うとおかしくなる。僕も必死でふざける衝動を抑えているんですよ。ストッパーを外したらずっと崩れていられる。でもそれは努力してないし、よくないと思う。

◆芥川賞受賞式2次会で平成ノブシコブシ吉村が渾身のボケ 「美しい、ほんま人間の瞬間やったな」


又吉:『火花』で神谷が「普通のことを言う」というボケをやってるけど、実はそれが一番面白い。この感覚ってあんま伝わらへんかもと思ってたんですけど、千鳥の大悟さんが昔、笑い飯の哲夫さんと家まで帰る時、一言も喋らんっていうのをやってた。ようはいつでも面白いこと言えるのに黙ってるってのが一番のボケなんです。

西:小説書く時は?

又吉:僕はそのモードを使い分けていない。ここは真面目にやろうとか、スイッチみたいなものを自分では持っていないんです。

西:書きたいから書いてるだけ? でも、芥川賞のスピーチはめっちゃ笑いこらえてたやん。めっちゃ真面目にスピーチしてましたね。ボケとして真面目にしようとすると面白くない。本当に心から感謝して、美しいことを思っているのがおもしろくて、場にしっくりなじんでんのがめちゃくちゃおもろかったです。

又吉:羽田圭介さんと一緒に受賞し、芥川賞は僕のものじゃなくて、誰かがもらったものやし、これから先もずっと誰かのものじゃないですか。あそこで芸人がボケて面白かったみたいにするのって、旅館でいったら、すごい部屋汚して帰るっていう感覚。でも、(平成ノブシコブシの)吉村君が来てて、完全にエンジンかかってた。会場で僕を見つけるなり、走ってきて、「一応、つけ髭だけ持ってきたぞ」って。

西:美しい瞬間やな(笑)

又吉:全員に僕は「ちゃんとジャケット着用してきてな」って言った。立食パーティの時も、この枠から出るなと。俺はいろいろ挨拶してくるけど、ここにいろ、今日はほんまに大人しくしといてくれって(笑)。

西:楽しくなかったでしょう(笑)

又吉:楽しくないですよ、あんなもん。気使いまくって。

西:でも、2次会でやっぱり吉村さんが我慢できずに(ボケた)。本当に吉村さんもボケないと死んじゃう方というか。美しいボケ方やった。

又吉:西さんたちが僕に激励の言葉をくださってる流れで、吉村くんの番になった。吉村くんはなんかせなって(エンジン)かかりすぎて、第一声が「グッドイブニング」って言うたんですよ。2秒間の静寂のあと、爆発的な笑いが起きた。吉村くんのその日1日、抑圧されていたパワーがフルで出たという感じして、すごい人間らしい。

西:それを隣にいて、一番状況を理解してらしたパンサーの向井さんが全力で突っ込みはった。うち泣きそうになって。

又吉:成立させようとしてな。

西:そうそう。吉村さんが割れた瞬間、破片を全部受け止めるって決めて。又吉さんもめっちゃ笑って、あれってめっちゃ美しい、ほんま人間の瞬間やったな。

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