記事

日本企業を蝕む"上から目線"という深刻な病気

1/2

東大のトップ層は大企業よりスタートアップに就職するほうが圧倒的に多いという。なぜ日本企業には優秀な人材が働きたいと思う会社が少ないのか。中西宏明経団連会長との共著『社長の条件』(文藝春秋)で日本復活の鍵を示した経営共創基盤CEOの冨山和彦氏に聞いた——。

■東大生が大企業よりスタートアップを選ぶ理由

経営共創基盤CEOの冨山和彦氏 - 撮影=西田 香織

ホームページの「役員一覧」を開くと、並んでいるのは男性の顔写真ばかり。しかもほとんどが60代、70代の「ザ・日本人」といったおじさんたち。この会社は、役員のなかに女性も、外国人も、30代もいない。

たとえば、ハーバード大やMITで勉強している外国人女性が、就職先探しで日本企業のサイトを開いたら、唖然(あぜん)とするでしょう。「この会社では、いくら頑張っても、数年で高いポジションに就くのは無理だわ」とおそらく瞬時に判断します。

その役員一覧は「わが社は女性、外国人、若者を差別します」と全力でアピールしている。グローバルに通用する優秀な学生たちの目にはそう映ります。

優秀な人材が働きたいと思う会社が少ない。

これも“平成30年間の後れ”を生んだ理由の1つです。

たとえば、東京大学の学生たち。東大生といっても、毎年3000人も入学すればピンきりですから、グローバルな活躍が期待できるほど優秀な学生は数百人でしょう。

その数百人は、どこで働こうとしているか。日本の大企業を挙げるのは少数派です。

とくに、天才と呼ぶべき“知的ギフテッド”な若者たちは、いまやスタートアップしか考えていません。そのほかは、ほぼ眼中にない。自分で起業する、もしくは、設立数年のスタートアップ企業に入る。「自分の才能を確実に活かせるのはどこか?」と考えていけば、自然とそうなるはずです。

■大谷翔平に球拾いをさせるような仕組み

日本の大企業に就職したら悲惨なことになる、と先輩たちから聞いている学生もいます。大学院で人工知能のものすごい論文を書いた新入社員でも、「まずは現場を知ることが大切だから」と、地方の工場に配属される。朝礼では社是や社歌を唱和し、上司に報連相を叩(たた)き込まれ、TQC(統合的品質管理)などの管理技術を学ぶわけです。

せっかく大谷翔平くんが入団してきたのに、「野球がうまいのはわかるけど、まずは球拾いとバット片づけからやって」と、いわゆる雑巾がけからスタートするようなもの。何の疑いもなくそう進む現実を知っています。

撮影=西田 香織

東大のトップクラスだけではありません。冒頭で紹介したように、外国のギフテッドな人材はもっともっと厳しく判断します。たとえば中国出身の女性がMITにいて、専門のガスタービンで最先端の研究論文を書いたとします。もちろん、中国語と英語はペラペラ。さて、自分の能力や研究成果を活かせる就職先はどこだろう、と考える。

アメリカのGEにしようか、ドイツのジーメンスにしようかと迷うなかで、日本の重電メーカーも頭に浮かんで調べてみる。すると、ホームページで、さっきの役員一覧を見てしまうわけです。

■上から目線では、優秀な人材に見向きもされない

さらに、外国人の採用に「日本語が話せること」と条件がついたらナンセンスです。エンゼルスだって、大谷翔平に専属通訳をつけています。ガスタービンの事業で成功するためなら、最先端の研究者に通訳をつけるのは当然でしょう。

むしろ、日本語が堪能な人を選んで採用したら、研究者として世界トップクラスではない可能性のほうが高い。

経営者がいくら「企業は人なり」「人材でなく人財」といったところで、グローバルに戦える人材はちっとも採用できません。日本の大手企業には、いまだに「採用してやる」という上から目線のところがあります。

人気企業は、採用試験にエントリーしてくる学生の数だけはたしかに多い。だから、優秀な人材の採用で外国企業に負けている自覚はないのでしょう。

これは学卒一括採用、終身雇用、年功序列で維持してきた“連続性と同質性が高い組織”の体質でしかありません。「入社後に育てる」が通用しない時代は、はじめからギフテッドな若者を採用するほかないのです。

■新卒年収1000万円は高すぎるか

NECやDeNA、ソニーが、AI研究者などに高い年収を出す制度を導入し、「学卒の新人でも年収1000万円以上になる」と話題を呼びました。

日本の大手企業、とくに製造業であれば、新入社員でいきなり年収1000万円というのは異例なことでしょう。先輩たちの新人時代に比べたら2倍、3倍です。

撮影=西田 香織

しかし学生の側から見れば、驚くに値しません。AIのエンジニアは、20代で1000万円、2000万円を稼ぐのは当たり前。GAFAや中国企業を調べれば、それがグローバル水準だとわかります。NTTが、シリコンバレーでスター研究者を採用するのに年1億円を出すというのも世界標準なのです。

ギフテッドな才能がある若者は、世界中の企業から引っ張りだこ。それなのに、日本の大手企業は「うちで採用してあげようか」と上から目線の態度で接する。見向きもされないのは当然でしょう。

ギフテッドな若者たちは、年収よりも自分の才能をフルに発揮できるかどうかに最も関心があります。ボール拾いやバット片づけより、メジャーリーグの打席に立ちたい。だから、スタートアップを選ぶ。自由に働ける、仕事の成果が認められる、最新のスパコンが使える、といったことのほうが年収よりも大切なのです。

この若者たちは「大きな組織はとにかく面倒くさい」と考えています。ムダな会議が繰り返される。稟議書にハンコが多い。何かはじめようと計画すれば「それはいかがなものか」と横やりが入る。ちょっと炎上すれば、責任問題だと大騒ぎになる。出張規定なども細かくて融通がきかない。それらがものすごいストレスを生むことが、大企業のほうはわかっていません。

あわせて読みたい

「雇用・労働」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    街宣右翼に山本太郎氏「おいで」

    田中龍作

  2. 2

    よしのり氏 枝野氏は認識が甘い

    小林よしのり

  3. 3

    日本は最も成功した社会主義国

    自由人

  4. 4

    よしのり氏「化石賞」報道に苦言

    小林よしのり

  5. 5

    英選挙 労働党の敗因は左派政策

    岩田温

  6. 6

    安倍首相は「気の弱いホステス」

    NEWSポストセブン

  7. 7

    シン・ウルトラマンに見るヲタ魂

    krmmk3

  8. 8

    「独裁」の日本で香港人がデモ

    田中龍作

  9. 9

    出版社が電子書籍化に消極的な訳

    かさこ

  10. 10

    「沢尻逮捕は陰謀」を識者が検証

    SmartFLASH

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。