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社会のみんなが幸せになるためには、増税という選択肢もあります - 「賢人論。」第103回(中編)井手英策氏

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慶應義塾大学経済学部教授であり、新進気鋭の財政社会学者でもある井手英策氏は、先の参院選でも話題になった「消費増税で幼児保育無償化」を最初に構想した人物としても知られている。昨年刊行した『幸福の増税論——財政はだれのために』は、まさに井手氏の研究テーマのど真ん中を貫く、入魂の一冊になった。幸福のための増税はアリか、ナシか。福祉や社会保障の話題ともからめ、わかりやすく解説してもらった。

取材・文/盛田栄一 撮影/岡 友香

国の予算を国債でまかなうと利息を支払わなければならない分、国も国民も損をします

みんなの介護 井手さんの著書、『幸福の増税論——財政はだれのために』を読んで、税金に対する考え方が大きく変わりました。特に斬新だと感じたのは、「生きるために必要なベーシックサービスを、所得制限なしにすべての階層に保障すべき」と主張されていること。従来の福祉政策では、富裕層を対象外とすることが多かったと思うのですが、なぜ「所得制限なし」なのでしょうか。

井手 それは、一生病気にならない人は一人もいないし、一生介護のお世話にならないと断言できる人も一人もいないからです。この世にオギャーと生まれて、そのままほったらかしにされて生き延びられる人は一人もいません。それは富裕層も同じこと。

そうだとすれば、みんなが必要とする保育・教育・医療・介護などのベーシックサービスはすべての人に給付するのが筋。「お金を持っているか、持っていないか」というつまらない理由で、人間を区別すべきではありません。

みんなの介護 この本で“目からウロコ”的にわかりやすかったのは、税と国債を比較して書かれているくだりです。本欄の読者にもぜひ知ってほしいので、ここで改めて解説していただけないでしょうか。

井手 わかりました。まず、2018(平成30)年度の日本の一般会計(予算)は、歳入・歳出ともに約98兆円。歳入をみると、所得税・法人税・消費税などの税収が約59兆円。これだけでは歳出分に足りないので、およそ33兆円分を国債発行でまかなっています。そのうちの約28兆円は赤字国債です。

その国債を買ってくれているのは、主に国内の銀行や生保など。その原資は、国民の預貯金や保険料です。銀行や生保は、国民から預かっているお金で国債を買い、その利息で稼いでいるわけですね。

政府はそうやって集めたお金で、約98兆円の歳出をまかなっています。その内訳は、社会保障費が約33兆円、地方交付税交付金などが約16兆円、公共事業約6兆円、文教及び科学振興約5兆円、防衛費約5兆円といった具合です。

僕がおかしいと思うのは、国債で調達したお金で歳出をまかなっていることです。なぜなら、国債を発行した分、利息を支払わなければならないから。現在、国の利払い費は約9兆円で、その4割の3.6兆円を銀行や生保に支払っています。見方を変えれば、貧しい人たちからも徴収した税金で、銀行や生保を太らせているわけです。

みんなの介護 国債発行額が33兆円だとして、そのうち利息に9兆円取られるとすると、実際に使えるのは24兆円だけ。そうだとすれば、国債なんか発行しないで、国民から直接24兆円を税として徴収したほうがずっと良いですよね。その分、国の借金を増やさずに済むんですから。

井手 実は、とてもシンプルな話なんです。

この記事を読んでいる皆さんも、おそらく何らかの形で貯蓄をしているでしょう。マイホームを買うため、子どもの教育費や大きな病気、老後への備えなど、目的は人それぞれですが、経済的に少しでも余裕があれば、多くの人が貯蓄しようとがんばっています。

なぜなら、日本は北欧諸国と違って、自己責任の国だから。子どもの教育も、老後の備えも、基本的に自己資金でまかなっていかなければいけないからです。

貯蓄したお金は、その人の資産になります。でもその資産は、いつでも好きなときに使えるお金ではありませんよね。将来に備えて取っておかなければならないから、結局は銀行に預けっぱなしの塩漬け資産になる。

どうせ使えないお金ということであれば、銀行に預けておくのと、税に取られるのと、一体何が違うのか、という話になります。

みんなの介護 すみません、話が難しくなってきたので、頭の整理をさせてください。

2018年度の国の予算を見ると、社会保障費が約33兆円。国債の発行額は偶然にも約33兆円ですね。つまり国は、銀行や生保などから借りた33兆円で社会保障費をまかなっている、と見ることもできます。

銀行や生保のお金は、もともと国民の塩漬け資産。だとすれば、銀行や生保を通さないで、国民から直接「税」の形で徴収したほうが、利息の発生しない分、国にも国民にもプラスになる。こういう理屈でしょうか。

井手 そういうことですね。問題は、多くの国民が老後不安を抱えているために、塩漬け資産がどんどん膨らんでいくことです。自分の寿命は誰にもわかりませんから、多くの人は100歳まで生活できるくらいの資産を貯めたいでしょう。その多くは過剰資産になりますね。たいていは100歳になる前に亡くなるのですから。

するとその資産は、遺産として子どもに遺されます。でも、考えてみてください。100歳の手前で亡くなる親の子どもは、おそらく60〜70歳。その年齢の子どもが遺産を引き継いでも、お金はほとんど消費されず、老後の蓄えに回されるでしょう。

そうやって塩漬け資産が増えれば増えるほど、国内の消費は落ち込み、景気はいつまで経っても良くなりません。

みんなの介護 確かに、政府や日銀が「景気拡大」と言っている一方、「庶民からすれば、景気が良くなっている実感なんて全然ない」という声はよく聞かれます。

井手 国民の資産が消費に回らないのであれば、その分、国が税金としてまとめて徴収し、教育・保育・介護・医療などの必要な分野に、必要な分だけ資金を投入するほうがずっと有意義です。

そこから新たな雇用や消費が生まれるし、国民の不安が少しでも払拭されれば、貯蓄に回されていたお金が消費に向かい、景気も良くなるはずです。

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