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行きすぎたマスコミの薬物報道は変化したのか ガイドライン発表から約3年で見えた課題

BLOGOS編集部

有名人の薬物報道が相次いでいる。俳優やタレント、スポーツ選手など世間の注目度が高い人物と薬物の関連が明るみになると、メディアの報道熱は加熱。逮捕から背景、人物像などを過剰に迫ることも少なくない。しかし、薬物使用・所持をめぐる報道は、一歩間違えると回復を目指す依存症患者の社会復帰を妨げることにつながりかねない。誤った報道による誤解や偏見、中傷の拡散を防ぐため、2017年1月末、「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」が「薬物報道ガイドライン」を発表した。

ガイドラインには、逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないことや、「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと、依存症患者の欲求を喚起してしまう「白い粉」や「注射器」などの画像・映像を使わないなど、報道の際に留意すべき17項目が並ぶ。

ガイドライン発表から2年以上が経過し、薬物依存をめぐる報道は変化したのか。作成に携わった、依存症患者の支援を行うダルク女性ハウス代表の上岡陽江さんに話を伺った。

〈薬物報道ガイドライン〉
【望ましいこと】
▼薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること
▼依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること
▼相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること
▼友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること
▼「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと
▼薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること
▼依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること
▼依存症の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること

【避けるべきこと】
▼「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと
▼薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと
▼「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと
▼薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと
▼逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと
▼「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと
▼ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと
▼「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと
▼家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと

過熱する一方的なバッシングに依存症患者「マスコミは変わらない」

Getty Images

−2017年の発表までマスコミには薬物報道に関するガイドラインがありませんでした。どういう背景で作成がすすんだのでしょうか。

あまりにも長いあいだ一方的なバッシング報道を受けたために、薬物依存症の当事者やその家族は「話し合うなんてありえない」と心を閉ざした状態にありました。

薬物依存は病気です。治療法や家族安全に暮らす方法が正しく伝わらない環境を変え、子どもたちの生きやすい社会を作るためにはどうしたらいいかと、2016年秋ごろから評論家の荻上チキさんや専門家の方たちと話し合いを進めました。当事者や家族のなかからは、マスコミに扱われることによって、もっとデマが流れバッシングを浴びる自体に陥ると懸念する声もあがっていましたが、「正面からみんなで伝えよう」と説得していきました。

ガイドライン発表の記者会見時に、家族からは「これで全てを失う」と不安の声も漏れました。当時は「マスコミは変わらない」とあきらめムードも漂っていた。 しかし、時間が経つうちに新聞などのマスコミやネットメディアから「勉強したい」と声がかかるようになりました。

−ガイドライン発表から約2年半が経ちますが、マスコミの姿勢に変化はあったのでしょうか。

30年近く薬物依存患者を支援するなかで、メディアが薬の売人を見つけ出し、依存症当事者に実際に買わせる様子を取材するというひどい状況も経験しました。そのため、私自身、ガイドラインに報道機関が興味を持ち、守ろうとしてくれたことにすごく驚きました。当事者からは「前よりもひどくなくなった」という声も聞こえるようになりました。

私たちは大麻も含めた薬物全般について声を上げていますが、テレビ番組によっては、専門家でない方が薬物について憶測で話し、誤った情報を伝えている光景などをいまだに目にします。

−誤った薬物報道によってどのような影響が起きるのでしょうか。

伝聞や自分が一方的に経験したことをテレビ出演者が語ることによって、エビデンスが乏しい情報が広まってしまいます。テレビでは国連報告などをもとに、きちんとしたデータに基づいた議論をしてほしいです。

また、薬物や大麻などは「こういったものがある」など若者に興味を持たせるような映像を流しておき、最後に「犯罪だからやっちゃダメ」と付け足す。紹介することによって、若い子が手をだすきっかけを生み出してしまっています。

犯罪報道だけでなく、「なぜ」薬物に手を出したか背景を伝えるべき

−薬物の危険を伝える報道と、興味を抱かせてしまう報道は紙一重。境界線を引くことがメディアにとっては難しい気がしますが、理想の報道とはどのようなものでしょうか。

まず、当事者が薬物に手を出した背景を知ることが大切です。

子ども達が薬物を使う理由には、家族や人間関係の悩みを誰にも打ち明けられないという孤独な環境などがあります。また女性の患者の約9割が暴力被害にあっているというデータがあります。男性の場合、統計はありませんが、話を聞くと過去のいじめ体験などを口にする方が多い。

人間関係や家族の問題で困っているときに、話を聞いてくれる人、場所が社会のなかにあれば、彼ら彼女らは薬物には走らなかったのではないかと思っています。

薬物に手を出した背景 語る場が少ない日本の社会

日本は海外に比べて、そういった背景を語れる機会がまだまだ少ないです。社会的な問題も視野に含んだ話をしていかないと、ただ大麻を見せて、「使っちゃだめ」といっても意味はありません。

なぜ手を出したのか、薬に手を出した時に何に困っていたのかという問いかけを続けることは重要です。犯罪者として扱われることに慣れてしまうと、当事者から声を発することはなくなりますよね。薬物依存は社会構造の問題のひとつなんだと思うようになってきました。

−薬物依存症の当事者は社会復帰後、再び薬に手を出してしまうケースも多い。そういった状況を防ぐためにはメディアとしてどのような報道が求められるのでしょうか。

「再犯」だというのであれば、そうならない構造を作っていかなければならなりません。ものすごいバッシングを受けた後に(刑務所から)出てきて、支援を受けながらきちんと生きていくというのは難しいですよね。当事者が「どうやったらよりよく生きていけるのか」、「どう支援していくのか」という視点がとても大切です。

私は犯罪に対して甘いわけではありません。取り締まるべくは取り締まってほしいと思います。でも、薬物の単純使用は「病気」という点を忘れてはいけません。だからこそ、きちんとした支援に繋がって欲しいと思います。

覚せい剤や大麻で著名人などが逮捕されると、その個人を責めるニュースや「反省して回復に専念すべきだ」と断罪する報道がなされることがあります。しかし、薬物の使用というのは個人的な病気であり、医療の問題でもあります。

個人のことと切り離して、それをきっかけに広く「薬物依存症とはなんなのか」「なぜ薬物に手をだす社会背景があるのか」などを掘り下げる報道が増えるといいと思います。そのなかで、犯罪や法律の専門家だけでなく、地域や福祉の専門家がもっと声を発していってほしいし、メディアの方にもそういう視点をもってほしいですね。

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