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【年金をめぐる“故意”の空騒ぎ⑤】結論。長く生きるなら、長く働き、長く収めるというリバランス(海老原嗣生)

65歳まで働くのに年金の払い込みは60歳まで!?

2019年の年金財政の検証では、こんなオプション試算が付されていた。

それは、年金拠出期間を延ばし、同時に、年金を受給開始する年齢を後ろ倒しにする、という内容だ。こちらについての批判も多々聞かれる。要は「いつになったら年金をもらえるんだ!」という類の話だ。こうした批判の根本的な誤りは最後に回して、ひとまずその試算がどのようなものかを見ておこう。

現在、基礎年金(1階)は60歳まで、厚生年金(2階)は70歳まで払い込みが可能だ。

一方、年金の受給開始については、基礎年金は65歳から、厚生年金については年齢引き上げ経過措置の最中にあり、現状では女性は61歳、男性は63歳から受給が基本とされる。ただし、受給開始は本人の希望で60歳~70歳まで設定でき、前倒しをすれば減額、後ろ倒しをすれば増額となる。


そこで、今回の試オプション算では、就労を続け、さらに年金の拠出を続けた場合、もらえる年金はどのようになるか、という試算を行っている。

65歳まで「働き・払う」と年金水準は相当上がる

標準的な経済シナリオのもとで、年金拠出を①基礎年金は60歳(現行まま)、厚生年金は65歳まで続けた場合は、所得代替率53.9%(現状は61.7%)。②基礎年金も厚生年金も65歳まで拠出を続けた場合の所得代替率は57.5%と著しい水準アップが実現する。ちなみに、この仮定で、現状の所得代替率61.7%を維持するには、受給開始年齢を66歳9か月まで後ろ倒しにすればいい。試算の均衡点、2047年ごろに、今よりも1年9か月は長く働くということだ。28年後にこのぐらいも就労延長はおかしくもないだろう。

海老原嗣生

オプションでは「厚生年金を70歳まで支払い、受給開始も後ろ倒しにした場合」の試算もあり、この場合は、現状と同じ60歳での拠出終了で、所得代替率は71%となり、この場合、夫婦二人世帯であれば毎月3万円ほど黒字になるという。

年金財政をリバランスさせる「当たり前の方法」

ここで根本的な問題に立ち返ることにしよう。

そもそもなぜ、少子高齢化が賦課方式になぜダメージを与えるか?それは「年金を拠出する人と、年金を受け取る人のバランスが崩れることが」問題なのだ。だとすれば、人為的にそれをリバランスすればいい。それは、出生率の回復という「神の導き」以外にも、政策的にいくらでも実現可能だ。方法は3つ。

■年金を払い込む期間を今よりも伸ばす。
■年金をもらい始める年齢を後ろ倒しする。
■年金制度のカバー範囲を広げる。

こうした法律改正による制度変更で、現役:高齢世代比などいくらでもリバランスができる。寿命が延び、産業構造が変わるたびに、それを行えばよい。

現在は60歳で基礎年金の拠出は終了するが、これを雇用延長された65歳まで延ばす。こうすることで年金料を支払う現役世代は増加する。賦課方式は、こうして調整するのが良い。さらに将来的には定年を68歳~70歳まで雇用を延長していく。少子高齢化のために社会は人手不足だ。だから、こうして新たに生まれる前期高齢者世代の労働を、企業は歓迎するだろう。結果、現役:高齢者比率は人為的に変えていける。

オプション試算はこうした「当たり前の」一手を示唆しているのだ。

「もらい過ぎ」は寿命が延びたのにリバランスしないから起きた

もともと、1960年の国民年金制度開始時点では、そもそも65歳男性の平均余命は11年あまりだった。それが現在では18年にも伸びた。結果、年金の受給期間は11年から18年にも延び、「現役世代の負担増」が起きた。ならば、18年という期間を短縮し、また、40年という拠出期間を延ばすのが合理的帰結といえよう。

こうしたごく当たり前のことに対して、「政府の設計ミスだ」「いつになったら年金がもらえるんだ」「かつての人は得をしている」という批判の声が上がる。そして、そちらを正論としてとらえるから、いつまでたっても空騒ぎは終わらないのだろう。

年金制度開始から昨今までの一部世代は、確かに「11年のはずが18年ももらえて」しかも「拠出も少なく」得をした。それは事実かもしれない。ただ、それは一部世代が得をしただけの話で、今後は少子化も底打ちし、寿命の伸長も鈍くなる。つまり、これからの世代と今を比べた場合、年金は成熟期を迎えて、より公平感が増していくはずだ。そうした中では、ごく当たり前の選択として「寿命が延びたら、その分長く働き、長く年金を拠出する」というバランス法が当然の選択肢になっていくだろう。いつまでも、一部世代と比較して、「俺は損をしている、だからこの制度をこわせ」というのは、やめにしよう。

結局、考えられないほどの長寿高齢化が進展したことが政策的ミスよりも大きな問題だ。ただ、長生きできるようになったことに文句を言う人はいないだろう。ならば、その対価を支払うべき。それが「長く働き、長く収める」ことなのだ(とはいえ、オプション試算で示唆されているのは、今と同等に働き、収める期間だけ働き相応に延ばすだけで良いということだが)。

少子高齢化の中でやるべきことは2つ。

一つは、これを止めること。

もう一つは少子高齢化を受け止め、適正な社会フォーメーシヨンを敷くこと。その一環として、誰もが長く働き、長く収める。こうやって、社会は生産力ダウンを免れ、個人は年金不足にならないようにする。適用拡大と拠出延長は、まさに、少子高齢化への社会フォーメーションに他ならない。

続きは「年金不安の正体」にて

プロフィール

海老原嗣生(えびはら つぐお)
中央大学戦略経営研究科客員教授、雇用ジャーナリスト・株式会社ニッチモ代表取締役。株式会社リクルートキャリアフェロー(特別研究員)、株式会社リクルートワークス研究所特別編集委員。「Works 」(リクルートワークス研究所)編集長、「HRmics 」(リクルートエージェント)編集長を歴任。

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