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2カ月で10万部『反日種族主義』、韓国人著者たちの受難 日本統治時代についての韓国における新たな見解 - 崔 碩栄 (ジャーナリスト)

日本統治時代についての韓国における新たな見解
果たして日本の読者たちの評価は?

韓国でベストセラーとなった話題の本、『反日種族主義』が日本でも出版された。韓国の経済、歴史分野の学者、ベテラン言論人など6人の共同著者が書いたこの本は、400ページを超える分厚い学術書にも関わらず7月に大型書店の総合ランキング1位を記録。わずか2カ月で10万部が売れるベストセラーになった。韓国における反日感情、そして歪曲された歴史解釈や教育を辛辣に批判するこの本は韓国でも賛否両論が沸き起こり、この夏最も話題となった本である。


『反日種族主義』(韓国版)

  • 徴用工は強制連行ではなく、志願、あるいは動員された労働者であり、日本人労働者と同じ待遇を受けていた。
  • 慰安婦は公娼制度の一形態であり、高賃金を受け取っていた。
  • 日本が朝鮮半島から持って行った米は収奪ではなく、輸出であった。
  • 朝鮮人青年たちは先を争って日本軍に志願した。
  • 大日本帝国が朝鮮を滅亡させようと(風水でいわれる朝鮮半島の地脈や民族の精気を断つ目的で)朝鮮の領土に打ちこんだといわれている鉄杭は、実は単に測量用のものであった。


『反日種族主義』(日本版、文藝春秋)

などといった内容は、多くの韓国人に衝撃を与えた。なぜならば、これまで学校で学び、メディアで伝えられてきた内容とは「正反対」のものばかりだったからだ。

韓国では当然、反発の声が上がった。歴史歪曲だ、親日派だ、と。

ことさら激しい反発をみせたのは左派陣営だ。代表例は先日ひと悶着の末に辞任した前法務長官・曹國(チョ・グク)だ。彼はSNSを通じて「反吐が出る」という痛烈な表現を使い、この本を批判した。一般的に韓国の左派がこれまで徴用工、慰安婦問題等を直接的に、あるいは間接的に支持し、支援し続けてきたことを考えれば、これは「想定内」の展開だ。

一方の右派陣営。こちらもこの本に対しては「不快感」を表明した。保守野党の代表を歴任してきた洪準杓(ホン・チュンピョ)氏は「この本を韓国の保守ユーチューバーたちが称賛していることは理解できない。土地調査事業、鉄杭、慰安婦問題など、我々の常識からはずれ、むしろ日本の植民史観主張と類似している」と切り捨てた。

保守野党の現役議員である張濟元(チャン・チェウォン)議員は「読んでいる間、頭痛がした」「不快感、侮辱を受けているように感じた」「歴史的自殺行為」と不快感を隠そうともしなかった。

韓国は左派右派の対立が激しい国だ。相手陣営がなにかを言えばどうにかして揚げ足を取り、言いがかりをつける。おそらく韓国の左派、右派のメディアを長い間観察してきた日本の韓国ウォッチャーにとっては周知の事実だろう。しかし、その韓国でたまに左派右派の意見がキレイに一致することがある。その中の代表的なものが、韓国という「国家」もしくは韓民族という「民族」といった集団において「不都合な事実」であったり「隠しておきたい事実」に触れられたりしたとき、である。『反日種族主義』はまさにここに該当したのだ。

韓国の読者たちがこの本を支持した二つの理由

政治家たちの評価はともかく、この本はベストセラーとなり、読者たちの支持を得た。これはこの本の内容に多くの人が「納得」したということを意味する。果たして読者たちはこの内容の何に対して、そしてなぜこんなにも惹きつけられたのか?

