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北欧では、社会という「大きな家族」の中で介護を行います - 「賢人論。」第103回井出英策氏(前編)

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昨年上梓した『富山は日本のスウェーデン 変革する保守王国の謎を解く』(集英社新書)がベストセラーになり、一躍注目を浴びた井手英策氏は、民進党でブレーンを務めたこともある、リベラル派気鋭の論客だ。当時の民進党のキャッチフレーズ“All for All”も、実は井手氏が創案したもの。その井手氏は、日本における介護のあり方や実情をどう見ているのか。北欧型福祉との違いや個人の悲しい出来事、熱い思いとともに、舌鋒鋭く語ってもらった。

取材・文/盛田栄一 撮影/岡 友香

スウェーデンでは、すべての国民に家族を介護する権利が認められています

みんなの介護 ベストセラーになった『富山は日本のスウェーデン』をたいへん面白く拝読しました。介護をめぐる環境についても、日本とスウェーデンでは、やはりずいぶんと違うのでしょうか。

井手 介護の考え方について大きな違いがありますね。

スウェーデンでは、家族を介護する権利が認められています。国民に認められた正当な権利ですから、「明日は親の介護をするので、仕事を休みます」と堂々と言えるし、介護は税でまかなわれ、介護保険は仕事を休んだ場合の所得保障に使われています。

人間は誰でも年をとるし、年老いていけば、誰もが介護が必要な状態になり得えます。未来は誰にもわかりませんから、「自分は絶対に介護を必要としない」なんて言い切れる人はいない。

だとすれば、誰もが当たり前に介護を受けられる社会をつくるべきだし、のぞむ人はみな、家族を介護できる社会にすべきでしょう。スウェーデンなど、北欧の社会の仕組みはそうなっています。

みんなの介護 日本の場合、親の介護で仕事を休むとき、どうしても後ろめたさがつきまといますよね。「すみません、明日は親をデイサービスに連れていくので、半休します」とか。北欧では、そういう後ろめたさを感じなくて済むんですね。うらやましい。

井手 うらやましいのは、介護だけではありません。例えば、僕たちがこれから1ヵ月間仕事を休まなければならなくなったとすると、誰もが生活費の心配をしますよね。あるいは大病にでもかかろうものなら、エラい目に遭う。日本に暮らしていれば、そういうリスクが必ずあるわけです。

ところが北欧の場合、生活上のリスクは日本よりもずっと小さい。北欧では大学の学費がほとんどかからないから、大学生の子どもを持つ人が働けなくなっても、子どもの学費を心配しなくて済みます。失業保険の給付もしっかりしてるし、医療費も安く抑えられているから、病気になっても安心です。

北欧ではそんな風に、ある人があるとき仕事から切り離されたとしても、お金の心配をしなくて良い社会をつくっている。だからこそ、両親やおじいちゃん、おばあちゃんに介護が必要になってとき、のぞんだ人たちは安心して介護に取り組めるし、頻繁に会いに行くこともできるんです。

みんなの介護 北欧の充実した福祉を支えているのが、国民からの税金ですね。北欧と言えば、「高福祉・高負担」が有名です。

井手 北欧は確かに高福祉・高負担の国々ですが、僕が富山と比較するためにスウェーデンを取り上げたのは「高福祉・高負担」の国だからではなく、「社会民主主義」の国だから。

21世紀の今日、高福祉・高負担の国を一つ挙げるとすれば、それはフランスでしょう。フランスは長年少子化対策に取り組んでいて、2子以上を養育する家庭に所得制限なしの家族手当、3子以上に家族補足手当を支給したり、3子以上で大幅な所得税減税をしたり、3子以上で年金を10%アップするなど、子どもが多いほど優遇される社会制度を確立し、出生率の向上に成功しました。その分、国民の税負担は重くなり、2017年にはデンマークを抜いて社会保障義務負担率が世界一高い国になっています。

人間が生きていくために必要なことを分かち合う。これが「家族の原理」

みんなの介護 先ほど、スウェーデンを著書で取り上げたのは社会民主主義の国だから、というお話がありましたね。井手さんの著書によれば、社会民主主義は「自由・公正・連帯」という価値に重きを置いていて、それは家族の相互扶助の原理にも近いとか。こうした理解でよろしいでしょうか。

井手 よろしいと思います(笑)。ただし「家族」という言葉を使う場合、家族には2つの面があることを確認しておく必要があります。

ひとつは、ともに生きていく「運命共同体」としての家族です。そこでは、女性はシャドウ・ワークと呼ばれる家事労働に従事させられたり、子どもたちは父親の意見に服従しなくてはならなかったり、かつての日本のように、一種の強制性に支配される関係になります。

もうひとつは、人間の歴史を貫く、生きる原理としての家族です。哲学者のハンナ・アーレントは、「人間は生きていくために必要なことをする」と述べていますが、その、生きるために必要なことを分かち合い、受け持ってきたのが家族と言えます。安丸良夫さんという歴史学者の言葉を借りれば、「生命維持装置としての家族」ですね。家族の原理は万国共通です。

みんなの介護 高齢者を介護することも、まさに生命維持装置としての家族が機能している一例ですね。

井手 その通りです。ただし、その機能を家族の中だけで果たそうとするのか、あるいは社会全体にまで規模を拡大して果たそうとするのかで、社会のあり方は大きく違ってきます。

日本ではまだ、介護の問題を家族の中だけで解決しようという考えが根強いですね。おじいちゃん、おばあちゃんを介護するために、お父さん、お母さんは自分の仕事をある程度犠牲にしなければならない。犠牲にすることが当たり前のことだと考えています。

一方、北欧では、介護の問題を社会全体で解決しようと考えているので、みんなでお金を出し合って、誰もが簡単に介護サービスを受けられる仕組みをつくっている。

このように日本と北欧では、「介護」を家の中だけで解決するか、社会全体で解決するか、明確な違いがあります。これはすごく重要なポイントだと思う。

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