まずは、これまで、何か違和感を覚えながらも解けずにいた頭の中のジグソーパズルが、次々と正しくはまって行くような「快感」を感じたからだろう。例えば、韓国人は日本統治期の朝鮮人たちが日本に強制連行され、無理やりしょっ引かれて行ったと学び、教えられてきた。

だが、その「説」では同じ時期に多くの朝鮮人が日本に留学した事実や、多くの人々が日本へ密航して行ったという事実を説明できずにいた。あるいは、日本が米を収奪して行ったと学び、伝えられてきたが、同じ時期に出現した富農の存在、朝鮮米の流入に反対する日本の農民たちの声についても説明できなかった。これらの矛盾に明快な回答を示したのが『反日種族主義』であり、読者たちはこの本の示した回答に納得し「正答」と評価したのだ。

そして、読者たちがこの本に夢中になった二つ目の理由は、この本の著者たちが韓国で最も危険な「タブー」に挑戦したからだ。慰安婦、独島、強制連行、強制動員、米収奪に対する「異説」を主張することは韓国で最も危険なタブーだ。『帝国の慰安婦』という本が社会的批判の的となり、著者である朴裕河(パク・ユハ)教授が終わりのない訴訟に巻き込まれた一件はまだ記憶に新しい。

『反日種族主義』の著者たちもまた過去に社会的バッシング、ブーイングを受けた経験がある。それでも著者たちは各自の専門分野において、多くの資料、データを基に導き出した答えを堂々と発表した。これは韓国社会に深く根付いた常識に対する挑戦であり、その勇気に対し読者たちは拍手を送ったのである。

予想外の人気で生まれた社会現象、そして著者たちの受難

韓国で10万部以上売れ、今年最高の話題作となると、この本を「不都合に感じる」人たちが動き出した。もともと賛否両論のある本だが、彼らは単に反対意見を表明するだけではなく、著者たちに脅迫、あるいは直接的な暴力でもって対峙したのだ。


代表著者の李栄薫 前ソウル大学教授

今年の7月には著者の中の1人、李宇衍(イ・ウヨン)氏が所属する落星台経済研究所に男たちが押しかけ、ドアを蹴りながら李氏に対し「親日派」「売国奴」と責めたて、「顔を覚えたから、ここに通えないようにしてやる」と脅迫するとともに、顔に唾を吐きかけた事件が発生。

続く8月には40代の男性が同研究所のドアに動物の排泄物を撒き散らした。この男は検挙されたが、9月には同研究所の前に左翼性向の市民団体が集まり、旭日旗と共に『反日種族主義』を燃やすという「火刑式」を行うなど嫌がらせは続いている。

そしてバッシングはついに、高額訴訟へと発展した。李宇衍氏を相手に慰安婦少女像の作家として有名な夫婦によって計6000万ウォンの損害賠償を求める訴えが起こされたのだ。金氏夫婦が制作した「強制徴用労働者像」を李氏が「日本人労働者の写真をモチーフにした作品」と批判したことが事実ではないというのが訴えの理由だ。

この本の著者たちは、本を刊行するにあたって、新聞に全面広告を出した。韓国の歴史学界や慰安婦支援団体に対し「隠れずに堂々と論戦に応じよ」と挑戦状ともいえるような文面で、公開討論を提議した。だが公開討論に応じる団体や研究者は1人も出てこなかった。結局、彼らは朴裕河教授『帝国に慰安婦』騒動の時と同様に怒りをぶちまけ、悪態をつき、そして高額の訴訟を起こすことで持って応えたのである。

『帝国の慰安婦』も『反日種族主義』も、現時点において、韓国社会の常識に反する「異説」であり、新しい解釈である。だが、こういった「異説」が韓国社会の考え方の幅を広げてくれるなら、長期的に見れば、これらの主張は歴史認識の多様性を認めるための「薬」であるはずだ。これを思うと、韓国における著者たちの受難がいっそう残念に思えてならない。

韓国で親日派、売国奴の本だと罵倒された『帝国の慰安婦』は日本では概ね好評を受けたが、一部のリベラル性向の研究者たちからは韓国で受けた以上の批判を受けた。『反日種族主義』の日本での評価もまた、賛否両論の評価を受けることになるだろう。だが実のところ、そうして「議論」が巻き起こることこそが著者たちの望むところでもある。怒りに任せた感情のぶつけ合いではなく、両国で冷静な議論が起きることを期待しているのだ。

韓国の反対派たちが、無視、嫌がらせ、訴訟という形で応えたこの本に対し、日本の読者たちがどんなふうに応えるのか……楽しみである。

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